"十万円レンズの末路" 第1話
最悪だったのは、その言だった。
「俺、減されたわ」
夕飯の湯気がまだちっている卓で、義雄は軽く笑いながらそう言った。
聡子は噌汁の椀をにしたまま、ほんの瞬だけきを止めた。目のには焼き魚と鉢が並んでいる。いつもと変わらない卓のはずなのに、その言葉だけが、やけにたく部のに落ちた。
「……減?」
聡子が聞き返すと、義雄はスマートフォンから目をさず、面倒くさそうに肩をすくめた。
「会社も厳しいんだよ。今からちょっときつい」
その声は、刻さをまったく含んでいなかった。
聡子は黙って義雄の横に置かれた箱へ線を移した。黒くてたい箱だった。には品のカメラレンズが入っている。箱の端には、まだ剥がされていない値札が残っていた。
9万8000円。
その数字を見た瞬、聡子の胸の奥にさな違が沈んだ。
減された。
今はきつい。
そう言いながら、なぜこのは10万円いレンズを買って帰ってこられるのだろう。
しかし聡子はそので問い詰めなかった。噌汁の鍋を持ちげ、義雄の椀に静かによそった。湯気がくちり、義雄の顔をしだけ曇らせる。
「じゃあ、費をし減らすね」
聡子がそう言うと、義雄はスマートフォンを見たまま軽く頷いた。
「頼むわ。今きついから」
まるで、それが当然のような調だった。
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翌朝、卓に並んだのは半分の焼き魚と噌汁だけだった。皿のはいつもよりらかに寂しい。義雄は子に座るなり、すぐに顔をしかめた。
「これだけ? なくない?」
聡子は台所で布巾をたたみながら、義雄の方を見ずに答えた。
「減だって言っていたでしょう」
義雄は瞬だけを閉じたが、すぐに箸を取った。
「まあ、仕方ないか」
そう言いながらも、彼の線はまたスマートフォンへ落ちていく。
画面には、カメラ仲とのやり取りが並んでいた。しいレンズの話、撮スポットの報、週末の予定。義雄の指は楽しそうに画面を滑り続けていた。
「、ちょっとかけてくるわ」
「おは?」
聡子が静かに尋ねると、義雄は顔をげずに答えた。
「気分転換だよ。必経費みたいなもんだろ」
その言葉で、空気が止まった。
噌汁の湯気が、ゆらりと揺れる。
聡子はゆっくり箸を置いた。
何かがおかしい。
減されたの活ではない。
けれど、そのの聡子にはまだ確かな証拠がなかった。ただ、胸のに残ったさな違だけが、消えずにじわじわと広がっていった。
「今から費は2万円台でやりくりするね」
聡子がそう告げると、義雄は驚く様子もなく、あっさり頷いた。
「まあ、減だしな。しゃあないわ」
その調はどこまでも軽かった。まるで自分の活ではなく、どこかの計の話をしているようだった。
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そのの買い物袋のは、半額シールが貼られた惣菜が3つ、見切り品のしなびた野菜が2袋、そして100g78円の鶏胸肉だけだった。
レジで表示された計は1842円。
聡子は財布から千円札を2枚取りした。以は何気なく払っていた額なのに、そのは幣がやけにく、頼りなくじられた。
帰宅、聡子は蔵庫のにった。買ってきた材をつずつ取りしながら、ので必に献を組みてる。
キャベツは4に分けて使う。
鶏肉は3回分に分ける。
惣菜は今との主菜に回す。
指先で棚の位置を確かめながら、1円の無駄もないように材を並べていった。蔵庫のはっていくのに、聡子のはしも軽くならなかった。
その、玄関のドアがく音がした。
「ただいま」
義雄の声は妙にるかった。仕事で料ががり、計が苦しい男の声には聞こえなかった。
聡子が振り返ると、義雄は首から用のカメラをぶらげ、には見慣れたカメラショップのさな袋を持っていた。
「それ、何?」
聡子が尋ねると、義雄は悪びれもせず笑った。
「これ、フィルター。レンズの保護用。かったからさ」
義雄は袋から透なケースを取りし、自げに眺めた。
「いくらしたの?」
「いや、たいしたことないって。必経費だよ」
義雄は笑ってごまかそうとした。
けれど、袋の隙からレシートの端が見えていた。
1万2800円。
今の卓からは像もできない数字だった。
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