"白いドレスの告白" 第4話
京子はし驚き、首を横に振った。
「いないわ。最は仕事ばかりで」
美智子は申し訳なさそうに眉をげた。
「ごめんね。変なこと聞いちゃって。でも、京子ちゃんも素敵なだから、きっといい会いがあるわよ」
その言葉は慰めだった。
だが京子には、傷のように刺さった。
約3の列の旅を経て、2は伊豆の温泉に到着した。駅からタクシーに乗り、沿いのをむ。5の伊豆は緑が美しく、も穏やかだった。
運転が振り返らずに言った。
「今はいい気ですね。温泉ですよ」
美智子は窓のを見ながら、目を細めた。
「本当に綺麗。来てよかったわ」
旅館に到着すると、女将が丁寧に迎えた。造2階建ての古い旅館だったが、入れがき届き、落ち着いた趣があった。
2は2階のに通された。
畳の匂いがする部だった。窓をけると、が見えた。波の音がくから聞こえ、潮のりがに混ざっていた。
美智子は窓辺にち、呼吸をした。
「気持ちいい。のりがするわ」
京子も隣にち、を眺めた。
穏やかな景だった。
けれど京子の胸のでは、静かな波とは違うものがしずつまっていた。
荷物を置き、2は浴に着替えた。
「まずは温泉に入りましょう」
京子が言うと、美智子は嬉しそうにうなずいた。
呂からはが望できた。
広告
湯につかりながら、美智子は気持ちよさそうに目を閉じていた。
京子は横目で美智子を見た。
浴姿でも、美智子は美しかった。
湯気の向こうで頬を染め、幸せそうに笑っている。その姿を見ていると、京子は自分とは何もかもが違うようにえた。
温泉からがると、2は部で夕を取った。
膳にはの幸をにした料理が並んでいた。刺、煮魚、鉢、噌汁。美智子は楽しそうに箸をかしながら、結婚の話を始めた。
「実は、来両の顔わせがあるの。し緊張しているんだけど」
京子は箸をかしながら答えた。
「そうなんだ。楽しみね」
美智子は幸せそうに笑った。
「うん。彼、本当に優しいなの。私と会えてよかったって、いつも言ってくれるの」
その言葉を聞いた、京子のに何かが引っかかった。
幸せな話を聞けば聞くほど、自分の惨めさが際つ。
そうじた。
夕、2は部でお茶をみながら、また話し続けた。美智子は結婚のを語り、京子は黙って聞いていた。
夜が更けていく。
湯呑みののお茶がめていく。
そして京子のには、言葉にならない暗いが渦巻き始めていた。
夜9を過ぎた頃、2は部の窓から夜のを眺めていた。
かりが面を照らし、波の音が静かに響いている。旅館のはすでに落ち着き、廊を歩く客の音もなくなっていた。
広告
美智子がふいに言った。
「ねえ、し散歩でもしない? こんなに綺麗な夜だし、もったいないわ」
京子はし躊躇した。
けれど美智子の笑顔を見て、うなずいた。
「そうね。しだけなら」
2は浴のに羽織を着て、旅館をた。
玄関で女将に声をかけると、女将は笑顔で見送った。
「お気をつけてってらっしゃいませ」
夜の温泉は静かだった。旅館のかりがところどころを照らしている。昭49の伊豆は、今ほど灯もくなく、暗い所もかった。
2は沿いの遊歩を歩き始めた。
波の音がくなり、塩のりがくなった。美智子は楽しそうに代の話を続けた。
「京子ちゃん、覚えてる? 文化祭の、私たちのクラスで劇をやったでしょう」
「覚えてるわ。美智子ちゃんが主役で、とても綺麗だった」
美智子は照れくさそうに笑った。
「そんなことないわよ。あれは皆で作りげたものだもの。でも楽しかったわね」
京子はうなずいた。
皆で作りげたもの。
美智子はそう言った。
けれど、周囲が覚えているのは、きっと主役だった美智子の姿だけだ。
裏方で具を運び、装をえ、最に教の片付けをしていた京子のことなど、誰も覚えていない。
歩いていくと、しけた展望スポットにた。
そこからはが望できた。のが面に反射し、くの波がに揺れている。
美智子は柵に寄りかかり、呼吸した。
「本当に綺麗。来てよかったわ。京子ちゃん、誘ってくれてありがとう」
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
新潟校十二年の悪闇
1992年、新潟県小学校女教師失踪事件|12年後、校長の醜悪な裏顔がついに暴かれた 1992年、新潟の田舎町小学校で、一人の30代女性教師が忽然と姿を消した。 通学路、自宅、学校施設、周辺の山林……警察が徹底的に捜索したものの、彼女の痕跡は一つも見つからなかった。 当時、失踪は「自発的な家出」「遠方への転居」と断定され、事件は迷宮入り。 誰もがこの謎を忘れかけた12年間。 誰も信じなかった真実が、ついに白日の下に晒される。 穏やかで人格者と慕われていた校長先生。 その裏に隠された、人間性を失った醜悪な素顔。 女教師が二度と帰らなかった本当の理由、閉ざされた学校の闇、隠蔽された12年の悪事―― 全ての真相が今、明かされる。因果応報|裡の顔|遺體発見|行方不明1.7萬字5 198 -
完結第6話
7時15分の黒い日記
昭和56年、浜松市で29歳の銀行員・吉田道子が忽然と姿を消した。 毎朝7時15分、同じ停留所から同じバスに乗り、銀行へ向かっていた道子。真面目で几帳面な彼女は、ある日から家の前に残る見慣れない吸い殻と、背後からの視線に怯えるようになる。 「誰かに見られている気がする」 そう夫に訴えても、気のせいだと片づけられた。 そして11月の夜、親睦会の帰りに乗ったはずのバスを最後に、道子は家までわずか300mの場所で消息を絶つ。 事件は未解決のまま7年が過ぎた。 昭和63年、1人のバス運転手の遺品から十数冊の日記が見つかる。そこに記されていたのは、道子を3年間見つめ続けた男の、あまりにも歪んだ記録だった――。ミステリー|行方不明9.4千字5 187 -
完結第6話
43番の帰還
9年前、京都の住宅街で小学2年生の少女・彩佳が忽然と姿を消した。 公園で遊んでいたはずの娘は、夕方になっても家に戻らなかった。警察も住民も必死に捜索したが、目撃者も手がかりもなく、事件は未解決のまま時間だけが過ぎていく。 そして9年後のある朝。 1人の少女が、古びた行方不明者のチラシを手に警察署へ現れる。彼女は受付で静かに告げた。 「私は……彩佳です」 戻ってきた少女の手には、「43」と刻まれた小さな真鍮のタグがあった。さらに彼女は、自分が名前ではなく番号で呼ばれていたこと、他にも“42”や“44”がいたことを語り始める。 単なる誘拐ではなかった。 家族の家に隠されていた地下室、壁に刻まれた迷路、死んだはずの男の名前、そして母が隠していた「クレア」という過去。 9年間消えていた少女は、なぜ今になって戻ってきたのか。 そして彼女が最後まで忘れなかった「消さないで」という声の正体とは――。因果応報|人生逆転|行方不明9.0千字5 285 -
完結第8話
十年目の数珠
昭和60年、長野県の山奥にある古い寺で、参籠会に参加していた印刷所経営者・田中誠が忽然と姿を消した。 朝4時のお勤めの時間になっても現れず、部屋には畳まれた布団と鞄だけが残されていた。財布も着替えもそのまま。だが、彼がいつも手にしていた茶色い数珠だけが消えていた。 事業の不振、義弟との対立、取引先との金銭トラブル、そして最後に田中と会話していた若い僧侶――。 疑われる者はいた。けれど、決定的な証拠は何一つ見つからず、警察は田中が自ら山に入った可能性が高いと判断する。 それから10年後。 寺の修繕工事中、かつて若い僧侶が使っていた部屋の床下から、田中の数珠が発見される。 なぜ、消えた男の数珠が僧侶の部屋に隠されていたのか。 山寺に沈黙していたあの夜の真実が、10年の時を経て静かに動き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 109 -
完結第8話
消された天才少女の証明
1896年、東京帝国大学の数学演習室。 誰もいないはずの夜の教室で、黒板に残された未解決問題が、何者かによって解かれていた。 大学院生たちが数週間かけても辿り着けなかった証明。その式を直したのは、清掃員の母に連れられて校舎に入っていた、わずか12歳の少女・黒田ハナだった。 学校にも通えず、浅草の長屋で貧しく暮らしていた彼女。しかしその頭脳は、帝国大学の教授たちでさえ説明できないほど異質で、圧倒的だった。 だが、時代は彼女を“天才”とは呼ばなかった。 下層出身の少女であること。女子であること。正式な教育を受けていないこと。そのすべてが、彼女の才能を認めない理由にされた。 やがてハナは、学ぶ者ではなく“研究対象”として扱われ、歴史の表舞台から姿を消していく。 そして1964年。 大阪の古い長屋で、無名の女性が残した大量の紙束が見つかる。そこに記されていたのは、日本の学術史を根底から揺るがす、ある理論の原型だった。 黒田ハナとは何者だったのか。 そして、彼女の名はなぜ歴史から消されたのか――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 420 -
完結第6話
松の根の告発
2008年の梅雨の夜、都内の10億円の豪邸から、70代の母と40代の長女が忽然と姿を消した。 玄関の鍵は開いたまま。台所には作りかけの料理、寝室には飲まれないままの薬。金庫の中の現金や貴金属は手つかずで、強盗の形跡もない。 ただ、防犯カメラだけが不自然に切られていた。 疑いの目を向けられたのは、海外出張中だった末の息子・西村匠。だが彼には、ホテルの記録、カード決済、目撃証言までそろった完璧なアリバイがあった。 事件は未解決のまま15年が過ぎ、匠は莫大な遺産を受け継ぎ、慈善家として世間の表舞台に立つようになる。 しかし2023年、豪邸の解体工事中、庭の松の木の下から古い2つ折り携帯が発見される。 そこに残されていたのは、長女が命の最後に録音した“ある声”だった。 15年間、コンクリートの下で眠っていた母娘の真実が、ついに動き出す――。ミステリー|行方不明9.0千字5 218