"浴室の鍵" 第1話
ああ。う、まただ。閉ざされた浴のドアの向こうから今も母の苦しげなうめき声が聞こえてくる。 「おばあさん、気持ちいいですか?しっかり温まってくださいね。」 音に混じって義理の甥・達也の爽やかな声が響くけれど、その声を聞くたびに私の背筋にはたいものがった。 なぜ彼は母を入浴させる、必ず脱所の内鍵をかけるのだろうか。 このの私はまだらなかった。その鍵の向こう側で、私の像を絶するおぞましい計画がしていたことなど。
「ゆみ子、お茶はまだか?何度言わせるんだ?」 リビングのソファにく腰かけた夫・浩司が苛たしげに聞をめくる音をてた。 計の針は夜の 8 を回ったところだった。
「ごめんなさい。今入れるわ。」 私はキッチンから急いで湯呑みを運び、テーブルにそっと置いた。 浩司は私の顔を見ることもなく、ただを鳴らして湯呑みをに取った。 結婚して 25 。これが私たち夫婦の常だった。 メーカーの営業部として働く浩司は昔から、男はで稼ぎ、女はを守るものという古い価値観を疑わないだった。 私がしでも自分の見を言おうものなら、「誰ので飯をえているとっているんだ」と鳴り散らされる。 波をてるくらいなら私がすればいい。 そうやってを押し殺し、夫の顔を伺う々をねてきた。
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しかし数から、私の活はさらに苦しいものに変わった。 実の母・きよが認症を患ったのだ。 父をくにくし、女つで私を育ててくれた優しい母。 その母がしずつ記憶を失い、で活することが困難になってしまった。 私は母を引き取り、こので同居しながら介護をすることを決した。
「俺の稼いだでわせているのだから、おの親の面倒くらいで見ろ。」 母を連れてきた、浩司はたくそう言い放った。 その言葉通り、浩司は介護には切関わろうとしなかった。 母が夜に騒ぎを起こしても、自分の寝のドアを締め切り、翌朝には「うるさくて寝られなかった」と私を攻めてた。 事の準備、排泄の世話、入浴の介助。 終わりの見えない介護と夫からの遇。 私のはしずつ、しかし確実にすり減っていった。
そんなあるのことだった。 「おも毎変だろう。親族のつてでく引き受けてくれる男性介護師を見つけた。」 夕の席で浩司が突然そう切りしたのだ。 驚いて顔をげると、浩司はどこか得げな表を浮かべていた。 「俺が頼み込んでやったんだ。謝しろよ。」
翌、にやってきたのは浩司の妹の息子、つまり私の義理の甥にあたる達也だった。 30 代半になる達也は訪問介護の資格を持っているという。
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彼は玄関につなり、なつっこい笑顔で私にをげた。 「ゆみ子おばさん、いつもお疲れ様です。しでもおばさんの負担を減らしたいとってきました。おばあちゃんのこと、僕に任せてください。」
爽やかで優しい青の言葉。 本来なら涙がるほど嬉しい申しだったけれど、私はその、達也の笑顔の奥にほんの瞬だけたいのようなものを見た気がした。 それは気のせいだったのだろうか。 私は今、その親切な甥が内鍵をかけた浴のドアので、ただち尽くしている。 からは母の切ないうめき声がの音に消されるように漏れ聞こえていた。 たいが、荒れ果てた私の両を赤く染めていく。 台所のシンクでこびりついた夕の汚れをスポンジで擦りながら、私はさくため息をついた。
「またお皿の裏に汚れが残っていたぞ。おは本当に何をやらせても気が回らないな。」 先ほど夫の浩司から投げつけられた言葉が、たい音に混じっての奥でチクチクと蘇る。 結婚して 25 。こので私はずっと、自分のを殺すことを仕事にしてきてきた。
見いで結婚したのは私が 27 歳のだった。 当の浩司は今よりもずっと数がなく、器用ながらも真面目で優しい青だった。 「僕はだけど、ゆみ子のことは切にするよ。
」 お見いの席でし照れ臭そうにそう言ってくれた彼の横顔を、私は今でも覚えている。
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