"録音機が暴いた義実家" 第1話
「ちょっと親父の用事で、ホームセンターにってくるよ」
私が何気なくそう言った瞬、台所でエプロンをきゅっと結んでいた妻の弓の肩が、ピクリと自然にねがった。
私は彼女のその怯えたような反応に胸を痛めながらも、何事もないようにいつもの穏やかな表を装った。実のリビングへと線を向けると、そこにはソファーに腰掛けて品な笑顔を浮かべる母親の浩子と、その隣で爪を弄りながら笑いを浮かべる妹の美穂がいた。の「気をつけてね」という優しい声に背を押されながら、私は実のな玄関ドアをけてにた。
しかし、へ踏みす私の胸の内は激しく波っていた。実をにする弓がにつけているエプロンのポケットには、私が彼女に気づかれないようにこっそりと忍ばせた、親指ほどのごくさな録音が入っていたのだ。
このの私は、まだ何も分かっていなかった。で自宅に持ち帰り、静まり返った自で再することになるその音声データが、私がこれまで頑なに信じ込んでいた「仲の良い幸せな族」という美しいを無惨なまでに々に打ち砕くことになるなど、にもっていなかった。そして、する妻がたった1で暗の底で耐え続けていた、壮絶な獄の扉をくことになるのだとは。
広告
ことの始まりは、今から数ヶにまで遡る。
私と弓は結婚して、今で7になる。私たちのには、5歳になる元気いっぱいでらしい娘のナナという宝物にも恵まれ、3でささやかで穏やかな毎を送り続けていた。
弓は本当に優しくて、それでいての芯がとてもい女性だった。毎朝、私が起きるよりもずっとくから台所にち、丁寧に作りした私のお弁当を用してくれた。休の朝になれば、さなナナのを引いて所の公園を緒にり回ってくれるような、太陽のようにるい母親でもあった。
私が遅くまで残業し、疲れ果てて自宅のドアをけた夜には、温かい夕をテーブルに並べて待っていてくれた。彼女は自分の疲れをみじんも見せず、文句ひとつ言わずに私の仕事の愚痴を優しく微笑みながら聴いてくれたのだ。結婚してから今というまで、私は自分の築きげた庭が、世界で番幸せな所だと本気で信じ込み、のんきに暮らしていた。
しかし、そんな私たちの平穏な常に、しずつ奇妙なが差し込み始めたのは、で1ほどの距にある私の実へ頻繁に顔をすようになってからのことだった。
父の雄がし体調を崩したこともあり、配した私が「せめてに2回くらいは実に顔をそうか」
広告
と弓に提案したのがすべてのきっかけだった。弓はその、台所のを止めて振り返り、嫌な顔ひとつせずに同してくれた。 「お父さんの体調、配だもんね。ナナの元気な顔を見せたら、しはんで元気になるかもしれないし、私も賛成だよ」
彼女はそう言って、私をさせるように優しく笑ってくれたのだ。
それなのに、実での滞を終えて自宅へと帰宅するたび、助席に座る弓は、見るからにひどく疲れ果てた表を見せるようになっていった。
最初は、慣れないの移やの滞で体力を消耗したのかな、くらいにしかっていなかった。だが、あるの夜のことだった。
私がふと目を覚まし、トイレにこうと静まり返った寝のドアをたのことだ。暗い廊をむと、洗面所の方から、かすかにをすするような音が聞こえてきた。
気の消えた暗い洗面所のドアの隙から、私は息を殺してそっとを覗き込んだ。そこには、たいのにさくなってしゃがみ込んでいる弓の姿があった。
弓は両で自分のをく抑え、漏れそうになる声を必に押し殺して堪えながら、粒の涙をポロポロとに流していたのだ。のに照らされた彼女の震える背を見た瞬、私はまるで臓をたい鉄ので掴みにされたような、恐ろしい覚に陥った。
「弓、どうしたんだ? 体、何かあったのか?」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
30万円を止めた日
手術当日、夫から届いたのは見舞いの言葉ではなかった。 「病院へ行ったところで治るわけじゃないだろ」 その直後、私名義の家族カードで高級温泉旅館の二十一万円が決済された。夫は義母との旅行を楽しみ、SNSには《嫁が入院して自由になった》と投稿していた。 六十日間の入院中、夫も義母も一度も見舞いには来なかった。ところが夫は私の会社へ押しかけ、私名義のマンションを勝手に売却査定へ出していた。 さらに調べると、五年間送り続けた義母への月三十万円は、生活費ではなく投資用マンションの購入資金に流れていた。総額は二千百万円。 退院した朝、ようやく夫から電話が来た。 「母さんに毎月渡してた三十万円、なんで止めたんだ?」 私はその一言を聞き、夫婦として残っていた最後の線を静かに切ることにした。嫁姑|夫婦|介護|修羅場1.9万字5 525 -
完結第15話
離婚した元夫は、私の再婚相手を知らない
離婚が成立した直後、警察官の元夫は私を見下して笑った。 「四十の女医なんか、誰も拾わない。せいぜい他の男を探せばいい」 私はその言葉どおり、裁判所の外で待っていた黒塗りの車へ乗り込んだ。後部座席にいたのは、かつて私が十四時間の手術で命を救った男性――そして元夫が勤める県警の頂点に立つ警察本部長だった。 その翌日、元夫の若い恋人から届いた一枚の写真に、不自然な公費精算の印が写り込んでいた。さらに若手刑事が現れ、二千万円を超える捜査費横領と、県警内部の隠蔽を告発する。 ところが、その夜。緊急手術を要する重傷者が病院へ運び込まれた。 血まみれでストレッチャーに横たわっていたのは、つい数時間前まで私を嘲笑していた、元夫の恋人だった。夫婦|真実|裡の顔|修羅場|不倫2.2万字5 271 -
完結第10話
援助し続けた兄が隠していた二年間
事故で右脚が不自由になった兄・健司を助けるため、直人は二年半にわたり生活費や治療費を送り続けてきた。その総額は、二百十八万円。妻の美咲も家計を切り詰め、兄が立ち直る日を信じていた。 ところがある日、美咲から一本の動画が届く。そこには、杖を持たず、小走りで横断歩道を渡り、パチンコ店の階段を上る健司の姿が映っていた。 直人が収入と支出の確認を求めると、健司が送ってきたのは一年前の給与明細。さらに、すぐ削除された通帳写真には《給与268,430円》の文字があった。 足の回復も、転職も、本当の給料も隠していた兄。では、装具代、リハビリ費、通院費として渡した二百十八万円は、いったい何に消えたのか。 幼い頃、自分を守ってくれた兄への恩と、夫婦の生活を壊し始めた嘘。そのすべてを確かめるため、直人は初めて兄に通帳を開かせる。兄弟姉妹|夫婦|金銭問題1.4万字5 150 -
完結第17話
娘の席を愛人に譲った夫の末路
夫・敬吾が愛人を優先し、6歳の娘・陽菜を飛行機の後方席へ一人で追いやろうとした瞬間、さゆりは離婚を決意する。実は彼女こそ、敬吾の出世を陰で支えてきた一流の法務コンサルタントだった。 さゆりは娘とプライベートジェットで北海道へ向かいながら、夫の不正経費と愛人関係を会社へ告発。敬吾は部長職を失い、北陸の倉庫へ左遷され、慰謝料と養育費の支払いも背負う。 その後、さゆりは自分の名で事務所を開き、娘との生活を再建する。一年後、母娘はあえて普通席の35列目に並んで座り、誰にも奪われない二人だけの旅へ出発した。夫婦|親子関係|不倫2.6万字5 1521 -
完結第17話
しおれた野菜と30万円
正月準備のため妻・綾野に三十万円を預けた修平が帰宅すると、冷蔵庫は空になり、綾野はしおれた野菜を抱えて震えていた。防犯カメラには、合鍵で侵入した母・久美子と妹・ゆりが、食材と現金を奪い、「妻が使い込んだことにする」と脅す一部始終が残されていた。 修平は援助や契約を停止し、父の遺品を調べる。その結果、母は前夫の家から二百万円を持ち逃げし、血のつながらない修平を守ろうとした父に返済を肩代わりさせていたことが判明する。完済後も母は架空の利息をでっち上げ、修平の出生を暴露すると父を脅して、長年金を奪い続けていた。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.5万字5 1442 -
完結第16話
大晦日、義実家の60億円計画を知った
大晦日の夜、義実家の二階から母とビデオ通話をしていると、突然その表情が凍りついた。 「南、声を出さないで。お父さんが裏口まで迎えに行くから」 直後、私は義父の書斎から漏れる夫の声を聞いた。二人は私の実印を盗み、私が代表を務める資産管理会社の権限を書き換え、約六十億円の預金を破綻寸前のリゾート事業へ流そうとしていた。 私は結婚指輪も荷物も置いたまま裏口から脱出し、その夜のうちに全口座を凍結。二十三億円の普通預金と三十五億円の定期預金を、夫の手が届かない別銀行へ移す手続きを終えた。 これで資産は守れたはずだった。 ところが銀行担当者は、夫が持参すると告げていた書類の中に、父の署名入り《債務保証承諾書》があったと明かす。その印鑑証明書は偽物ではなく、三か月前に正規発行された本物だった。 夫はいつ、父の印鑑証明を手に入れたのか。そして十三年間の結婚生活の裏で、どこまで周到に黒川家を破滅させる準備を進めていたのか。嫁姑|夫婦|真相|修羅場2.4万字5 320 -
完結第16話
義弟嫁の「セレブ家族」に隠された十二年前の秘密
義弟嫁・真澄は、遥の手料理を「貧乏臭い」と罵り、熱々のおでんを床へ投げ捨てる。普段温厚な夫・幸介は激怒し、真澄の両親を呼び出した。 現れた両親の正体は、遥の叔父の会社から三千二百万円を横領し、海外逃亡していた指名手配犯だった。刑事に逮捕され、真澄の偽りのセレブ生活も暴かれる。 金目当ての結婚だったと知った義弟・高志は離婚を宣告。幸介も損害賠償と刑事告訴を突きつけ、真澄を絶縁する。すべてを失った彼女は、反省せず新たな金持ちを探して夜の街へ消えた。兄弟姉妹|夫婦|絶縁|修羅場2.4万字5 1413 -
完結第10話
十年分の船代で始まった一人旅
半年前に夫・常夫を亡くした杉本は、夫が十年間積み立てた船代で一人クルーズへ出る。ところが同席した常連客・黒川千鶴子から、窓のない客室や白い会員カードを見て「十年もかけないと船旅ができない人」と毎晩見下されてしまう。杉本はついに、「お金を貯めるのに十年かかったのではなく、夫と来る日を十年間楽しみに待っていた」と静かに告げ、千鶴子を黙らせた。 千鶴子は高価な絵や乗船回数を豊かさの証しとして周囲にも押しつけていたが、勧められるまま四十二万円の絵を買いかけた吉江夫妻は、杉本の「その絵をどこへ飾りますか」という問いで思いとどまる。やがて千鶴子自身も、夫の退職後に失った肩書を埋めるため、会員ランクや高価な品に縋っていたことを認め始める。一方の杉本も、暗い客室で初めて夫の死を思い切り泣き、悲しみだけでなく自分のために旅を楽しんでよいのだと受け入れていく。 杉本は毎日眺めたいと思える二万四千円の水彩画を自分の意思で購入し、吉江夫妻も見栄のための買い物をやめた。帰宅後、千鶴子は箱に眠らせていた四十万円の絵を初めて飾り、杉本へ十年を侮辱したことを謝る。杉本は海の絵、青いガラスの魚、手作りのキーホルダーを日々の暮らしに置き、夫が残した時間を抱えながら、もう誰かの値段や物差しではなく、自分の速さで次の場所へ歩き始めた。夫婦|相続|金銭問題1.5万字5 368