"ニューヨークへ消えた妻" 第1話
判を押したばかりの婚届の温もりがまだ指先に残る、佐藤美希はでスーツケースのみをじ、で6歳の娘・のをぎゅっと握りしめていた。胸にはまだ幼い3歳の息子・ハルトをしっかりと抱き抱えている。
携帯話の画面が、内モードを解除した途端にパチパチと狂ったように点滅を始め、着通の音が壊れたように鳴り響いた。画面を覗き込むと、そこには親戚や昔のから届いた900件を超えるメッセージが、無質な数字となって並んでいる。美希はそのメッセージを1つもくことなく、数秒だけたい画面を見つめた、迷わずに源ボタンを押ししてバッグの奥くへと押し込んだ。
数、の輪が鈍い衝撃とともに滑を捉え、アメリカのにりった。ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港の到着ラウンジに歩を踏みした瞬、美希は胸いっぱいにく息を吸い込んだ。窓のの空気は決して甘いわけではなかったが、その瞬だけは、まるで自分が全く別のとしてまれ変わったかのような、議な覚が体を包み込んでいた。
「ママ、これからここで暮らすの?」
が赤く腫れがったさな顔を健気にげて、美希の顔をじっと見つめてきた。娘は、父親がなぜ急に目のから姿を消したのかをまだ正確には理解していなかったが、国審査のい列に並ぶも、美希のパスポートの端をさなでしっかりと握りしめ、1度も涙を流さなかった。
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美希はスーツケースのハンドルからをしてそのにしゃがみ込み、娘の涙の跡が残る頬をやさしくで拭った。
「うん。ここで暮らすのよ。ママがここで、しい仕事を見つけたの」
はそうにさな唇をきゅっと結び、線を落とした。
「じゃあ、パパは?」
美希は娘の瞳をまっすぐに見つめ返し、静かに微笑みを浮かべた。その質問には声をして答えなかった。
今頃、本にいる田優斗はてんてこいになっているはずだった。倫相である若いストリーマーの林ゆりが、昨、ぷっくりとした男の子を産したばかりだったからだ。元義母の鈴義恵は、3から病院の個に泊まり込み、息子の裏切りの相であるゆりの産の世話をかいがいしく焼いていた。美希が役所の暗い窓で婚届を提しているも、義恵からの着信はただの1本もなかった。
その代わりに、義恵はSNSのプロフィール写真を素く更していた。病院のベッドので自撮りをする林ゆりの横で、片でゆりを抱き寄せ、もう片方のでだらしなくピースサインを作る田優斗の姿が画面に浮かびがっていた。写真のすぐには、「がの第1の功労者、お疲れ様でした」という義恵の誇らしげな投稿文が添えられていた。
美希は空港のロビーでその画面を見つめ、静かに「いいね」
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のボタンを押した。そして、田のを1残らずブロックした。
「ママ、に乗る?」
腕ので眠そうに目をこすっていたハルトが、さな体をよじらせて美希の首にを回した。
「うん、に乗ろうね。しいおにかなくちゃ」
美希はハルトを抱き直し、のさなを再び引いて、自ドアの向こうにある空港のへと歩きした。
の先では、髪交じりのアメリカの老運転が、美希の名がかれたいプラカードを掲げてっていた。彼は美希の姿を認めると、子にを当てて、たどたどしい本語で「ようこそ」とをげた。
が空港の敷を抜けてハイウェイへと入る頃、ニューヨークの空は面のに覆われていた。いが垂れ込める、窓のには見慣れない英語の板と、独特のブラウンストーンの建物が次々と流れていく。美希はその異国の景に線を固定しながら、無識のうちに、この激の24に起きた来事を静かにいしていた。
昨の今頃、美希は本にある、8暮らしたのリビングで黙々と荷造りをしていた。義母の鈴義恵は、1週もから自分の持ち物を根こそぎ段ボールに詰めて運びしており、台所を覗くと、箸や器の1膳にいたるまですべて消えっていた。
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