"半纏に縫われた遺言" 第24話
それは、まだ世にるべき瞬を、私の胸ので静かに待っていた。
私はので、国の夫に向かって、く語りかけた。 (……あなた。ここまで、無事に来たよ。さあ、の偽物のハンコを作ってねえ、私のを売りばそうとした、あの愚かな棒たちの目のにって……あなたが作ってくれた、このの縫い目を、私がこので綺麗に解いて見せる番だよ)
田健の運転する黒いが、施設の庭の片隅で、エンジンをかけたまま待していた。 彼が急いで部座席のドアをけようとしてくれたが、私はそのを静かに制し、首を横に振った。 私は自分のを伸ばし、助席のドアのノブを握って、自らの力で力くドアをけた。 1ヶ、息子のの部座席に押し込められて、何も分からないままこの奥へ連れてこられたとは、が全く違っていた。 あのは、連れて来られるだけの無力な老だったが、今の私は、自分の切なモノを守るために、自らので戦いにくの職だった。 自分ので、自分の確な志でシートに乗り込み、ドアを々しく閉めた。 京へ、私たちの浅へと、かなければならなかった。
田健のが、み慣れた浅の町へと到着したのは、昼の12をし回った頃だった。 栃の奥から京のまで、を2以らせる、私は内で言も発しなかった。
広告
田健も、私の集を妨げないよう、あえて話しかけてくることはなかった。 内のラジオも、切つけなかった。 窓のを、40見続けてきた浅の賑やかな並みが、次々とろへと流れていった。 毎歩き慣れたはずのだったが、1ヶぶりに檻のから見るその景は、どこか見慣れない、議なモノのようにじられた。 々が忙しそうにき交い、信号が赤から緑へと変わり、線バスが留所で静かにする。 その、あまりにもありふれた、平な常の景が、私の両目には痛いほどに眩しかった。
は、浅の細いにある、級料亭「千代田」のので静かにした。 造の厳かな建物のには、警察のパトカーが2台赤灯を消して止まっており、玄関の引き戸には、黄い「ち入り禁止」の警察のテープが物々しく貼られていた。 の片隅には、何事かと集まった所の野次馬たちが数、顔を寄せってヒソヒソと事件について噂話を交わしていた。 田健がからり、現の捜査官に自分の弁護士資格のバッジを示してに入っていった。 私は、半纏のをきゅっとわせると、彼の広い背のろについて、歩ずつ静かにへと歩いた。
その取りは、鉛のようにかった。 この料亭のドアをければ、私は自分のお腹を痛めて産んだ、あの息子の、錠をかけられた無残な顔と、真っ正面から向きわなければならないのだ。
広告
料亭の2階の、個へと続く狭い急な製の階段を段ずつ登っていると、部の奥から、美のあの切り声をげた、甲い鳴り声が微かに漏れ聞こえてきた。 彼女はまだ、警察官に向かって往際悪く叫び続けているようだった。 階段を段登るごとに、私の胸の臓は、より層激しく脈打った。 膝の関節が鳴をげて痛んだが、私は階段のすりには、決してを伸ばさなかった。 誰の助けも借りず、自分のの力だけで、この因縁の台を登りきらなければならなかったのだ。
襖のにち、息をえた。 格子の隙から、部のの様子がしだけ見えた。 裕と美の2が、錠をかけられたまま、畳のに並んで惨めに座らされていた。 テーブルのには、美が偽造した売買委任状の類と、偽の「佐々実印」が、透な証拠品袋に入れられて、コツンと寂しそうに置かれていた。 美の自の派な化粧は涙と汗でドロドロに崩れ落ち、彼女は畳のに項垂れていた。 私は、襖のでもう度く、く息を吸い込んだ。 半纏の裏に眠る本物の実印と信託契約が、私の肋骨をく押し付け、そのみをへの絶対な力へと変えていった。 このドアをければ、すべてに決着がつく。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
凍える孫と消えた家
年末、麻子が息子夫婦の家を訪ねると、十四歳の孫・音実が靴も履かず、凍える庭に置き去りにされていた。父親たちは義姉を連れて海外旅行へ出たという。ところが空港から逃げ帰った義姉・杏奈の告白により、二人の少女が受けていた仕打ちと、音実に掛けられた一億五千万円の生命保険が明らかになる。 これは単なる育児放棄ではなかった。実の娘の命まで金に換えようとした息子に対し、土地も家も握る麻子は静かに反撃を開始する。三週間後、旅行から戻った夫婦を待っていたのは、豪邸が跡形もなく消えた更地と、彼らの人生を根底から崩すさらに大きな罠だった――。祖父母と孫|絶縁|親子関係|修羅場2.5万字5 179 -
完結第14話
1000万円のハワイ旅行を贈ったら、私だけ家族から外されました
亡き夫との夢を叶えるため、息子一家と両家の親が参加するハワイ旅行に一千百二十万円を支払った静江。ところが出発直前、息子の健太から「行くのは妻の両親だけ。もう連絡しないでほしい」と告げられる。六年間続けてきた住宅ローン援助や孫の送迎まで当然のように扱われていた静江は、息子の希望どおり、すべての支援を打ち切った。 息子夫婦がハワイを満喫している間、静江のもとに旅行代理店から精算書が届く。そこには、健太が二か月前から母を旅行者名簿から外し、「重度の認知症と末期癌の疑いがある」と虚偽の申告をしていた記録が残されていた。 さらに義弟からの電話で、健太が静江を判断能力のない高齢者に仕立て、成年後見人として財産管理権を握ろうとしていることが判明する。狙われていたのは、資産価値八千万円の自宅と三千万円の老後資金。しかも計画には、嫁とその父親、虚偽の診断書を作った医療関係者まで関与している疑いがあった。 静江は弁護士と任意後見契約を結び、正常な認知機能を証明する診断書と旅行代理店の通話記録を確保する。そして帰国した息子夫婦を待っていたのは、止められた送金、返送された孫の荷物、そしてホテルのテーブルに並べられた逃げ場のない証拠だった。家族旅行から排除した母が、自分たちの計画をどこまで知っているのか――二人がそれを理解した時、作り上げた“幸せな家族”の姿が崩れ始める。嫁姑|親不孝|親子関係2.2万字5 367 -
完結第13話
30万円を止めた日
手術当日、夫から届いたのは見舞いの言葉ではなかった。 「病院へ行ったところで治るわけじゃないだろ」 その直後、私名義の家族カードで高級温泉旅館の二十一万円が決済された。夫は義母との旅行を楽しみ、SNSには《嫁が入院して自由になった》と投稿していた。 六十日間の入院中、夫も義母も一度も見舞いには来なかった。ところが夫は私の会社へ押しかけ、私名義のマンションを勝手に売却査定へ出していた。 さらに調べると、五年間送り続けた義母への月三十万円は、生活費ではなく投資用マンションの購入資金に流れていた。総額は二千百万円。 退院した朝、ようやく夫から電話が来た。 「母さんに毎月渡してた三十万円、なんで止めたんだ?」 私はその一言を聞き、夫婦として残っていた最後の線を静かに切ることにした。嫁姑|夫婦|介護|修羅場1.9万字5 736 -
完結第16話
退職金を狙った息子夫婦と、亡夫の最後の記録
三十八年勤めた病院を退職した夜、久美子は息子夫婦から一枚の振込用紙を差し出された。 金額は、退職金の全額にあたる千八百万円。 「孫の将来のため」と迫られた久美子は署名を拒み、亡夫が残した通帳を調べ始める。すると、死後も三年間続いていた謎の送金と、《健太には知らせるな》という赤い文字が見つかった。 さらに孫本人は、息子夫婦が語る私立高校も医学部も望んでいなかった。 家族のために用意されたはずのお金は、いったい誰の借金を埋めていたのか。亡夫の署名が入った二通の承諾書、銀行へ持ち込まれた偽の委任状、そして貸金庫に隠された最後の手紙。 久美子が送金を止めた瞬間、息子夫婦が長年隠してきた金の流れが、静かに崩れ始める。親不孝|絶縁|親子関係|退職金|金銭問題1.1万字5 789 -
完結第12話
万引きを疑われた私に、警備員が「六万円で見逃す」と言ったので父に電話した
ロンドンから帰国した紗季は、父が経営するショッピングモールを客として訪れた。ところが突然、身に覚えのない万引きを疑われ、警備室へ連行される。鞄から出てきたのは、見たこともないネックレス。さらに警備員は「六万円払えば見逃してやる」と、用意済みの自白書を突きつけてきた。 だが彼らは知らなかった。紗季が次期経営幹部として帰国した、社長の娘であることを。そして父への一本の電話をきっかけに、隠しカメラの映像、消された記録、何十人もの被害者が浮かび上がる。これは警備員の小遣い稼ぎではない。モールそのものを奪うため、会社の中枢で仕組まれた巨大な罠だった――。真実|金銭問題|修羅場2.1万字5 233 -
完結第11話
両親を亡くした私が旅行から帰ると、実家が消えていた
両親を相次いで亡くした美穂に、夫・雅也が突然、一週間の温泉旅行を贈った。初めて見せた思いやりを信じて家を空けた美穂だったが、帰宅すると、思い出の詰まった実家は跡形もなく解体されていた。 雅也は土地を売り、その金で義実家を二世帯住宅にするつもりだった。しかし美穂が遺産を相続したというのは、三人の勝手な思い込みだった。名義変更前の家を無断で壊し、所有者の承諾書まで偽造した疑いが浮上する中、美穂は両親の思い出を奪った夫と義両親への反撃を始める。因果応報|嫁姑|夫婦|金銭問題1.7万字5 414 -
完結第10話
「飯抜き」と言われたので、夫との生活を全部やめました
「俺の命令に従わないなら、今日からお前は飯抜きだ!」 会社を勝手に辞め、半年間も妻の収入で暮らしていた夫・裕介は、義両親の前でそう宣言した。 しかも彼が求めたのは、妻・綾野が仕事を辞め、元気な義父の“介護”を始めること。 食卓に並ぶ料理も、家賃も、夫の税金さえ払っているのは綾野だった。 それでも義両親は「夫に従えない嫁に飯を食う資格はない」と言い放つ。 その夜、綾野は一人で家を出た。 そして生活費の送金を止め、夫の家族カードを凍結し、すべての支払いから自分の名義を外していった。 一か月後、電気も水道も止まった部屋から、裕介の怒鳴り声が届く。 『無職の俺を見捨てる気か! 今すぐ金を振り込め!』 だが綾野は、すでに一冊の調査報告書を手にしていた。 夫が彼女を退職させ、義実家へ閉じ込めようとしたのは、親の介護のためではなかった。 報告書の最初のページに記されていたのは、裕介がどうしても妻に知られたくなかった、ある「金」と「女」の存在だった――。人生逆転|嫁姑|夫婦|介護1.5万字5 400 -
完結第10話
援助し続けた兄が隠していた二年間
事故で右脚が不自由になった兄・健司を助けるため、直人は二年半にわたり生活費や治療費を送り続けてきた。その総額は、二百十八万円。妻の美咲も家計を切り詰め、兄が立ち直る日を信じていた。 ところがある日、美咲から一本の動画が届く。そこには、杖を持たず、小走りで横断歩道を渡り、パチンコ店の階段を上る健司の姿が映っていた。 直人が収入と支出の確認を求めると、健司が送ってきたのは一年前の給与明細。さらに、すぐ削除された通帳写真には《給与268,430円》の文字があった。 足の回復も、転職も、本当の給料も隠していた兄。では、装具代、リハビリ費、通院費として渡した二百十八万円は、いったい何に消えたのか。 幼い頃、自分を守ってくれた兄への恩と、夫婦の生活を壊し始めた嘘。そのすべてを確かめるため、直人は初めて兄に通帳を開かせる。兄弟姉妹|夫婦|金銭問題1.4万字5 252 -
完結第12話
廃屋を買った兄妹と、床下に眠る父の秘密
両親を亡くした二十歳の空は、八歳の弟・陽斗と全財産で海辺の廃屋を購入する。夜ごと床下から響く三回の音を追うと、監禁された父の同僚・村瀬を発見した。 家に残された鍵と録音には、父が勤め先の不正を調べ、叔父・健二と副社長・水城に命を狙われた証拠が隠されていた。空は弁護士や警察と連携し、両親の事故の真相を暴く。 健二と水城は逮捕され、不当な借金請求も止まった。価値のない廃屋と思われた家は、一人の命と父の記録を守り、姉弟が安心して帰れる本当の我が家となった。兄弟姉妹|相続|金銭問題1.7万字5 360