"43番の帰還" 第5話
その頃、彩佳は美咲と2きりの部で、別の記憶を語り始めていた。
「私は本当は、るはずではありませんでした」
美咲は眉をひそめた。
彩佳は続けた。
「本来るのは、私ではなく、あの子だった」
彩佳が閉じ込められていたのは43の部だった。その隣には、46と呼ばれる女がいた。名は最までらされなかった。ただ、番号で呼ばれていた。
夜になると、その女は壁越しにさなをずさんだ。彩佳はを澄ませてそれを聞いた。
だがが経つにつれ、女の声はくなった。発し、咳が止まらなくなり、やがてちがることもできなくなった。
薬は与えられなかった。
事も減った。
そしてある、彩佳は命じられた。
「彼女のために穴を掘れ」と。
彩佳の声が震えた。
「まだ息をしていました」
美咲は何も言えなかった。
「彼女は私を見ました。そしてさな声で言ったんです。消さないで、と」
その瞬、彩佳ので何かが変わった。
自分がきてることにはないとっていた。けれど、消されるの代わりに覚えておくこと。それが自分の役目になった。
「私は約束しました。彼女を忘れないと」
彩佳の拳は固く握られていた。
「だから私は、き残らなければならなかったんです」
美咲はく息を吸った。
目のの女が背負ってきたものは、像をはるかに超えていた。
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彩佳は逃げてきたのではない。
誰かの声を消さないために、戻ってきたのだった。
彩佳の証言によって、捜査はさらに拡した。
43、45、46。番号は偶然ではなかった。の壁に刻まれた迷の記号も、ただの落きではなく、管理と記憶操作に関わる印だと考えられた。
彩佳は言った。
「壁にしい迷が描かれるたびに、子どもたちは混乱しました。自分が誰なのか、しずつ分からなくなっていきました」
名は番号に置き換えられた。
記憶は迷のへ閉じ込められた。
「私は43番。隣には42も44もいました」
美咲たちは失踪者リストを広げた。
過に方となった子どもたち。そのうち何かは、彩佳が語る番号と期がなっていた。当は別々の事件として扱われ、関連性はないとされていた。
だが、今は違った。
数字はを表していた。
そして、その数字の列は、いにわたって続いていた能性があった。
方で、恵子がクレアと呼ばれていた過も、事件をより複雑にした。
施設に残された古い記録には、クレアという名の女が14歳で入所したとかれていた。そこには、著しい記憶の混乱、格の断片化、番号による管理といった記述が並んでいた。
恵子は母になるに、すでに対象として扱われていた。
そしてその娘である彩佳も、43番として扱われた。
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これは偶然ではない。
世代を超えて続いてきた仕組みの部なのだと、誰もがじ始めていた。
そんな、資料で眠っていた古い段ボール箱から、1枚の写真が見つかった。
写真には、幼い女が写っていた。つ編みの髪、無表な顔。には「1981」と付が記されていた。
その写真を見た瞬、美咲の臓はきくねた。
そこに写る女の顔が、幼い頃の自分に似ていたからだった。
「偶然ですよ」
淳也はそう言った。
だが美咲は写真から目をせなかった。
記録のに、美咲の名はなかった。だが、写真の女の目の奥にあるを、美咲はどこかでっているような気がした。
「私は……関わっていたの?」
美咲は誰にともなく呟いた。
これまで事件を追う側だった自分が、実は事件の側にいないかもしれない。その能性は、彼女の元を崩すほどかった。
そのの夜、彩佳は美咲に言った。
「私は戻ってきたのではありません」
美咲は顔をげた。
彩佳は静かに続けた。
「呼び戻されたのです」
その言葉のを、誰もすぐには理解できなかった。
ただ、美咲はじていた。
彩佳の帰還は偶然ではない。
何かが彼女をここへ導いた。
あるいは、誰かが彼女を戻した。
そして、その目はまだらかになっていない。
美咲は机のに置かれた写真を見つめた。
43のタグ。
迷の記号。
失踪者たち。
クレア。
。
46の女。
そして、1981の写真。
すべてが1本の線でつながり始めていた。けれどその線の先は、まだ暗のに伸びていた。
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