"マカオに消えた花嫁" 第3話
数週が過ぎ、希望はににれていった。 マカオの太陽は相変わらず容赦なく照りつけ、族のだけがたく凍っていく。 事件は、本のメディアでも「マカオで本婚カップル失踪」としてきく報じられたが、たな報は何つもたらされなかった。 捜査は事実打ち切られ、事件ファイルには「未解決事件」のスタンプが押された。
帰国の、空港のロビーで、健は佳子の夫に向かってくをげた。 「申し訳ありません。私の息子があんな軽率な旅に誘ったりしなければ……」 佳子の夫は、健のを握り返して首を振った。 「いいえ、田さん、悪いのは浩司君じゃない。をこんな目にわせた、どこかにいる犯です。私たちは、信じて待ちましょう」 気丈に振るう彼の言葉が、逆に虚しく響いた。 両のには、共するしみとは別に、埋めがたいい溝が静かに横たわっているようにじられた。
京に戻ったも、族のは凍りついたままだった。 子の部は、マカオへ旅ったのまま。浩司の斎には、読みかけの本がかれたまま置かれている。 は流れるのに、彼らの周囲だけがあの20104のマカオに閉じ込められていた。 浩司の父、健は、息子のを頑なに信じ続けた。 あの子は責任のい子だった。子さんを守って、きっとどこかできているはずだ。
広告
しかし、夜ごとに健が見るのは、い森の底に沈んでいきながら助けを求める、息子の歪んだ顔のだった。 と共に、族の祈りもまた、届かぬ声となって虚空を彷徨い続けていた。
は流れ、2022520。 京都の古びたアパートので、佐藤エミ(22)はノートパソコンの青いを浴びていた。 学のレポート作成から逃避するように、彼女は無識にブックマークしていた未解決事件のブログを読みふけっていた。 エミにとって、過の謎を紐解くことは、何よりもを掻きてられる趣だった。 特に、この「マカオ本カップル失踪事件」は、幸福の絶頂から忽然と姿を消したというドラマ性から、彼女のをく捉えてさなかった。
「もう12も経つのか……」 エミはため息をつき、気分転換にスマートフォンのInstagramをいた。 彼女の指は、まるで何かに導かれるように、検索窓に「macau」と打ち込んでいた。 画面には、マカオでの華やかな常を切り取った写真が次々と現れる。 きらびやかなカジノ、美しそうなポルトガル料理、そして旅者たちの笑顔。
その、1枚の写真ので、エミの指がスクロールを止めた。 グランドリスボアの蓮のを模した独特な建物を背景に、アジア系のカップルが寄り添っている。 40代半とわれる男性と、彼よりし若く見える国女性は、幸せそうに微笑んでいた。
広告
エミの線は、その男性の顔に釘付けになった。
(この、どこかで……既?) それは脳が発する些細なエラーのようなものだといつか本で読んだが、今彼女がじているのは、もっと確信めいたものだった。 記憶の底にある、何もに見たことのある顔。 ざらついた聞の触と、モノクロ写真のしぼやけた輪郭が、脳裏に鮮烈に蘇る。
エミは、何かに取り憑かれたようにパソコンのデスクトップにある「資料」というフォルダをいた。 には、彼女が個に集めた未解決事件のデータが理されている。 「2010マカオ失踪事件」のファイルをクリックすると、12に聞に掲載された記事のスキャン画像が現れた。 ベネチアンマカオので微笑む、若きの田浩司と田子の写真。
彼女は、スマートフォンのInstagramの画面と、パソコンに映る記事の画像をい入るように見比べた。 12という歳は、男の顔に確かな変化を刻んでいた。 目元には細かなシワが刻まれ、髪はし退している。 だが、すっと通った筋、い唇の形、そして何よりも、眉のに極僅かに見えるさな古傷。 当の聞写真では髪に隠れて瞭だったその傷が、Instagramの写真でははっきりと確認できた。
「違いない……。この男は、12に失踪したはずの田浩司だ」 エミは、臓が元で鳴っているかのようにきく脈打つのをじた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
灯油札の密告
2005年11月、長野県の山あいにある静かな村で、工藤家の住宅が深夜に炎に包まれた。 家の中には、父と母、そして7歳の息子。近所の人々が助け出そうと駆けつけるが、玄関には外側から鎖と南京錠が掛けられ、勝手口も角材で封じられていた。 これは事故ではない。 誰かが一家を逃げられないように閉じ込め、火を放ったのだ。 村人たちは涙ながらに犯人探しを願い、特に隣人の男は誰よりも深く悲しんでいるように見えた。だが刑事・星野は、焼け跡に残された不自然な痕跡と、その男の身体にあった小さな傷に違和感を覚える。 そして事件から数日後、町の貴金属店に持ち込まれた大量の一万円札が、捜査を大きく動かす。 その紙幣には、かすかな灯油の匂いが残っていた。 炎で消されたはずの夜に、いったい何があったのか。 そして、最後まで燃え残った“匂い”は、誰の罪を指し示していたのか――。ミステリー|遺體発見2.3萬字5 149 -
完結第10話
雪下の赤いマフラー
1998年11月12日、雪の降る旭川で、赤いマフラーを巻いた3人の女子高校生が忽然と姿を消した。 双子の美咲と南、そして親友の彩。3人は放課後の演劇部の練習を終え、いつものように学校を出たはずだった。だが、その日を境に、家族のもとへ帰ることはなかった。 捜索は続いたが、足跡も持ち物も見つからない。吹雪がすべてを消してしまったかのように、事件は未解決のまま17年の歳月が流れていく。 そして2015年。元郵便配達員の古い鞄から、17年間届けられなかった1通の手紙が見つかる。 そこには、こう書かれていた。 「私は、美咲、南、そして彩に何が起きたのか知っています」 手紙をきっかけに再び動き出す捜査。座布団の中に隠された日記、古いカセットテープ、稚内へつながる謎の手紙、そして雪深い小屋の床下に眠っていた赤いマフラー。 3人はなぜ消えたのか。 教師・田中浩は何を隠していたのか。 17年間閉ざされていた雪の中の真実が、今、静かに姿を現す。ミステリー|行方不明1.5萬字5 578 -
完結第12話
ETCに残らない白バイ
2003年春、千葉県の高速道路を巡回していた女性白バイ隊員・水島舞が、サービスエリアで忽然と姿を消した。 監視カメラには、彼女が白バイを降りて建物へ入る姿が残されていた。だが、その18分後、白バイに乗って走り去ったのは舞ではなく、ヘルメットで顔を隠した見知らぬ男だった。 舞本人も、白バイも見つからない。料金所の記録にも、ETCログにも、その後のはっきりした足取りは残っていなかった。 結婚を控えていた婚約者、娘の帰りを待ち続ける両親、そして答えを出せないまま止まった捜査。 10年後、古い監視映像を最新技術で解析した時、画面の隅に映っていた“あるもの”が、事件を再び動かし始める。 白いバイクは、どこへ消えたのか。 そして水島舞が最後に見た人物とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 4603 -
完結第11話
雪峠の五発
2006年11月15日、長野県北部。 その年最初の雪が降り始めた高木峠へ、1人の巡査が向かった。展望台に不審な車があるという匿名通報を受け、霧谷慎也は「確認だけ」のつもりでパトカーを走らせる。 だが午後6時15分、現場到着を知らせる無線を最後に、慎也からの連絡は途絶えた。 雪の展望台に残されていたのは、鍵のかかったパトカーと、車内に置かれた制帽と手袋。慎也本人だけが、吹雪の峠から忽然と姿を消していた。 事故なのか、事件なのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、自ら山へ入ったのか。 妻と幼い娘は、答えのないまま13年を過ごすことになる。 そして2019年春。雪解けの斜面から、慎也が持っていた古い懐中電灯が見つかった。 13年間沈黙していた峠が、初めて返した小さな手がかり。 その光の先に隠されていたのは、匿名通報の本当の意味と、雪の下に封じられていた一夜の真実だった。ミステリー|行方不明1.7萬字5 1203 -
完結第13話
5枚で消された妻
1994年4月、長野県の山あいにある古いビジネスホテルで、31歳の女性・高橋美幸が冷たくなって発見された。 部屋には睡眠薬の空箱と酒の瓶。夫との離婚調停を控えていたこともあり、警察は早々に「事件性なし」と判断する。記録はわずか5枚だけ。母のよし子がどれだけ訴えても、娘の死が再び調べられることはなかった。 それから12年。 美幸の夫だった男は別の町で再婚し、真面目な父親として穏やかに暮らしていた。一方、よし子は痛む膝を抱えながら、毎年娘の墓へ通い続ける。 「娘は、自分から死を選ぶような子ではない」 誰にも届かなかったその言葉が、ある夜、古い薬物帳簿に残された一つの名前によって動き出す。 12年前のホテルで、本当は何が起きたのか。 そして、たった5枚の記録が隠していた真実とは――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 465 -
完結第13話
床下の学級日誌
1995年、福岡の小さな離島・相島に、一人の若い女教師が赴任してきた。 藤野理子、26歳。全校児童わずか11人の分校で、子どもたち一人ひとりに寄り添い、島の人々にも少しずつ受け入れられていく。だが彼女は、ある少女の腕に残る不自然な痣に気づいてしまう。 「このまま見過ごすことはできない」 そう決意した夕暮れ、理子は本土へ渡ろうとしていた。しかし、その日を境に彼女は島から姿を消す。 残された荷物、桟橋で見つかったスカーフ、そして口を閉ざした11人の子どもたち。 警察はやがて、理子が自ら島を出た可能性が高いと判断する。けれど、子どもたちは知っていた。 あの日、桟橋で本当に何が起きたのかを。 それから10年後、取り壊される分校の床下から、理子の学級日誌と万年筆が見つかる。封じられていた記憶が、静かに動き出した――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 260