"赤いドレスの代償" 第1話
「どきなさい。そこはこれからの妻、美が座る席だ」
娘のれ台である結婚式、その親族控の空気は、夫が放ったその言で瞬にして凍りついた。私の目のにっているのは、26連れ添った夫の健。そしてその腕にべったりとすがりついているのは、厳かな式にはあまりにも釣りいな、真っ赤なドレスを着た若い女だった。
夫は私の隣で刻みに震えている娘の菜々の気持ちなど切考えることなく、酷な目で私を見ろした。私は何も言わず、ただ静かにちがり、親族の末席へと移した。このの夫はまだらなかった。数分、この結婚式で彼が最も恐れる物が、私に対してくをげることになろうとは。
純のウェディングドレスにを包んだ菜々は、控のソファで声を詰まらせていた。今は彼女が世界で番幸せになるべきだ。それなのに、実の父親がを連れて堂々と親族控に乗り込んできたのだ。 「お父さん、どうして今そんなを連れてきたの? お願い、帰って!」 菜々が涙声で訴えかけるが、健はで笑っただけだった。 「おのためをって来てやったんじゃないか。それに美はもうすぐおのしい母親になるんだ。今のうちに挨拶くらいしておきなさい」
健の隣で、の美が勝ち誇ったように微笑んだ。
広告
彼女は健の会社の元経理で、齢は38歳。私よりもずっと若く、派なメイクと体に密着した赤いドレスは、あまりにも品だった。 「菜々ちゃん、ご結婚おめでとうございます。健さんからいつも聞いてるわよ。今から私も親族としてよろしくね」
美が甘ったるい声で言うと、控に集まっていた私の親戚や夫側の親戚たちのに、ざわめきと気まずい沈黙が広がった。しかし、夫側の親戚は皆見て見ぬふりをして目を伏せている。健が親族ので番稼ぎが良く、誰も彼に逆らえないからだ。 「おい、さっさとそこを譲れ。美が疲れるだろうが」 健の無な声が控に響く。婦の母が座るべき、菜々のすぐ隣の席。そこをにけ渡せというのだ。 「お母さん、ダメよ! どかないで!」 菜々が私のをく握りしめた。そのは氷のようにたかった。私は菜々のを優しく握り返し、ゆっくりとちがった。 「いいのよ、菜々。今はあなたの結婚式。揉め事は起こしたくないから」
私は静かな声でそう言い、部の番ろ、扉にい壁際の子へと移した。 「ふん、物分かりのいいことで。最初からそうやってしくしていればいいんだ」 健は満そうに笑い、美を私の座っていた席に座らせた。美は菜々の隣で自分の赤いドレスの裾を直しながら、ふとさな笑い声を漏らした。
広告
私ののには、言葉にならないが渦巻いていた。26、毎朝く起きてお弁当を作り、健が会社をちげたは寝るも惜しんで内職をして計を支え、をした菜々を背負って夜の病院にった々。そのすべてのを、夫はこんなにも簡単に踏みにじった。
だが、私はここで泣き叫んだり、りにを任せて美を追いしたりするつもりはなかった。もしそんなことをすれば、郎の直さんやあちらのご族にきな迷惑がかかる。何より、菜々の結婚式というに度のいを修羅にしてを塗るようなことだけは、絶対に避けたかった。私は母親として、ただ耐えることを選んだのだ。
「もなく郎様側のご親族がいらっしゃいます」 式のスタッフが申し訳なさそうに声をかけ、控の扉がかれた。入ってきたのは、郎の直さんと彼のご両親、そして数名の親族だった。 「お、いらっしゃいませ!」 健は態度を急変させ、げさな笑顔を作ってちがった。郎の父である佐藤さんは、全国にその名をられる巨企業「佐藤ホールディングス」の会だ。健の経営する堅部品メーカーなど、元にも及ばない物である。健は最業績が傾きかけている自分の会社をて直すため、なんとかこの結婚をに、佐藤ホールディングスとの取引を始めようと企んでいた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1385 -
完結第15話
介護で表彰される嫁――私は認知症に仕立てられた
手首を骨折し、息子夫婦の家へ身を寄せた68歳の文江。嫁・沙耶香は、物忘れが進んだ姑を献身的に介護しているように見せ、日常を動画で配信していた。 だが文江は認知症ではなかった。砂糖と塩を入れ替え、スマートフォンを隠し、同じ質問を繰り返すよう指示する――すべては再生数と広告収入を得るための演出だった。しかも息子も、その事実を知りながら黙認していた。 沙耶香が「献身的な嫁」として表彰される当日、巨大スクリーンに流れたのは感動映像ではなく、撮影前に姑へ演技を命じる未編集動画だった。そして文江は車椅子を使わず、自分の足で壇上へ向かう。 家族に病気も財産も人生も利用された女性が、自らの声と尊厳、そして「撮られない権利」を取り戻していく逆転と再生の物語。因果応報|嫁姑|認知症2.2万字5 896 -
完結第15話
暗証番号0427――元夫が残した24回の送金
離婚の日、朝倉美月は夫の優馬から1枚のカードを渡された。「これで最後だ。暗証番号は0427」――冷たく突き放された美月は、そのカードを3年間使えずにいた。失業し、預金が7300円まで減ったある日、ついにATMへ入れるとエラーが表示され、銀行員から別室へ案内される。そこで知らされたのは、優馬が前年11月9日に亡くなっていたこと。そして口座には、離婚後も毎月27日に9万円ずつ、合計24回の送金が続いていた。残高808万円と古い喫茶店に込められた真意を知った時、美月は、愛情を理由に人生を決められた怒りと向き合いながら、自分自身の答えを選び始める。夫婦|金銭問題|熟年離婚2.0万字5 5142 -
完結第11話
息子に捨てられた母の逆転
「お母さん、今日は少し外へ出ませんか」 息子夫婦に誘われ、70歳のはる子は雪の降る夜、車の後部座席へ乗った。 ところが車は町を離れ、山沿いの介護ホームの前で止まった。 「数日だけ、ここで休んでください」 そう言われた時、トランクから自分のスーツケースが出てきた。 荷物はいつの間にか詰められ、携帯電話は嫁に取り上げられた。 息子は「また来るから」と言い残し、母を301号室へ置いて帰った。 翌日、嫁は面会に来るなり尋ねた。 「通帳はどこですか? 実印は?」 さらに、見覚えのない白い錠剤を「いつもの薬」として渡してきた。 はる子は黙って薬を受け取り、認知症のふりを始めた。 そして翌日の病院で、嫁が電話口で話す声を聞く。 「診断が出たら、家も通帳も動かしやすくなるでしょう」 はる子はその会話を、コートの内側に隠した一本の録音機へ残していた。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|介護|金銭問題1.7万字5 392 -
完結第11話
両親を亡くした私が旅行から帰ると、実家が消えていた
両親を相次いで亡くした美穂に、夫・雅也が突然、一週間の温泉旅行を贈った。初めて見せた思いやりを信じて家を空けた美穂だったが、帰宅すると、思い出の詰まった実家は跡形もなく解体されていた。 雅也は土地を売り、その金で義実家を二世帯住宅にするつもりだった。しかし美穂が遺産を相続したというのは、三人の勝手な思い込みだった。名義変更前の家を無断で壊し、所有者の承諾書まで偽造した疑いが浮上する中、美穂は両親の思い出を奪った夫と義両親への反撃を始める。因果応報|嫁姑|夫婦|金銭問題1.7万字5 955 -
完結第17話
三日待て――命を懸けて起爆盤を粉砕した現場主任、120人を救い500億の黄金を暴く
奥羽鉱業・黒竹事業所で23年無事故を守り抜いてきた発破主任の酒井誠一は、ある朝、巨大な黒蛇の夢と坑道の異様な臭気から「発破を三日待て」と直訴する。しかし、工期短縮と300万円のボーナスに目が眩んだ現場監督・高木は酒井を即刻解任し、発破を強行しようとする。起爆まであと数秒、酒井は職を賭して大ハンマーで起爆装置を叩き壊した。 「狂人」と罵られ資材庫に監禁された酒井だったが、本社保安部長の介入と手帳に残された緻密な記録によって、高木の日報改ざんが白日の下に晒される。そして約束の三日目の朝――全坑内員120名が退避を完了した直後、山は地獄の咆哮とともに大崩落を起こした。九死に一生を得た男たちが崩落断面で目撃したのは、神の導きか、500億円の超高品位金鉱脈だった。職場逆転|因果応報3.2万字5 236 -
完結第14話
今日でクビだ」黒蛇の夢を信じて280万円の起爆装置を壊した俺。3日後、127人が退避した直後――山が崩れた
黒竹鉱山で24年間働く発破主任・酒井誠一は、黒蛇から「3日だけ待ってくれ」と告げられる夢を見る。第4区画の異臭、増えた湧水、変化した岩の反響にも危険を感じ、発破の延期を求めるが、高木監督は彼をその場で解任。さらに、同じ地点で繰り返されたガス警報まで日報から消されていた。工程を3日短縮すれば、高木には80万円の報奨金が入る。午後2時、未署名の確認表を無視して起爆準備が始まる中、酒井は工具箱からハンマーを取り出した。仕事も生活も失う覚悟で手に入れた3日後、127人の運命と山に眠る秘密が動き始める。因果応報2.0万字5 204 -
完結第15話
炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男
正木電気の新人・潮見知夏は、猛暑の中で草むしりを強要され、総務部長・黒岩から執拗な嫌がらせを受けていた。五年ぶりに本社へ戻った滝川武は彼女を救い、腐敗した職場の実態を静かに探り始める。 知夏は書類整理中、解約済みの植栽会社へ毎月五十万円が送金され続けている事実を発見。その直後、地下倉庫へ追放され、ついには炎天下で倒れてしまう。滝川と堀田課長は、黒岩と八谷常務による総額二億三千万円の横領証拠を揃え、臨時役員会を招集する。 そこで滝川が専務執行役員であることが明かされ、帰国した正木社長も黒岩を追及する。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 781 -
完結第12話
夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃
30時間の夜勤を終えて帰宅した看護師・南を待っていたのは、義母によって交換された玄関の鍵だった。「反省したら土下座しに来なさい」という連絡に、南は「そうですか。では、さようなら」とだけ返信する。 だが、義母と無職の夫は知らなかった。その高級マンションは、南の勤務先が契約する借り上げ社宅であり、家賃も生活費もすべて南の収入で支えられていたのだ。 南は騒がず、締め出しを自白したSNS投稿を保存。社宅の退去手続き、電気・水道・ガスの解約、弁護士への離婚依頼を淡々と進める。月曜日の午後5時、部屋の明かりが消え、管理会社と警察が玄関に現れた。 自分を家政婦のように扱った家族との関係を断ち切り、誇りある仕事と人生を取り戻す女性の、静かで痛快な逆転物語。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係1.9万字5 5924 -
完結第12話
失踪した妻を道の駅で見つけた――「来ないで」と怯えた理由
「パパ、あの人……ママじゃない?」 半年前に消息を絶った妻が、山あいの道の駅で宝くじを売っていた。 車椅子に座り、別人のように痩せていた。 娘が「ママ!」と駆け寄ると、妻は青ざめて叫んだ。 「来ないで! 私はあなたたちを知らない!」 だが左手には、私が贈った結婚指輪。 そして手の甲には、見慣れた2つのほくろがあった。 「本当は、ずっと会いたかった」 妻は泣きながら娘を抱きしめた。 その直後、震える声で私に告げた。 「私が帰ったら、あなたと杏奈まで消される」 さらに宝くじ箱を差し出し、底を指さした。 そこには、妻が消息を絶った夜の“声”が残されていた――。 (続)因果応報|人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係1.9万字5 2191