"ニューヨークへ消えた妻" 第2話
まるで、美希が触れた物にはすべて消毒が必だとでも言いたげな、徹底した拒絶の跡だった。
寝のきなベッドのシーツは無残に荒らされ、ベッドサイドの引きしは乱暴にけ放たれていた。を確認すると、田優斗の民票やパスポート、そしての権利といった類はすべて綺麗になくなっていた。
美希が化粧台の1番の引きしの奥へを伸ばすと、指先に滑らかな触が触れた。取りしてみると、それは自分のものではない、繊細なレースの飾りがついたシャンパンのシルクの着だった。美希のサイズよりも2回りはさいそれを、彼女は数秒だけ無表に見つめた、元のゴミ袋へと静かに投げ捨てた。腹がったからではない。そんなものに、自分のを1秒たりとも使う価値がないと分かっていたからだ。
ドアのを見やると、数の政婦たちが美希の荷造りの様子を巻きに見守っていた。そのに、美希が実から連れてきた吉田さんが、目を真っ赤に腫らしながらっていた。彼女は伝いたい気持ちを抑えきれない様子で、何度もを休める美希の方へ線を送っていた。
美希はガムテープを置くと、吉田さんの目をまっすぐに見つめた。
「吉田さん、私と緒にきませんか?」
吉田さんは弾かれたように顔をげた。
広告
「向こうでの就労の続きは、もうすべて取ってあります。吉田さんも、英語の勉を半以続けていらしたでしょう」
その言葉を聞いた瞬、吉田さんは顔を覆ってわっと泣きした。
「お嬢様、ついていきます。ついていきますとも……! あのではもう、歩も暮らせません。あのたち、本当にひどすぎます」
吉田さんの言う「あのたち」の顔が、美希の脳裏をかすめた。
田は、もともと名のある財閥などでは決してなかった。優斗の父である田健が昔に買っていた方のが、再発の波に乗って額の補償をみし、田舎のが気に成になっただけだった。その、ライブコマースの流に目をつけた優斗がMCN会社に投資し、それが成功を収めると、彼の性は完全に変貌してしまった。
結婚したばかりの頃の優斗は、まだどこにでもいる普通の優しい男だった。京のIT企業で企画職として真面目に働き、美希は資系企業でマーケターとしてキャリアを積んでいた。朝9に勤し、夜6には退社して、週末には2で映画を見たり買い物をしたりする、平凡だが温かい々だった。
優斗は突然のの、自転を30分も漕いで美希の職まで傘を届けてくれた。美希が甘いみ物を好み、パクチーが苦なこともすべて覚えていた。
広告
記には必ず、器用な字でかれたきのカードをくれたものだった。美希は、窓に流れるニューヨークの並みを見つめながら、あの頃の自分が、確かにのある本物の結婚をしたのだと信じていたことを静かにいしていた。
しかし、あの「4億円」という莫な補償が田の座に振り込まれたから、すべてが狂い始めた。
「美希、これがいくらかわかるか? 4億円だぞ。俺はまれて初めて、こんなを見たよ」
受話器の向こうの優斗の声は、興奮で細かく震えていた。
そのを境に、彼はそれまでの会社をあっさりと辞め、しく事業を始めると族に宣言した。田舎の義両親は子どもの面倒を見るという名目で京し、美希たちの広いに入り込んできた。そこから、美希の居所はしずつ、確実に奪われていった。
義母の義恵は、リビングのソファに腰掛けながら、美希の持ってくる料のなさを事あるごとに責めてた。事がだとけなし、美希が自分の料で買うがいと文句を言い、子どもたちを甘やかしすぎると厳しく叱りつけた。
義父の健の物言いは、さらに骨で容赦のないものだった。
「おの嫁さんなんて、たかが数万円だろう。おが子どものミルク代をすのにもりやしないじゃないか。
そんな端のためにをほっつき歩いていないで、でしく子どもの面倒でも見ていろと言え」
広告
おすすめ作品
-
完結第17話
しおれた野菜と30万円
正月準備のため妻・綾野に三十万円を預けた修平が帰宅すると、冷蔵庫は空になり、綾野はしおれた野菜を抱えて震えていた。防犯カメラには、合鍵で侵入した母・久美子と妹・ゆりが、食材と現金を奪い、「妻が使い込んだことにする」と脅す一部始終が残されていた。 修平は援助や契約を停止し、父の遺品を調べる。その結果、母は前夫の家から二百万円を持ち逃げし、血のつながらない修平を守ろうとした父に返済を肩代わりさせていたことが判明する。完済後も母は架空の利息をでっち上げ、修平の出生を暴露すると父を脅して、長年金を奪い続けていた。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.5万字5 1491 -
完結第11話
両親を亡くした私が旅行から帰ると、実家が消えていた
両親を相次いで亡くした美穂に、夫・雅也が突然、一週間の温泉旅行を贈った。初めて見せた思いやりを信じて家を空けた美穂だったが、帰宅すると、思い出の詰まった実家は跡形もなく解体されていた。 雅也は土地を売り、その金で義実家を二世帯住宅にするつもりだった。しかし美穂が遺産を相続したというのは、三人の勝手な思い込みだった。名義変更前の家を無断で壊し、所有者の承諾書まで偽造した疑いが浮上する中、美穂は両親の思い出を奪った夫と義両親への反撃を始める。因果応報|嫁姑|夫婦|金銭問題1.7万字5 415 -
完結第10話
「飯抜き」と言われたので、夫との生活を全部やめました
「俺の命令に従わないなら、今日からお前は飯抜きだ!」 会社を勝手に辞め、半年間も妻の収入で暮らしていた夫・裕介は、義両親の前でそう宣言した。 しかも彼が求めたのは、妻・綾野が仕事を辞め、元気な義父の“介護”を始めること。 食卓に並ぶ料理も、家賃も、夫の税金さえ払っているのは綾野だった。 それでも義両親は「夫に従えない嫁に飯を食う資格はない」と言い放つ。 その夜、綾野は一人で家を出た。 そして生活費の送金を止め、夫の家族カードを凍結し、すべての支払いから自分の名義を外していった。 一か月後、電気も水道も止まった部屋から、裕介の怒鳴り声が届く。 『無職の俺を見捨てる気か! 今すぐ金を振り込め!』 だが綾野は、すでに一冊の調査報告書を手にしていた。 夫が彼女を退職させ、義実家へ閉じ込めようとしたのは、親の介護のためではなかった。 報告書の最初のページに記されていたのは、裕介がどうしても妻に知られたくなかった、ある「金」と「女」の存在だった――。人生逆転|嫁姑|夫婦|介護1.5万字5 400 -
完結第17話
三日待て――命を懸けて起爆盤を粉砕した現場主任、120人を救い500億の黄金を暴く
奥羽鉱業・黒竹事業所で23年無事故を守り抜いてきた発破主任の酒井誠一は、ある朝、巨大な黒蛇の夢と坑道の異様な臭気から「発破を三日待て」と直訴する。しかし、工期短縮と300万円のボーナスに目が眩んだ現場監督・高木は酒井を即刻解任し、発破を強行しようとする。起爆まであと数秒、酒井は職を賭して大ハンマーで起爆装置を叩き壊した。 「狂人」と罵られ資材庫に監禁された酒井だったが、本社保安部長の介入と手帳に残された緻密な記録によって、高木の日報改ざんが白日の下に晒される。そして約束の三日目の朝――全坑内員120名が退避を完了した直後、山は地獄の咆哮とともに大崩落を起こした。九死に一生を得た男たちが崩落断面で目撃したのは、神の導きか、500億円の超高品位金鉱脈だった。職場逆転|因果応報3.2万字5 107 -
完結第14話
今日でクビだ」黒蛇の夢を信じて280万円の起爆装置を壊した俺。3日後、127人が退避した直後――山が崩れた
黒竹鉱山で24年間働く発破主任・酒井誠一は、黒蛇から「3日だけ待ってくれ」と告げられる夢を見る。第4区画の異臭、増えた湧水、変化した岩の反響にも危険を感じ、発破の延期を求めるが、高木監督は彼をその場で解任。さらに、同じ地点で繰り返されたガス警報まで日報から消されていた。工程を3日短縮すれば、高木には80万円の報奨金が入る。午後2時、未署名の確認表を無視して起爆準備が始まる中、酒井は工具箱からハンマーを取り出した。仕事も生活も失う覚悟で手に入れた3日後、127人の運命と山に眠る秘密が動き始める。因果応報2.0万字5 71 -
完結第12話
凶悪犯と殺処分寸前の猫
最高警備刑務所で十四年を過ごす凶悪犯アンソニーは、虐待と暗所監禁によって人間を恐れる保護猫オレオを担当する。自分と同じ傷を持つ猫に過去を重ねた彼は、引っかかれても殴り返さず、ただ静かに世話を続けた。 やがてオレオは初めてアンソニーの手を受け入れ、喉を鳴らして胸に身を預ける。その信頼によって彼の凍りついた心も解け始め、猫たちを守ろうとする気持ちは他の受刑者にも広がっていく。罵声や暴力、麻薬が支配していた刑務所では規律違反が激減し、アンソニーには出所後に保護施設で働き、オレオと暮らす未来も示された。 しかし、受刑者を獣と決めつける副所長ミラーは、この変化を認めようとしなかった。猫の導入で麻薬密売の利益を失った囚人スローンと結託し、プログラムを潰すための罠を仕掛ける。消灯後、看守が監視の死角を作る中、アンソニーの独房へ殺鼠剤を染み込ませた毒餌が投げ込まれ、匂いに誘われたオレオが静かに近づいていった。人生逆転|裡の顔|真相1.8万字5 138 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 901 -
完結第15話
炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男
正木電気の新人・潮見知夏は、猛暑の中で草むしりを強要され、総務部長・黒岩から執拗な嫌がらせを受けていた。五年ぶりに本社へ戻った滝川武は彼女を救い、腐敗した職場の実態を静かに探り始める。 知夏は書類整理中、解約済みの植栽会社へ毎月五十万円が送金され続けている事実を発見。その直後、地下倉庫へ追放され、ついには炎天下で倒れてしまう。滝川と堀田課長は、黒岩と八谷常務による総額二億三千万円の横領証拠を揃え、臨時役員会を招集する。 そこで滝川が専務執行役員であることが明かされ、帰国した正木社長も黒岩を追及する。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 704 -
完結第13話
黒い着物の誓い
「お前んち、ヤクザだっけ?w なら今すぐ呼んでみろよ」 同窓会の席で、私は昔のいじめ加害者に笑われました。 祖母の形見の黒い着物を見て、 「極道の真似事かよ」 そう言った男は、私の胸元に酒を浴びせたのです。 周囲は笑っていました。 10年前、教室で机に落書きをされた時と同じように。 私は怒りを抑え、ただ1本の電話をかけました。 「5分で来てください」 すると―― ホテルの前に現れたのは、30台の黒塗り高級車。 そして、誰もが知るはずのない私の本当の立場を前に、笑っていた同級生たちは凍りつきました。 しかし、そこで終わりではありませんでした。 床に這いつくばって謝罪する男の背後には、 母親が隠していた「400万円の借金」と、10年前の雨の日に繋がる秘密があったのです。 なぜ私は、私を傷つけた相手を救うことになったのか。 そして、あの日の1万円が、10年後に大きな運命の変化を起こすことになるとは――人生逆転|怒り|真実|修羅場1.9万字5 546