"空っぽの珈琲サーバー" 第11話
コーヒーの件で嘘が確定したこと。
そして、奈美との関係が疑われる写真があること。
瑞穂は最初、信じられないという顔をした。
「え、本当は達の目は見えていて、しかも浮気をしているですって? 信じられないわ」
私は信吾に目を向けた。
信吾は黙ってスマートフォンを差しした。
「おばあちゃん、これ見て」
画のには、杖を使わず廊を歩く達が映っていた。
瑞穂は画面を見つめたまま、瞬きもしなかった。
「まあ……普通に歩いているわね」
次に、私は奈美と達がを歩く写真を見せた。
瑞穂のが震えた。
「しかも、見たことがない女のと仲むつまじく歩いているわ」
「このが、担当医の奈美先です」
私がそう言うと、瑞穂はく息を吐いた。
しばらくして、彼女の表が崩れた。
りだけではなかった。
しみと、自責のが混じっていた。
「ということは、あの子は目が見えないふりをして、私の世話を全てのぞみさんに押し付けていたというのね」
私は何も言えなかった。
瑞穂は厳しいだった。
その厳しさに、私は何度も傷ついた。
けれど、瑞穂の根底には真面目さがあった。自分のことものことも、甘やかさずに考えるだった。
だからこそ、息子の嘘で私に迷惑をかけていたとった、その責任をじずにはいられなかったのだろう。
広告
瑞穂は子のでくをげた。
「のぞみさん、今までごめんなさいね。私が悪かったわ」
「お母さん、そんな」
「自分の息子も満に育てられなかった私が、のぞみさんにうるさく言って、本当に申し訳なかった」
私は瑞穂の膝にを置いた。
「お母さん、分かりました。もう気にしないでください」
それは簡単な許しではなかった。
けれど、瑞穂は達の嘘の被害者でもあった。彼女もまた、息子に裏切られていたのだ。
その、瑞穂は達に話をかけた。
私は隣で見守っていた。
「達」
瑞穂の声はかった。
話の向こうで達が何か言った。
瑞穂はそれを聞き流すように、はっきりと言った。
「子どももいるというのに、自分の勝で、あんたがどれだけに迷惑をかけたのか分かっているの?」
しばらく沈黙があった。
瑞穂は続けた。
「あんたはもう、私の息子でも何でもないわ」
その言葉を聞いた、私は胸が痛んだ。
母親にそう言わせるほど、達はくのものを壊してしまったのだ。
話を切った瑞穂は、しばらく黙っていた。
やがて、私に向かって言った。
「のぞみさん、迷惑でなければ、私もあなたのお母様のに置いてもらえないかしら。これ以、あの子と同じにはいられない」
「もちろんです」
私はすぐに答えた。
こうして瑞穂は、達を見限り、私の実へ移りむことになった。
広告
方、達はを失い、母にも絶縁され、ようやく自分の置かれた状況を理解し始めたようだった。
けれど、それでもまだ終わりではなかった。
数、達と奈美の倫が、世に暴かれることになる。
数の朝、私のスマートフォンに信吾が駆け込んできた。
「母さん、これ見て」
まだ寝癖の残る髪のまま、信吾はスマートフォンの画面を差しした。私は朝の支度をしていたを止め、画面を覗き込んだ。
そこには、週刊誌の記事が表示されていた。
見しを読んだ瞬、私は息を呑んだ。
そこそこ名な盲目のピアニストYouTuberと、テレビ演もある美科医の倫。
記事には、達と奈美がを並んで歩く写真が掲載されていた。さらに、達が本当は失していなかった疑惑についてもかれていた。
「たんだ……」
私はわず呟いた。
信吾は複雑な顔をしていた。
「おばあちゃんが、どこかに話したんだとう」
私は台所の方を見た。
瑞穂は母と緒に朝の準備をしていた。こちらの会話に気づいたのか、子をしかして振り返った。
「私が話したのよ」
瑞穂は静かに言った。
その声に迷いはなかった。
「私たちだけでなく、世まで騙してきたんだから。きちんと真実をかして謝罪するべきよ」
私は何も言えなかった。
瑞穂のりは、母親としてのりでもあり、達に騙された1のとしてのりでもあった。
記事はすぐにネットニュースにも転載された。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
娘の遺した手紙
娘の葬儀を終えたその夜、43歳の佐藤陽子は夫から家を追い出された。 「もうお前を置いておく理由はない」 20年間支えてきた夫から浴びせられた冷たい言葉。さらに夫は、亡くなったばかりの娘の保険金を手に入れようとしていた。 しかし、夫が知らなかったのは、陽子が何も持たない専業主婦ではなかったこと。 祖父から受け継いだ700億円規模の資産、そして夫の裏切りを暴くために動き始めた秘密の調査。 やがて明らかになる、娘の死に隠された真実。 最後まで母を思い続けた娘が残した一通の手紙が、止まっていた家族の時間を動かし始める――。夫婦|親子関係1.8萬字5 302 -
完結第10話
捨てられた妻の逆転相続
十年間、義母の介護を一人で背負い続けた妻・恵子。 しかし、四十九日の法要が終わった直後、夫から告げられたのは「もう君の役目は終わった」という冷たい離婚宣告だった。 家族のために尽くしてきた年月を、ただの「役目」としか見ていなかった夫と息子。 何も言い返さず家を出た恵子だったが、翌日、誰も知らなかった一通の封筒が加納家で見つかる。 そこに記されていた亡き義母の最後の意思が、家族の運命を大きく変えていく――。嫁姑|夫婦|介護1.4萬字5 691 -
完結第9話
捨てられた妻の逆転人生
30年間家族を支え続けた妻・美智子に、夫は突然「もうお前は必要ない」と離婚届を突きつけた。 専業主婦として何も生み出していないと思われていた美智子は、何も言い返さず家を去る。 しかし翌朝、夫が残された古いファイルを開いた瞬間、30年間隠されていた衝撃の真実が明らかになる。 会社を支えていた取引先、危機を救った技術、築き上げた成功――そのすべての裏側には、誰にも知られず夫を支え続けた美智子の存在があった。 「家政婦」と呼ばれた妻が、本当は誰よりも会社と家族を守っていた理由とは。 そして、すべてを失った夫が初めて気づいた、取り返せない30年間の後悔とは――。因果応報|夫婦|熟年離婚1.4萬字5 2536 -
完結第10話
退職祝いは離婚届
38年間、仕事一筋で家族を支えてきた黒田俊夫。 退職祝いの夜、彼は妻・真由美に言った。 「これからは、二人でゆっくりしよう」 しかし、その言葉を聞いた真由美は笑わなかった。彼女が静かに差し出したのは、白い封筒に入った離婚届だった。 若い頃に交わした旅行の約束。何度も後回しにされた夫婦の時間。「退職したら」「落ち着いたら」「今度こそ」と言われ続けた38年。 俊夫にとっては、これから始まるはずの老後だった。けれど真由美にとっては、もう待ち続ける時間の終わりだった。 妻はなぜ、夫の退職の日を選んで家を出たのか。 そして俊夫は、妻がいなくなった家で初めて、自分が見てこなかったものに気づいていく――。夫婦|第二の人生|熟年離婚1.5萬字5 1145 -
完結第12話
不機嫌夫の末路
夫の大地は、気に入らないことがあると黙り込む人だった。 怒鳴るわけでも、手を上げるわけでもない。ただ返事をしない。目を合わせない。家の中を冷たい沈黙で満たし、妻の望美が謝るまで何事もなかったように振る舞う。 望美はそれを、夫婦ならよくあることだと思い込んでいた。 しかしある日、大地の沈黙は4歳の娘・ひなにまで向けられる。父親に無視された娘は、布団の中で小さくつぶやいた。 「パパ、ひなのこと嫌いになっちゃったの?」 その一言で、望美は自分の幼い頃を思い出す。父の機嫌を読み、母が謝る姿を見ながら育ったあの日々。そして今、自分も同じことを娘に繰り返させようとしていることに気づいてしまう。 夫と向き合おうとした望美に、大地は言い放つ。 「そっちの方こそモラハラだろ?」 届かない言葉。変わらない沈黙。けれど、4歳の娘が口にしたある一言が、望美の中で長く続いてきた連鎖を断ち切る決意へと変わっていく。夫婦|親子関係1.7萬字5 856 -
完結第15話
300万円の口止め料
義父が倒れた日、夫は私の口座に突然300万円を振り込み、「病院には絶対に来るな」と命じた。 22年間、義父の通院や介護の手続きを支えてきたのは私だった。だからこそ、夫の不自然な言葉に胸騒ぎを覚え、私は命令を破って病院へ向かう。 個室の扉の前で聞こえてきたのは、弱った義父に書類へ署名させようとする夫の声だった。 「雪には300万円を渡した。もう納得している」 その瞬間、私は悟る。あの300万円は感謝の金ではなく、私を義父から遠ざけるための口止め料だったのだ。 夫が隠していた4500万円の借金。義父の家と土地を狙う計画。そして、病室に持ち込まれた分厚い書類。 けれど夫はまだ知らなかった。 義父が数年前から、自分の意思と大切な人を守るために、ある“本物の備え”を残していたことを――。夫婦|金銭問題2.3萬字5 800 -
完結第13話
消えた託児代7万円
2001年、東京の外れにある義実家で暮らす保育士のゆいは、夫の妹・安奈から何度も娘の子守りを押しつけられていた。 「保育士でしょ?」 「家族なんだから」 「今日だけお願い」 そう言われるたび、ゆいは仕事帰りに1歳のクレアを風呂に入れ、寝かしつけ、夜泣きにも起きてきた。けれど夫も義母も、それを“当然の手伝い”としか見ていなかった。 ある朝5時半、安奈は39度の熱を出したクレアを抱えて現れる。 「娘の子守りよろしく」 仕事を理由に断ろうとするゆいへ、夫は笑って言った。 「保育士なんだから慣れてるだろ。ケチくさいこと言うなよ」 その一言で、ゆいの中で何かが切れた。 なぜ安奈は、そこまで頻繁に娘を預けていたのか。 なぜ“仕事”と言って家を空ける日が増えていたのか。 そして、クレアの父親だけが知らなかった事実とは――。 便利な保育士として扱われ続けた嫁が、初めて「無理です」と告げた日、義家族の隠された嘘が静かに崩れ始める。兄弟姉妹|夫婦1.9萬字5 1037 -
完結第13話
100億の身代わり花嫁
貧しさに追い詰められた28歳の美咲は、妹の命を救うため、68歳の不動産王・大鳥幻蔵との結婚を受け入れた。 5000万円の借金は消え、妹の手術費用も用意される。そう信じて臨んだ結婚式で、美咲は親族たちから「金目当ての女」と嘲られながらも、ただ耐え続けた。 だが初夜、幻蔵は優しい夫の顔を捨て、恐ろしい真実を告げる。 美咲は妻として迎えられたのではなかった。100億円の借金と危険な会社を押しつけられる“身代わり”として選ばれたのだ。 妹を人質に取られ、逃げ道を失った美咲。夫、親族、裏社会、病院までもが敵に回る中、彼女は静かに涙を拭う。 誰も知らなかった。 彼らが「底辺の女」と笑った美咲こそ、10年間、父の死の真相を追い続けてきた人物だったことを――。夫婦|金銭問題1.9萬字5 1982 -
完結第13話
福嫁の逆転茶屋
江戸の日本橋にある茶屋「泡雪屋」の若旦那・宗介は、店の立て直しのため、評判の商人・泉屋五兵衛の娘を妻に迎えることになる。 宗介が望んでいたのは、江戸でも噂になるほど美しい姉・お花だった。美しい女将がいれば、傾きかけた店にも客が戻る。そう信じていたからだ。 しかし、五兵衛が宗介に差し出したのは、お花ではなく、ふくよかで目立たない妹・福だった。 祝言の日、客たちは陰で笑い、宗介自身も心のどこかで落胆を隠せなかった。だが、福が作る菓子と入れる茶は、少しずつ泡雪屋の空気を変えていく。 派手ではないのに忘れられない味。人の心の奥にしまわれた記憶を呼び起こす菓子。福は、宗介が見落としていた“商いで本当に大切なもの”を静かに見せていく。 やがて泡雪屋は、思いがけない形で評判を取り戻していく。 なぜ、泉屋五兵衛は美しい姉ではなく、福を宗介に嫁がせたのか。 そして若旦那が、かつて落胆した嫁に深く頭を下げることになった理由とは――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 137 -
完結第14話
35万円の空冷蔵庫
大晦日、妻の弓が35万円かけて用意した正月料理が、冷蔵庫から一つ残らず消えていた。 持ち去ったのは、夫・健一の母と弟。松阪牛、タラバガニ、有名料亭のおせちまで奪いながら、彼らは笑ってこう言い残す。 「明日はカップ麺でも食べてなさい」 20年間、“長男の嫁”として姑に尽くし続けてきた弓。いつか本当の家族として認めてもらえると信じ、理不尽な仕打ちにも耐えてきた。 しかし、その夜、健一は知ってしまう。食材を奪っただけでは終わらない、母と弟が5年前から隠し続けていた金の秘密を。 元日の新年会。食卓に並んだのは、豪華な料理ではなく一箱のうどんだけ。 だが、襖の向こうには親戚たちが集まり、20年間隠されてきた佐藤家の本性を静かに聞いていた――。兄弟姉妹|夫婦2.1萬字5 3479