"マカオに消えた花嫁" 第2話
審にったホテルのスタッフがマスターキーでドアをけると、そこには異様な景が広がっていた。 荷物はクローゼットに置かれたまま、ベッドはまるで誰も触れていないかのように、完璧にえられていた。 チェックイン、すぐにどこかへかけ、そのまま戻らなかったとしかえなかった。
事態はマカオ警察、そして港本国総領事館へと報じられ、国際な捜査が始される。 しかし、観客で溢れかえるの雑踏に消えたを追うがかりは、どこにも残されていなかった。 マカオの夜を彩るカジノの巨なネオンが、まるで何もかもを見通しているかのように、無に煌めき続けていた。 幸福な笑顔の裏に隠された協音は、誰にも気づかれぬまま、巨なのへと溶けていった。
らせは、夜の国際話という最もたい形で本に届いた。
マカオ国際空港の滑にりった浩司の父、田健(55)と子の母、田佳子(52)の顔には、疲労と、まだ現実として受け入れられていない悪への戸惑いが濃く浮かんでいた。 蒸し暑い空気が肌にまとわりつき、異国の排気ガスと辛料の混じった独特の匂いが、彼らのをさらに煽る。
「どうしてあの子たちが……。浩司はしっかりした子なのに、体何があったんだ」
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健は、誰に言うでもなく呟いた。 退職した会社員である彼は、をわにすることに慣れていない。 ただ、固く握りしめられた拳が、その内の激しい揺を物語っていた。 方、学教師である佳子は、夫に支えられなければっていることもやっとという様子だった。 「子……私の子……」 その声は、空港の喧騒のに掻き消えそうになりながらも、鋭く胸をえぐる、切実な響きを帯びていた。
マカオ警察本部の会議は、淀んだ空気に満ちていた。 ポルトガル語と広語がび交う、領事館から派遣された職員が、い表の族に状況を説する。 机のに置かれたモニターには、溢れかえるの雑踏を歩く、浩司と子の粗い監カメラの映像が何度も繰り返し再されていた。
並みに押されるように歩くが、何かを話し掛け、子が俯く。 それが、が公ので目撃された最の姿だった。 「現点では、あらゆる能性を野に入れています。誘拐、盗、あるいは何らかの事故……」 現の捜査官が淡々と説する。 しかし、その言葉は健と佳子のには届かない。彼らにとってなのは能性ではなく、の否、それだけだった。
「映像はこれだけですか? この、はどこへ消えたんですか!」 健がわず声を荒げた。 浩司の父親として、彼は自分がしっかりしなければと気を張っていたが、がかりが全くないという絶望な状況に、その緊張の糸も切れかかっていた。
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捜査官は、静かに首を振るだけだった。 当のマカオでは、主な観以にCCTVは張り巡らされておらず、本を入れば、そこは追跡能なの世界だった。
捜査はタイパ島、コロアン島へと拡され、発の遅れた緑い森の捜索もわれた。 現の警察官に混じって、領事館の職員や、本の族が雇った現の通訳も捜索に加わった。
佳子は、娘が好きだと言っていたブランドのバッグを片にく抱きしめながら、の匂いが蒸せ返るコロアン島の森の入りにち尽くしていた。 湿ったと腐葉の匂いがち込める森の奥くは、昼なお暗い。 虫の声と、が々の葉を揺らす音だけが響き渡り、のを拒絶しているかのようだった。
「子! どこにいるの!」 佳子の絞りすような叫び声が、森の静寂に吸い込まれていく。 こだまは帰ってこない。まるで、この島そのものが巨なき物で、をみ込んでしまったかのようだった。 彼女の瞳から次々とこぼれ落ちる涙が、乾いた面にさな染みを作っては、すぐに消えていった。
健は、そんな妻の肩を無言で抱き寄せ、自らも唇を噛みしめていた。 息子は被害者だ。妻と共に、卑劣な犯罪に巻き込まれたに違いない。 そう信じることだけが、彼のを支える唯の寄り所だった。
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