"隠された十五年の物語" 第7話
「被害者は当夕方、叔母ので夕を摂っている。最に親族と面会したのはこの叔母夫婦である」
夕飯のメニューはナスの煮物、サバの塩焼き、若布の噌汁だったという。
女は叔母ので「ごちそうさま」とをわせ、自転に乗って度自宅へ戻った。
そしてに荷物を置き、塾の鞄を取ってもう度自転にまたがってをていった。
そのろ姿が岸本静が見た、美の最の姿だった。
メモの末尾にはこう付け加えられていた。
岸本静 供述:「あの、私がのまで送っていれば、私があの子のを引いて塾まで緒にっていれば」
宅はファイルを閉じ、しばらく目を閉じた。
蛍灯がじじと細い音をて続けていた。
「そうか……」
宅はく呟いた。
その晩、宅とは警察署に戻り、改めて事件全体の経緯をに理した。
平成、崎美方。
同、容疑者黒田を任同で取り調べ、証拠分のため釈放。
平成、被害者の父・崎俊彦が労のため病。
平成、被害者の母・崎俊子が再婚、方へ転居。
同、黒田が町をり方となる。
同、岸本と静は退職続きをめ始める。
平成、旧所の借を解約し、この町の団へ転入。
「先輩」
は机のの経緯メモを見つめながら声を落とした。
広告
「黒田がこの町をれた翌に、岸本夫婦がこの町へ移ってきたんです。偶然じゃないですよね」
「偶然じゃない」
はしばらく何も言わなかった。
宅は机の湯呑みに残っためた茶を含んだ。
「、黒田がこの町に移りんだことを、岸本夫婦はどこからったとう?」
「うーん。当警察はもう黒田の追跡をやめていましたから」
「ああ、釈放された、黒田はただの般だ。警察が継続して監する根拠はなかった」
「自分たちで探ししたんですかね」
「そういうことだろうな」
宅は経緯メモの文字のに指を置いた。
平成の、黒田が元の町を消えた。
そのには岸本夫婦は仕事の理を始めている。
これはつまり、黒田のき先を夫婦はすでに掴んでいたということだ。
「そういうことになる」
宅はゆっくりとく息を吐いた。
それは誰にも気づかれぬよう秘めた、いい計画の始まりだった。
翌週、宅とはでの町へりた。
町の駐所を訪ね、の現にち会った元巡査・寺を呼んでもらった。
宅と並ぶ寺は、あのの記憶を今でも鮮に覚えているとをげた。
「茶卓のの湯呑みの茶が、まだほんのり温かかったんです」
「うん」
「でものは自然なほど綺麗に片付いていて、おはていくに丁寧に拭き掃除をしていったんだといます」
広告
宅はその町を巡り、岸本夫婦のことを覚えている民をずつ訪ね、話を聞いた。
寺の職は齢になっていた。
夫婦の話になると静かに目を伏せた。
「あの方は庭仕事をするだった。の入れがとにかく丁寧で、本本の枝を何度も指で触れて状態を確かめてから、ようやくハサミを入れる。」
「おとお話はされましたか?」
「ほとんど数のない方だったけど、あるお茶をしたらこう言われました。『私は急ぐ仕事はできませんけれど、く待つ仕事なら何でもします』と」
「く待つ仕事……」
宅はその言葉をに刻んだ。
商では、当静と親しかったという女性主が先で迎えてくれた。
もう歳を過ぎた女性で、静のことを話す目に涙が浮かんでいた。
「静さんは本当に優しい方で、裁縫のやり方を教えてくださる、よく『めっこ』の話をされました」
「『めっこ』とは?」
「ええ、ずっと昔にくなった女の子のことです。学、本当にいい子で塾へく途でくなった、とずっと話していました」
「事故か何かだとっていました」
それから女性はもうついしたように付け加えた。
「あと、公民館の芸教でよく緒に話をする方がいました。に回公民館でかれる教で、静さんは内職のに通っていらして、同じ教に釣り具の奥さんがいて、よくおで談笑していらっしゃいました」
釣り具。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
離婚した元夫は、私の再婚相手を知らない
離婚が成立した直後、警察官の元夫は私を見下して笑った。 「四十の女医なんか、誰も拾わない。せいぜい他の男を探せばいい」 私はその言葉どおり、裁判所の外で待っていた黒塗りの車へ乗り込んだ。後部座席にいたのは、かつて私が十四時間の手術で命を救った男性――そして元夫が勤める県警の頂点に立つ警察本部長だった。 その翌日、元夫の若い恋人から届いた一枚の写真に、不自然な公費精算の印が写り込んでいた。さらに若手刑事が現れ、二千万円を超える捜査費横領と、県警内部の隠蔽を告発する。 ところが、その夜。緊急手術を要する重傷者が病院へ運び込まれた。 血まみれでストレッチャーに横たわっていたのは、つい数時間前まで私を嘲笑していた、元夫の恋人だった。夫婦|真実|裡の顔|修羅場|不倫2.2万字5 527 -
完結第18話
夫は私を最低な妻として配信していた
夜勤明け、同僚から見せられた動画には、家族へ暴言を吐く“私”が映っていた。 《看護師の妻、夜勤後に家族へ八つ当たり》 再生回数は百二十万回。投稿者は夫だった。 私の言葉は前後を切り取られ、十四歳の娘まで台本を読まされていた。 帰宅して問い詰めると、夫は悪びれずに言った。 「動画を公開されたくなければ、娘の親権を争わないと約束してくれ」 家を調べると、台所や廊下から四台の隠しカメラが見つかった。 さらに夫は、虐げられた父親を演じ、広告や寄付で一年に一千三百万円以上を得ていた。 そして次回予告には、私が娘へ暴力を振るった“決定的証拠”を公開すると書かれていた。 しかし、削除されたメモリーカードを復元すると、映っていたのは泣く娘へ台本を渡す夫の姿だった。 「もう一度。今度は『お母さんに叩かれた』と言って」夫婦|裡の顔2.4万字5 220 -
完結第13話
妊娠八か月の私に姑は四十人分のおせちを作らせた
「妊娠は病気じゃないでしょう。座るなら、四十人分のおせちを作り終えてからにして」 妊娠八か月の私は、姑に母子手帳とスマートフォンを取り上げられ、夜明け前から台所に立たされていた。 腹の痛みに耐え切れず床へ崩れた時、店の裏口から両親が入ってきた。 父は椅子のない台所と、姑が握る金庫の鍵を見て静かに尋ねた。 「娘の母子手帳を、なぜあなたが持っているんですか」 この店も住居も、夫の実家の物ではない。経営危機を救うため、私の父の会社が買い取り、相場の三分の一以下で貸していた建物だった。 入院後に調べると、私は知らないうちに店の取締役にされ、毎月二十八万円の報酬を受け取ったことになっていた。 けれど私が渡されていたのは、生活費の五万円だけ。 さらに辞めた板前から届いた花には、一枚のカードが添えられていた。 《金庫の中に、あなた名義の通帳が三冊あります》嫁姑|裡の顔1.1万字5 289 -
完結第13話
妹に夫を譲れと言われた結婚式の翌朝
同窓会で再会した幼馴染の秋と結婚したありさ。だが、昔から姉を敵視する妹・百合は「秋は本当は私と両思いだった」と言い張り、父まで巻き込んで二人の結婚を妨害し始める。 そして結婚式の翌朝、百合は突然「秋の子を妊娠した」と告白。父はありさに離婚して夫を妹へ譲れと迫る。ところが妊娠時期を聞いた瞬間、ありさと秋は揃って大爆笑した。その二か月前、秋には百合の主張を根底から覆す、決定的な医療記録が残っていたのだ――。兄弟姉妹|夫婦|真相2.0万字5 1603 -
完結第12話
万引きを疑われた私に、警備員が「六万円で見逃す」と言ったので父に電話した
ロンドンから帰国した紗季は、父が経営するショッピングモールを客として訪れた。ところが突然、身に覚えのない万引きを疑われ、警備室へ連行される。鞄から出てきたのは、見たこともないネックレス。さらに警備員は「六万円払えば見逃してやる」と、用意済みの自白書を突きつけてきた。 だが彼らは知らなかった。紗季が次期経営幹部として帰国した、社長の娘であることを。そして父への一本の電話をきっかけに、隠しカメラの映像、消された記録、何十人もの被害者が浮かび上がる。これは警備員の小遣い稼ぎではない。モールそのものを奪うため、会社の中枢で仕組まれた巨大な罠だった――。真実|金銭問題|修羅場2.1万字5 556 -
完結第12話
浄水器の異物から、夫の秘密が暴かれた
八か月前から原因不明の頭痛と吐き気に悩まされている美央。病院を巡っても異常は見つからず、夫・公平と義母・悦子は、仕事を辞めて療養するよう優しく勧めていた。父から相続した自宅と賃貸ビルの管理も夫に任せればいい――二人の気遣いを信じ、美央は自分の心が弱いせいだと思い始めていた。 ところがある日、交換したばかりの浄水器が異常を知らせる。点検に訪れた作業員が内部を開けると、正規のカートリッジは別物とすり替えられ、飲料用ではない物質が詰め込まれていた。さらに玄関の開錠記録と防犯映像から、美央の出張中に工具袋を持った義母が二時間近く家へ入っていたことが判明する。 安全な場所へ避難した途端、八か月続いた症状は急速に消えていった。分析で検出されたのは、長期間摂取すれば臓器に障害を残す危険のある特殊な工業薬品。その入手記録には、妻を心配し続けていたはずの公平の署名が残されていた。 多額の借金を抱えた公平は、美央の判断力を奪い、父の遺したビルを処分するための委任状まで準備していた。しかし押収された端末を調べると、計画は財産だけでは終わっていなかった。生命保険の受取人変更まで相談していた相手は、美央が体調不良について最も信頼し、何度も助けを求めていた人物だった。夫婦|真実|真相|修羅場1.8万字5 454 -
完結第16話
大晦日、義実家の60億円計画を知った
大晦日の夜、義実家の二階から母とビデオ通話をしていると、突然その表情が凍りついた。 「南、声を出さないで。お父さんが裏口まで迎えに行くから」 直後、私は義父の書斎から漏れる夫の声を聞いた。二人は私の実印を盗み、私が代表を務める資産管理会社の権限を書き換え、約六十億円の預金を破綻寸前のリゾート事業へ流そうとしていた。 私は結婚指輪も荷物も置いたまま裏口から脱出し、その夜のうちに全口座を凍結。二十三億円の普通預金と三十五億円の定期預金を、夫の手が届かない別銀行へ移す手続きを終えた。 これで資産は守れたはずだった。 ところが銀行担当者は、夫が持参すると告げていた書類の中に、父の署名入り《債務保証承諾書》があったと明かす。その印鑑証明書は偽物ではなく、三か月前に正規発行された本物だった。 夫はいつ、父の印鑑証明を手に入れたのか。そして十三年間の結婚生活の裏で、どこまで周到に黒川家を破滅させる準備を進めていたのか。嫁姑|夫婦|真相|修羅場2.4万字5 644 -
完結第11話
100人宴会を潰した義妹に、店主の私が請求書を出した日
土曜日の午後六時半。海鮮料理店「魚心」の大広間には、百人分の御膳が並んでいた。けれど、開宴時刻を三十分過ぎても客は一人も現れない。 幹事を務める義妹へ電話すると、返ってきたのは笑い声だった。 「魚臭いから、焼肉屋に変更したの。身内なんだから許してよ」 しかも義妹は三日前に別会場を予約しながら、前日まで「百人分を用意して」と念を押していた。損害額は五十三万六千円。店主の菜緒が契約書に基づいて請求すると、夫まで「妹から金を取る気か」と彼女を責め始める。 ところが翌日、同窓会の会計担当者が店を訪れ、菜緒の前に二枚の領収書を並べた。参加者から集めた会費と、焼肉店へ実際に支払われた金額が、二十五万円も食い違っていたのだ。 さらに見つかったのは、「魚心」の印が押された五十万円の助成金申請書。 菜緒が一度も見たことのないその書類は、なぜ義妹の個人口座を振込先にしていたのか。そして店の印鑑を持ち出せた人物は、いったい誰だったのか。兄弟姉妹|裡の顔|真相|修羅場1.6万字5 1155