"マカオに消えた花嫁" 第8話
鉄格子が閉まる、くたい音が、彼のしい常の始まりを告げた。
刑務所の空気は、消毒液の無質に乾いた匂いが満ちていた。 そこで彼は、本の父から送られてきたで「内観療法」という理プログラムのをる。 それは、限られた空で「母親からしてもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」を始まりに、な者との関係を徹底に見つめ直すという、本独特の自己反省法だった。 彼はそれにすがるようにして、独の隅で内観を始めた。 母の記憶、父の記憶。そして彼は、最も向きうのが怖い「子」へと、内省の対象を移した。
子にしてもらったこと。疲れて帰ったに作ってくれた姜焼きの。誕に選んでくれたネクタイ。 温かいいが、次から次へと蘇る。 子にして返したこと。……ほとんど何もい浮かばなかった。仕事の疲れを理由に、彼女の話をの空で聞き流した夜。記さえ忘れていたこともあった。
そして最に、子にかけた迷惑。 その問いと向きった瞬、浩司の涙の堰は決壊した。 彼女のを、を、未来をすべて奪った。彼女の族から、する娘を永に奪いった自分。 勝なで彼女を縛り、絶望させ、最の逃げさえ塞いだのは、紛れもなく自分自だった。 その罪の途方もないきさに気づいた、彼はまれて初めて声をげて泣いた。
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それは、自己憐憫や恐怖から来る涙ではなかった。 に額を擦りつけ、声が枯れるまで流し続けたその涙は、からの懺悔だった。
面会のアクリル板越しに見た劉梅は、憔悴し切っていた。 浩司はもう何も隠さなかった。事故の夜のこと、逃した理由、そして劉梅を騙し続けてきたこと、すべてを正直に語った。 劉梅は、ただ黙って聞いていた。裏切られたりとしみに、その肩はさく震えていた。 しかし、すべてを語り終え、涙を流しながら「すまなかった」とをげる浩司の姿に、彼女はかつて彼にじた孤独のの正体をった。
「……あなた、ずっと苦しかったのね」 その言が、浩司にとっては、何よりの救いだった。
そのから、浩司は毎、囚たちに配られる粗末なに、子の族への謝罪のをき始めた。 っぽいインクの匂いがするそのが、直接彼女たちに届く保証は無い。 しかし、文字文字をに刻むその為だけが、彼が犯した罪と向きい、贖罪のを歩きすための、唯の方法だった。
マカオから届いたさな箱はあまりにも軽く、それが最の娘の成れの果てだとは、田佳子には到底信じ難かった。 12の歳を経て、本のを踏んだ子の遺骨は、京の郊にある田の仏壇に静かに置された。 仏壇には、マカオへ旅つ直に撮った、屈託なく笑う子の遺が飾られている。
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毎、朝と夕に線をげ、をわせるが、佳子のは乾いた憎しみで満ちていた。
「よくも……よくも私の子を……」 犯が誰かも分からぬまま、見えない敵を呪い続けた12。 その犯が、被害者だとっていた、あのの良さそうだった青だったという事実。 そして、彼が娘をたいのに埋めたまま、自分はしい女とぬくぬくと暮らしていたという現実。 そのすべてが、佳子のをどす黒い炎で焼き尽くしていた。 娘の部のドアをけるたび、かすかに残る彼女のシャンプーのりがを掠め、その度に胸が張り裂けそうになり、嗚咽が漏れた。
事件の真相がらかになって数ヶが経った頃、通の封筒が浩司の父、健から届いた。 には、浩司がマカオの刑務所でいたという、謝罪のが入っていた。 しかし、佳子はその便箋に触れることさえ拒んだ。 「見たくもありません。今更謝って、子が帰ってくるわけじゃないでしょう!」 夫ので、彼女はをテーブルに叩きつけた。健に対する申し訳なさもあったが、それ以に、息子の罪を親として謝罪する彼の姿が、浩司の卑劣さを際たせるようで許せなかった。 族として共にしみを分かちってきたはずの田は、今や憎しみの対象でしかなかった。
しかし、健は諦めなかった。
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