"双子の消えた春" 第3話
さて、いよいよ入学式のがやってきました。の初めのよくれた朝でした。の晩にったはすっかりがり、空は抜けるように青く澄んでいます。宿のさな庭ではのおばあさんが切に育てている桜の若がほのかにを控えめにかせていました。
その朝、双子はくに目を覚ましました。ともまれて初めてのおろしたての黒いスーツにを包んでいます。慣れないネクタイに何度もこずりながらお互いの結び目を直しいました。鏡のに並ぶとまるでわせ鏡のようにそっくりな姿がつ。
「なんだか俺たち別みたいだな」「本当だ、孫にも装ってやつか」そんなことを言いってはし照れ臭そうに笑いました。
朝の過ぎ、双子が宿の玄関をようとした、ちょうどのおばあさんが廊を通りかかりました。「あら、もうかけるの?随分いね」おばあさんがそう声をかけると双子は揃って振り向き、丁寧にをげました。「はい。式のにちょっと寄りたいところがあるのでってまいります」
きちんと揃えた靴を履き、背筋を伸ばしては朝ののへとていきました。スーツ姿の双子が桜のを抜けてのへ消えていく。そのろ姿をおばあさんはなんとはなしに見送りました。
広告
「ってらっしゃい。気をつけてね」おばあさんの声に振り向き、軽くをあげて答える兄弟。朝を浴びた黒いスーツの背。それがその何でもない朝の見送りこそが、々が也と達也のを見た番最の姿になってしまったのです。
そのおばあさんはもちろんまだ何もりませんでした。が「ちょっと寄りたいところ」と言ったのが体どこなのか。なぜ入学式の朝にそんな寄りをしようとしたのか。ただいつも通りのれたの朝、いつも通り礼儀正しい双子の、いつも通りの「ってまいります」。けれどもそのの夕方になってもは宿に帰ってきませんでした。
入学式は昼には終わったはずです。入たちは午にはそれぞれ友と連れって町へ繰りしていきました。宿の周辺にも夕方になると若い学たちの賑やかな声が響き始めますけれども、也と達也の部だけはひっそり静まり返ったままでした。
夜になりました。宿階の部のを通るたび、おばあさんはふとを止めてを澄ませましたけれども、からは物音つ聞こえてきません。戸越しにそっと声をかけてみても返事はないのです。
「式の、お友達とどこかで遅くまでんでるのかしらねえ」そのはおばあさんもまだそんなにのんきに考えていました。
広告
何しろ入学式のです。しい友達とつい羽目をすこともあるでしょう。若いならよくあることだと。けれども翌朝になっても双子は帰ってきませんでした。
部の鍵は廊の所定の所にかかったまま、布団は綺麗に畳まれたまま、机のには買い揃えたばかりの真しい教科が袋も切られずに積まれていました。そのったままの部の様子におばあさんはふと胸の奥がたくなるのをじました。
何かがおかしい、理由はうまく言えませんけれども、く宿をやってきたおばあさんの勘でした。荷物がそっくりそのまま残されているということは、は自分からくへていったわけではない。なくとも期どこかへくつもりではなかった。それなのに帰ってこない。
おばあさんは震える指で壁に張ってあった枚のを見つめました。そこには双子が入居のにいていった野の実の話番号が達な字で記されていました。その番号をおばあさんは何度も読み返しました。話をかけるべきかどうか、あるいはもうし待つべきか。「いや、もしこれがただの考えすぎだったら」迷いに迷った末、おばあさんはとうとう受話器を取りました。
野のの町、あの古い団のでその話のベルが鳴り響いたのは、双子が「ってまいります」
とていったちょうどその翌の午のことでした。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
十年の悪夢 洞窟から届いた母の遺骨
1987 年元旦、千葉犬吠埼へ初日の出を見に出かけた平凡な 3 人家族。 「すぐ戻る」と残した言葉を最後に、一家は忽然と姿を消した。 当時の警察は借金苦の夫による一家心中と断定、事件は 10 年間闇に埋もれた。 だが千葉大サークルの学生が崖下の洞窟で人骨を発見した瞬間、全ての判断が覆る。 防水ポーチに残された謎の数字手帳、陸地に残された母だけの遺骨、上層部にもみ消された密輸の証拠… 10 年ぶりに鳴った一本の電話が、生き残った少女の声を届ける。 財閥の欲望、鉄パイプの悲劇、隠蔽された殺人現場。 洞窟に眠る骨が語る、あの元旦夜の衝撃真実を今、紐解く。真実|裡の顔|真相|行方不明1.7萬字5 127 -
完結第13話
隠された十五年の物語
2005年、日本で誰も深く探ろうとしなかった不気味な過去がある。 生涯質素に暮らし、一文無しに近い老夫婦がいた。 一生懸命働き、大金とは無縁の日々を過ごしてきた二人に、思いがけない幸運が舞い込んだ。 閑古鳥が鳴くパチンコ店で、前代未聞の大当たりを出し、一夜にして大金を手に入れ、念願の一戸建てを購入したのだ。 苦労の末に手にした新居で、穏やかな老後が待っているはずだった。 だが誰も予想しなかった——引っ越してたった3日、老夫婦は新居ごと跡形もなく消え失せた。 庭の草木は新しく植えたばかりの瑞々しさを残し、部屋のお茶はまだ温かく、布団も整えられたまま。 主人だけが、この世から忽然と姿を消したのだ。 警察が数日間捜索したものの、手がかりは一切なく、最終的に不可解な失踪事件として処理された。 だが地元の古株の住民は皆知っている。この予期せぬ大当たりは、贈り物ではなく、命を懸けた交換取引だったと。 大金を手にした直後に消えた理由とは?空き家の下に隠された真実とは? 当時誰も口にできなかった封印された真相を、今こそ完全に解き明かす。真実|裡の顔|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 28 -
完結第7話
27枚目の真実
1999年、秋の連休で混み合う足柄サービスエリア。 健二の妻・雪は、「お手洗いに行ってくるわ」と言い残し、人混みの中へ消えた。助手席には財布も鞄も残されたまま。防犯カメラにはトイレへ向かう姿だけが映っていたが、その後の行方はぷつりと途絶えていた。 警察は捜索を続けたものの、手がかりは見つからず、やがて雪には借金があったことが判明する。世間は「夫を捨てて逃げた妻」と噂した。 けれど健二だけは、雪が自分から消えたとは信じなかった。 そして26年後。 リニューアル工事中のサービスエリアで、排水管の下から1台の使い捨てカメラが見つかる。そこに残されていた27枚の写真には、雪が最後に見たもの、そして彼女が命をかけて残そうとした証拠が写っていた。 あの日、雪はなぜカメラを持っていたのか。 黒いセダンの男は誰だったのか。 26年間止まっていた時間が、たった1台のカメラによって再び動き出す――。ミステリー|真相1.0萬字5 212 -
完結第6話
甘い部屋の72時間
2022年9月、埼玉県秩父市のアパートで、37歳の女性・渡辺咲が意識不明の状態で発見された。 救急隊員が部屋に入った瞬間、まず感じたのは異様なほど甘い香りだった。消臭剤、芳香剤、アロマキャンドル。部屋中に重ねられた香りの中で、咲はソファーにもたれかかるように倒れていた。 夫の啓介は「今朝、見つけた」と冷静に話した。 しかし、搬送先の病院で告げられたのは、咲の体が数日前から限界に近い状態だった可能性。そして母・えみ子が遺品を調べるうちに、娘が少しずつ外の世界から切り離されていた痕跡が浮かび上がっていく。 なぜ、夫はすぐに助けを呼ばなかったのか。 なぜ、部屋には不自然なほど多くの芳香剤が置かれていたのか。 そして咲が最後に残した「ごめんなさい。怒らないで」という言葉は、誰に向けられたものだったのか。 72時間の沈黙の裏に隠されていた、ひとりの女性の孤立と、届かなかった叫びを描く物語。ミステリー|行方不明9.3千字5 38 -
完結第13話
消えた母の 10 年地下室
1993 年、お盆の帰省途中で姿を消した若い母親―10 年後、地下室で衝撃の真実が明らかに! 隣に住む親切な青年が、彼女を長年地下室に監禁していた悪夢の物語。 幼い息子だけが地下室に隠れた母と遭遇し、守らなければならない秘密を抱える。 夫の不審な観察、祖母の疑念、犯人の焦り… 積もった疑惑がついに決定的な瞬間を迎える。 10 年間の監禁、脅迫、欺瞞が一気に暴かれる衝撃結末。 失われた家族の絆が、長い悪夢を乗り越えて再びつながるまでの全記録。裡の顔|真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 529