"十年目の数珠" 第3話
田の布団は、綺麗に畳まれていた。洗面用具はそのまま置かれている。鞄も元の所にあった。財布らしきものも、着替えも残っていた。
しかし、田がいつもにつけていた数珠だけが見当たらなかった。
田は胸騒ぎを覚えた。
「義兄さん」
部ので呼んだが、返事はなかった。
彼は廊にて、トイレを見にった。本堂の裏、台所、庭の隅、境内のれまで探した。それでも田はいなかった。
午6頃、田は職に告げた。
「義兄が見当たりません」
職の表が変わった。
すぐに俊と参加者たちが集められ、寺の周辺を捜し始めた。、裏の斜面、泉の周辺、物置の裏。声をして田の名を呼んだが、返事はなかった。
そのから、目撃証言がい違い始めた。
名古から来た吉田は、朝4半頃、トイレにった際に寺の裏ので誰かが歩いていく姿を見たと言った。
「暗くて顔は分かりませんでした。ただ、体格は田さんに似ていました」
吉田はそう説した。
「に何か持っているようにも見えました」
方、女性信者の1は、朝410分頃、本堂横の泉での音を聞いたと証言した。誰かが顔を洗っているような音だったという。
「そのは田さんだとはいませんでした。でも今えば、あのにあそこにいたのは田さんだったのかもしれません」
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さらに奇妙だったのは、俊の証言だった。
俊は朝3半頃、禅堂から本堂へ向かう途、田とすれ違ったと言った。
田はどこかへ急いでいる様子だった。俊と目がうと、だけをげて通り過ぎたという。
「丈夫ですか」
俊はそう尋ねた。
だが田は答えなかった。
3の証言を総すると、田は朝3半から4半の、寺のや周辺を歩き回っていたことになる。
しかし、正確にどこへったのか、何をしようとしていたのかは分からなかった。
午いっぱい、捜索が続いた。
寺から半径1km以内のをすべて調べた。の入りも、裏の斜面も見た。職は何度も田の名を呼んだ。田は顔を青くして、斜面を登ったりりたりした。
それでも痕跡は見つからなかった。
昼になると、職は警察に通報することを決めた。
午2頃、駐所から警察官が到着した。
警察は参加者と僧侶たちに夜から朝にかけての状況を尋ねた。
田は、田が普段と違ってそうだったことを話した。
吉田は、田と取引問題で言い争いがあったことを認めた。
俊は、夕方に田とく話したが、特別な内容ではなかったと説した。
警察は、田が自らに入った能性がいと判断した。
遺はなかった。
だが、事業が苦しかったこと、夜眠れていなかったこと、朝に1で部をたことが、その推測を支えていた。
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午からは警察と消防隊員が捜索に入った。
寺のの尾根、の、沢筋、獣まで調べられた。しかし、田の姿はどこにもなかった。
が暮れると、捜索は断された。
翌朝も捜索は再されたが、結果は同じだった。
田誠は、痕跡もなく寺から消えた。
田が泊まっていた部を理していた、田は布団のからさなメモを見つけた。
片には、田の跡で数文字がかれていた。
「許し」
その言葉とともに、誰かの名のようなものがかすかにかれていた。だが、文字は乱れており、読み取るのは難しかった。
田はそのメモを警察に提した。
しかし警察は、きなを見いださなかった。
捜索は3目で公式に終した。
田の妻が寺を訪れ、夫の荷物をまとめた。彼女は畳のに置かれた鞄を見つめ、声を殺して泣いた。
数珠は、最まで見つからなかった。
田が持っていったのか、どこかに落としたのか、誰にも分からなかった。
警察は、田が自らいのへ入ったのだろうと結論づけた。事業の失敗と借問題に追い詰められ、極端な選択をした能性がいと見たのである。
しかし族は、その判断を受け入れられなかった。
田の妻は言った。
「夫はそんなではありません。どんなに苦しくても、族を置いて消えるようなではありません」
遺体も痕跡もないまま、なぜ単純な失踪とされるのか。
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