みかん小説
本棚

"空っぽの珈琲サーバー" 第4話

目が見えなくなったのは残だけど、奈美先に診てもらえるのはラッキーだ」

病院へ向かうで、達は毎回のように奈美の話をした。

私はハンドルを握りながら、相槌を打った。

「へえ、そうなんだ」

「奈美先の顔は見えないけど、が柔らかくていい匂いがするんだよな」

その言葉に、私はわず眉をひそめた。

「顔も見えていないのに、ずいぶん奈美先なのね」

私の声に嫌さが混じったことに気づいたのか、達は慌てたように言い訳した。

「そう言うなよ。俺は何事も向きに考えようとしているだけだ。通院活をしでも楽しもうと努力しているんだぞ。物事はポジティブに考えた方がいいだろう」

「はいはい、分かりました」

私はそれ以言わなかった。

病院のを止めると、達杖を持ってりた。

「終わったら連絡する」

「分かったわ」

私は悪く言った。

「美の奈美先によろしくね」

瞬黙り、それから杖をついて病院のへ入っていった。

私はその背を見送りながら、胸の奥にさな違を抱いた。

その違が、きな真実へつながっていくとは、このはまだっていなかった。

信吾はになっても、素直で優しい性格に育ってくれた。

父親が失したこと、祖母が活であること。

広告

その2つの現実が、信吾を同代の子よりにしたのかもしれない。

私が疲れて帰ってくると、信吾は洗濯物を畳んでくれていることがあった。義母の膝掛けを直し、父の杖をいつもの所へ戻してくれることもあった。

「信吾、ありがとう。助かるわ」

「うん。母さん、今も遅かったね」

し忙しかったの」

「無理しすぎないでよ」

その言葉を聞くたびに、私は胸がくなった。

本当なら、信吾にはもっと自由にらしいを過ごしてほしかった。友達と遊び、部活に励み、宿題に追われ、何でもないことで笑う。そんな常を送ってほしかった。

けれど現実には、信吾もの事を理解し、私を助けようとしてくれていた。

それでも、信吾には相応のうっかりしたところもあった。

ゲームにで宿題を忘れたり、頼んだ買い物を忘れたりすることがある。

ある、私は買い物袋を確認しながら信吾に聞いた。

「信吾、頼んでおいたものは?」

信吾はリビングのでゲームを持ったまま、ぴたりときを止めた。

「あ……ごめん。友達と遊んでるうちに忘れちゃった」

私はわず肩を落とした。

「もう、信吾ったら。また?」

「ごめんって」

「まったく、男の子だからかしら。信吾は世話しないところがあるのよね」

そう言いながらも、私はく叱れなかった。

信吾はよく伝ってくれる。

広告

頃の割にひねくれてもいない。今はし忘れっぽくても、成したらしっかりしてくれるだろう。そうい、うっかりや忘れ物に関しては軽く注する程度にとどめていた。

そんな信吾もしずつ成し、狭にじられるようになってきた頃、引っ越しを考えている親戚からを格で譲ってもらえる話が来た。

それはいがけない話だった。

親戚は方へ移ることになり、放したいらしい。築数はあるが、部数は分で、子の義母にも対応しやすい広さがあった。

値段を聞いた、私はわず夫と顔を見わせた。

「この値段でが買えるのはありがたいな」

の声にも久しぶりにるさが戻った。

「本当ね。もうし広いみたいとっていたから、ちょうどよかったわ」

私はすぐに線を像した。義母の部を玄関に所にすれば、デイサービスの送迎も楽になる。達の部も、トイレやリビングに所にできる。

盲目の夫と子の義母を連れての引っ越しは変だった。

具の配置は慎に決めなければならなかった。達がぶつからないように、通には物を置かない。義母の子が通れるよう、段差を確認する。信吾も学に荷物運びを伝ってくれた。

「これ、どこ置く?」

「それはお父さんの部の棚にお願い」

「分かった」

信吾は汗をかきながらも文句を言わずにいた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: