"スイカ畑の12年" 第3話
そんな、全く予していなかった物が現れた。
松本から来た正司という男だった。
は佐藤茂夫にを貸していたと言った。額は300万円。返済の約束は715。佐藤が消えたから、わずか10だった。
「佐藤さんは、のために逃げたんです。私が催促したら、数から話にもなくなりました」
警察は再び夜逃げの方向へ傾きかけた。
しかし伊藤夫は、に1つだけ質問した。
「300万円を貸してくれと言ってきたのは、いつですか」
は答えた。
「6の旬です」
伊藤の表が変わった。
6旬といえば、スイカが順調に育っていた期である。収穫さえすればが入る状況で、なぜを借りたのか。しかも、わずか1かに返す約束で。
何か急いでが必だった。
そのがどこへったのか、誰もらなかった。
伊藤はそこから、佐藤茂夫が借りた300万円の方を自分ので追い始めた。
そして10以かけて、1つの話にたどり着いた。
6の終わり、佐藤茂夫が本武志に封筒のようなものを渡していたのを見たという若者がいたのである。
警察が本を再び呼ぶと、本は平然と答えた。
「受け取ったのは事実です。でも、あれは昔貸したを部返してもらっただけです」
帳簿も証もなく、確認する方法はなかった。
捜査はまた壁にぶつかった。
広告
その、今度は女はるかの担任だった林彩が現れた。
彼女は、はるかが失踪の2週ほどに話していたことをいしたという。
「お母さんが最よく泣いているの」
林が理由を尋ねると、はるかは言った。
「お父さんが夜どこへっているのか、お母さんにも分からないんだって。らないおじさんがに来ると、お父さんの顔が真っになるの」
らないおじさん。
父親の顔が真っになる。
伊藤夫は、その言葉を聞いた瞬、背筋が凍るいがした。
警察は正司を再び呼び、佐藤に直接ったことがあるのか尋ねた。
はしを置いてから答えた。
「1度だけきました。6末に1度。佐藤さんがすぐ返すと言ったので、そのまま帰りました」
その「1度」が本当かどうか、誰も確認できなかった。にも疑いが向けられたが、彼にもアリバイがあった。佐藤が消えた期、は松本でたちと数緒にいたという。3が、同じ証言をした。
本にもアリバイがある。
にもアリバイがある。
疑わしい者はいるのに、どちらにもが届かない。
伊藤夫は、夜、宿の部で1本酒をみながら考えた。
アリバイがあるということは、本当に潔だというなのか。
それとも、アリバイを作っただというなのか。
その夜、伊藤の部の扉のに、1枚のが差し込まれた。
広告
気づいた伊藤は、に落ちていたメモを拾いげた。
そこには、乱れた跡で、たった1文だけかれていた。
「これ以かかわるな」
伊藤はしばらくそのを見つめた。
怖くなかったわけではない。むしろ、背にたい汗が流れた。だが、それ以に腹がった。
誰かが、自分を止めようとしている。
それは、何かを隠している証拠だとえた。
伊藤はそので警察へき、メモを提した。警察は証拠品として受理したが、跡鑑定にはがかかると言われた。当の鑑定は今のようにすぐむものではなく、単なる脅迫メモ1枚では回しにされる能性もあった。
伊藤は肩を落とした。
それでも諦めなかった。
宿へ戻るで、彼は奇妙なものを目撃した。
夜9を過ぎた頃、本武志が佐藤の農園へ続くを歩いていたのである。
伊藤と目がうと、本は瞬ち止まった。だが何も言わず、そのまま通り過ぎた。
翌朝、伊藤はの入でいがけない物に会った。
佐藤茂夫のい親戚だという佐藤昭夫だった。は50歳。仙台からやってきたという。
昭夫は、伊藤に慎に話を切りした。
「茂夫さんがいなくなるに、私に話をかけてきたことがあります」
「いつですか」
伊藤が尋ねると、昭夫は答えた。
「6末です。収穫が始まる直でした」
その話で、佐藤茂夫はこう言ったという。
「昭夫さん、私、ちょっと恐ろしい状況なんです。うまく解決したら、で話します」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
24年目の手紙
1978年、神戸の坂の町で、12歳の少年・健二が自宅前から忽然と姿を消した。 母・よし子が最後に見たのは、新しく買ってあげた真っ白なスニーカーを履き、嬉しそうに坂道を駆け下りていく息子の後ろ姿だった。 学校にも行かず、家にも戻らなかった健二。近所の証言では、彼は知らない男と笑いながらバスに乗っていたという。警察は「家出」と見なしたが、よし子だけは信じなかった。 息子は必ず帰ってくる。 そう信じて、よし子は24年間、古い家を離れず、毎年6月になると玄関に新しい白いスニーカーを置き続けた。 そして2002年の夏、アメリカから一通の書留が届く。 差出人の名前は――高橋健二。 そこに記されていたのは、24年前のあの日、少年を連れ去った人物の名前と、母が知らなかった残酷な真実だった。ミステリー|真実2.0萬字5 6 -
完結第23話
40.4℃の真実
40.4℃の高熱で救急搬送された、二十歳の女子大学生。 医師は最初、ただの重い感染症だと思っていた。 しかし、診察のために服を少しめくった、その瞬間――診察室の空気は凍りつく。 彼女の身体には、病気では説明できない痕跡が残されていた。 なぜ誰も気づけなかったのか。 彼女は誰にも助けを求められなかったのか。 そして、彼女が涙を流しながら口にした「脅迫されました」という一言が、事件を思いもよらない方向へ動かしていく。 真実を追う刑事。 娘を守ろうとする両親。 そして、権力と金を持つ一人の男。 ページをめくるたびに新たな疑惑が生まれ、最後まで真相が読めない医療サスペンスです。 あなたなら、この事件の真犯人が誰だと思いますか?人生逆転|真実|裡の顔|真相3.5萬字5 146 -
完結第25話
妻のポーチから見つかった結婚指輪
結婚二十二年。 私は、自分たち夫婦ほど平凡で幸せな家庭はないと信じていた。 仕事を頑張る妻を支え、娘を育て、老後のために二十年以上かけて少しずつ貯金を続けてきた。 それが私の人生だった。 だが、妻の出張帰りの荷物を片付けた、たった一度の善意が、その人生を根底から覆すことになる。 下着のポーチの奥から見つかった黒い箱。 その中には、見知らぬ男との結婚指輪と、私たちの老後資金二千百五十万円が入った、別名義の預金通帳が隠されていた。 愛していた妻。 二十年以上親友だと信じてきた男。 そして、私だけが何も知らないまま利用され続けていたという残酷な真実――。 これは、一人の夫がすべてを失い、すべてを取り戻すまでの記録である。真実|裡の顔|真相|ATM扱い|金銭問題|修羅場3.8萬字5 151 -
完結第18話
浴室の鍵
「どうして、お風呂のたびに鍵をかけるの?」 その小さな違和感が、家族のすべてを壊す始まりだった。 認知症の母を介護する専業主婦・ゆみ子は、夫の紹介で甥の達也に介護を手伝ってもらうことになる。 礼儀正しく、優しく、介護の知識も豊富な達也。 誰もが彼を信頼していた。 だが、浴室の鍵が閉まるたび、母の表情は恐怖に変わり、身体には説明のつかない痣が増えていく。 誰にも信じてもらえない中、ゆみ子は密かに証拠集めを始める。 そこで明らかになったのは、高齢者虐待だけでは終わらない、家族の欲望と裏切りだった。 最後に暴かれる真実は、あなたの想像を超える。真実|裡の顔|真相|親子関係|介護|修羅場2.7萬字5 333 -
完結第8話
消えた女性巡査
2003年春、群馬県の伊香保温泉街で、24歳の女性巡査・田中美咲が勤務中に忽然と姿を消した。 最後の無線は「これより署に戻ります」という、ごく普通の報告だった。だがその後、美咲は警察署へ戻ることなく、携帯もつながらず、温泉街から完全に姿を消してしまう。 家族、同僚、地域の人々が必死に捜索を続けたが、手がかりは見つからない。観光客で賑わう石段街、防犯カメラの少ない時代、廃業した旅館、そして誰にも気づかれなかった空白の時間――。 事件は未解決のまま、16年の歳月が流れた。 しかし2019年、古い防犯映像の再解析によって、美咲が最後に向かった可能性のある場所が浮かび上がる。 それは、温泉街の奥にひっそりと残された廃旅館「松風荘」だった。 朽ちた建物の地下室で見つかったのは、錆びついた手錠と小さな鍵。そして壁に刻まれていた、ある名前。 16年間、湯けむりの中に隠されていた真実が、ようやく動き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 71 -
完結第6話
春雨に消えた妻
1992年春、港北ニュータウンに暮らす42歳の主婦・鈴木順子は、高校卒業20周年の同窓会へ出かけた。 家事と義母の世話に追われる毎日の中で、久しぶりに見せた明るい笑顔。夫の高幸は、そんな妻を玄関で見送った。だがそれが、彼が見た最後の姿となる。 同窓会の夜、順子は店を出たあと忽然と姿を消した。通帳も衣類も家に残されたまま。家出の準備など何ひとつなかったにもかかわらず、警察は早々に「自ら姿を消した可能性」として処理してしまう。 それから31年。 妻を待ち続けた高幸の時間は、あの日の春で止まったままだった。一方で、同窓会に出席していた同級生・高橋健二は、事業を広げ、家庭を持ち、何事もなかったかのように人生を進めていた。 しかし2023年秋、古い住宅の取り壊し工事中、庭の祠の下から女性の遺骨が発見される。 31年間、土の中に隠されていた真実。 妻の髪を大切に残し続けた夫の執念が、ついに“友人の顔をした男”の醜い罪を暴き出す――。ミステリー|行方不明9.0千字5 145 -
完結第9話
霧の峠に消えた後継者
1995年秋、長野の霧深い峠道で、1台の黒塗りの高級車が見つかった。 車内には鞄と別荘の鍵だけが残され、運転していたはずの男の姿はどこにもなかった。行方不明になったのは、東京・銀座の名門財閥の3代目後継者、総一郎。28歳の若さで一族の未来を背負うはずだった青年だった。 誘拐か、事故か、それとも自らの失踪か。 身代金の要求もなく、遺体も見つからないまま、事件は長い年月の中に埋もれていく。やがて一族では、総一郎の従兄・涼介が新たな当主となった。 しかし15年後、時効が目前に迫ったある日、総一郎の妹・佐和子は古い資料の中に小さな違和感を見つける。 車に残されていたはずの「別荘の鍵」。だが、それは兄がいつも持ち歩いていた本物の鍵入れではなかった。 消えた鍵入れはどこへ行ったのか。 そして、霧の峠で総一郎は本当に何者かに消されたのか。 時効前日、佐和子と元刑事・沢田は、すべての答えが眠る軽井沢の別荘へ向かう。そこで見つかった一冊の手帳が、15年間閉ざされていた財閥一家の真実を静かに暴き始める――。ミステリー|真実1.3萬字5 133 -
完結第5話
志摩の海に沈んだ母
1994年、三重県志摩の小さな漁村で、70歳を過ぎても海に潜り続けていた海女・高島梅野が突然姿を消した。 その朝、海は穏やかだった。仲間の海女たちは確かに梅野の姿を見ていた。けれど日が高くなっても、彼女だけが水面に戻ってこなかった。捜索は続いたが、亡骸も道具も見つからない。 事故なのか、失踪なのか。 梅野には3人の息子がいた。東京に住む長男、大阪で商売をする次男、そして島に残って母の近くで暮らしていた末の息子・正斗。やがて警察は、梅野が持っていた土地と、息子たちの金銭問題に目を向ける。 だが決定的な証拠はなく、事件は海に沈むように忘れられていった。 それから16年後。 東京・港区で、行方不明のはずの梅野名義の「3億円ビル」が見つかる。しかも名義移転は、彼女が姿を消した後に行われていた。 誰が、母の名義を使ったのか。 古い家に残された血痕、かまどの灰から出てきた金の指輪、そしてタンスの奥に隠されていた一通の遺言書。 志摩の海に消えたはずの真実が、16年後、静かに浮かび上がる――。ミステリー|真実7.7千字5 54