"五度目のドタキャン弁当" 第4話
得げな声だった。
齢者が集まる待は、報交換のだ。町の報が全て集まると言っても過言ではない。
「志帆さん、どうして私に運会のことを教えないのよ。悪ね」
「悪したわけじゃありません。お母さんがの運会の、焼けしたから2度と誘うなっておっしゃったんですよ」
「そんなこと言ったかしら」
とぼけた声にりが湧いた。
の運会も散々だった。トメはのレジャーシートに当然のように座り込み、「ちょっと詰めて」と言い放った。その族は固まり、私は平謝りした。
さらに巨な傘を広げ、ろの保護者から注されると逆ギレした。
「じゃあ私にミイラになれって言うの?」
極めつけに、最列にいた若い夫婦に向かって、「うちの孫が見えないからどいてくれる?」と言った。
穴があったら入りたかった。
だから今はらせたくなかったのだ。
けれどトメは、私の黒歴史のフラッシュバックなど気にもしていない。
「リレーの選に選ばれたなら、絶対見にかなきゃよね」
「……そうですね」
「志帆さん、お弁当よろしくね。ミートボールがべたいわ。甘いトマトソースと照り焼きソースね。あとゆで卵も」
図々しさに、私はいたが塞がらなかった。
その、ゆいが目を輝かせながら私の腕をつついた。
「ねえ、もしかしておばあちゃん来るの?」
広告
私は戸惑いながら頷いた。
「リレーで1位になるところ、絶対に見てもらうんだ」
ゆいは嬉しそうだった。
私は引きつった笑顔を浮かべることしかできなかった。
今はどうか、面倒なことになりませんように。
そう願っていた。
けれど、願いは簡単に裏切られた。
運会当。
私は予定通り朝4に起きた。まだは暗く、台所の窓には自分の眠そうな顔が映っていた。目をこすりながら米を炊き、唐揚げを揚げ、卵焼きを焼いた。
油の音がじゅわじゅわと響く、私は姑のリクエスト通り、ミートボールを2種類のソースで用した。甘いトマトソースと照り焼きソース。ゆで卵も入れた。
ゆいもいつもより30分以起きして、朝からハイテンションだった。
「ママ、今絶対1位になるからね」
「楽しみにしてる」
お弁当と同で朝を用し、その、ゆいのい髪がリレーの邪魔にならないよう、きつめに編み込んだ。忙しだった。
姑の分まで作ったせいで、弁当はかなりの量になった。3段の箱に詰めたそれは、ながら気いが入りすぎているとうほどだった。
「おばあちゃん、今応援に来るんだよね」
ゆいが嬉しそうに尋ねる。
私は瞬を止めたが、すぐに笑顔を作った。
「絶対にくって言ってたわ」
しかしをる直、トメから話がかかってきた。
広告
そして、あの言で全てが崩れた。
「やっぱり今、男の孫ちゃんの誕会にくことにしたから」
話を切った、ゆいに伝えると、娘はさく笑って言った。
「そっか。やっぱり。おばあちゃん、いつもそうだね」
その顔が、運会のもかられなかった。
会に着き、夫にトメが来ないことを伝えると、夫は苦笑いした。
「その方がいいよ」
の迷惑為をいすと、確かにその通りだった。けれど、娘の寂しそうな顔は消えない。
運会は予定通り始まった。
入、ラジオ体操、応援戦。子どもたちの声が庭いっぱいに響く。今は自分勝な姑のことなど忘れて、分に応援しようと決めた。
が子はもちろんい。けれど、さな体で懸命る1もい。学の列やアナウンスをする6も派でい。子どもの運会は、らない子まで応援したくなるから議だ。
赤ちゃんを抱っこしながら応援している若い夫婦も、シルバーカーを押して来た配の方も、みんなまとめておしく見えた。
私はきな声で声援を送り、写真をたくさん撮った。
午の競技が終わり、待ちに待ったお昼休憩になった。
どこの族もレジャーシートを広げ、弁当を並べ始める。
私は箱をけた。
そして、改めて現実を突きつけられた。
い。
量がいのでいのは当然だ。けれどそれ以に、気持ちを踏みにじられた事実がかった。
午の競技が控えているゆいは、きっとお腹いっぱいにはべない。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
娘の遺した手紙
娘の葬儀を終えたその夜、43歳の佐藤陽子は夫から家を追い出された。 「もうお前を置いておく理由はない」 20年間支えてきた夫から浴びせられた冷たい言葉。さらに夫は、亡くなったばかりの娘の保険金を手に入れようとしていた。 しかし、夫が知らなかったのは、陽子が何も持たない専業主婦ではなかったこと。 祖父から受け継いだ700億円規模の資産、そして夫の裏切りを暴くために動き始めた秘密の調査。 やがて明らかになる、娘の死に隠された真実。 最後まで母を思い続けた娘が残した一通の手紙が、止まっていた家族の時間を動かし始める――。夫婦|親子関係1.8萬字5 302 -
完結第10話
捨てられた妻の逆転相続
十年間、義母の介護を一人で背負い続けた妻・恵子。 しかし、四十九日の法要が終わった直後、夫から告げられたのは「もう君の役目は終わった」という冷たい離婚宣告だった。 家族のために尽くしてきた年月を、ただの「役目」としか見ていなかった夫と息子。 何も言い返さず家を出た恵子だったが、翌日、誰も知らなかった一通の封筒が加納家で見つかる。 そこに記されていた亡き義母の最後の意思が、家族の運命を大きく変えていく――。嫁姑|夫婦|介護1.4萬字5 691 -
完結第12話
家賃55万の置き土産
夫の家族と13年間暮らしてきたまゆ子は、ある日突然、義母から告げられる。 「里帰り出産で長男夫婦が来るから、あなたは明日までに出ていって」 家族のために尽くしてきたはずだった。血のつながらない息子にも、義母にも、夫にも、ずっと気を遣ってきた。けれど義母にとって、まゆ子はもう“用済み”の存在でしかなかった。 しかも夫は出張と偽り、別の女性と会っている疑いまで浮かび上がる。 翌日、まゆ子は言われた通り家を出ることにした。 ただし、何もかも置いていくつもりはなかった。 月55万円の家賃を払っていたのは誰なのか。リビングを埋める家具家電を買ったのは誰なのか。 まゆ子が引っ越し業者に告げた一言で、義母たちの“幸せな同居計画”は静かに崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.8萬字5 515 -
完結第11話
私を変えた元嫁
老舗和菓子店「宮本屋」を守ってきた宮本美津江は、一人息子の結婚相手・梨奈を初めて見た時、心の中でこう思った。 「この子なら、教えれば変えられる」 靴の揃え方、挨拶、お辞儀、言葉遣い、店での立ち居振る舞い。美津江はかつて自分が姑に教え込まれたように、嫁である梨奈を“宮本屋にふさわしい人”へ育てようとした。 最初は頼りなかった梨奈も、やがて店の顔となり、若女将として客に愛される存在になっていく。売上も伸び、雑誌やテレビにも取り上げられ、美津江は誇らしげに言った。 「この子は、私が育てたのよ」 けれどその言葉は、少しずつ梨奈の心を傷つけていた。 そんな中、息子・拓海の裏切りが発覚する。梨奈は家を出て、宮本屋を去る決意をするが、美津江が最初に心配したのは、嫁の心ではなく店の未来だった。 梨奈は本当に、美津江に育てられただけの嫁だったのか。 そして、宮本屋に残された美津江は、梨奈のいない店で初めて、自分が何を奪い、何を見落としてきたのかを知る。 嫁を変えようとした姑と、自分の人生を取り戻そうとした元嫁。 これは、家族でも他人でもない二人の女性が、衝突の末にもう一度向き合っていく物語。嫁姑|第二の人生1.6萬字5 256 -
完結第11話
捨てた料理の代償
義母・美智子と同居しながら、穏やかに暮らしていた奈々子。 ところが、お盆になると義妹の杏奈夫婦が突然帰省してくる。連絡もなく家へ上がり込み、食事を当然のように食べ、手伝いもせず、さらには義母へ金まで借りようとする二人。注意されるたび、杏奈は奈々子を「他人」扱いし、実家を乗っ取った嫁のように責め続けていた。 そして迎えたお盆の夕食。 食卓に並んだ料理を見た杏奈は、皆の前で言い放つ。 「他人が作った食事なんて、汚くて食べられない」 さらに翔太まで調子に乗り、料理を捨てようとする。 しかし、その料理には杏奈夫婦が知らない“ある秘密”があった。 閉じられていた和室の襖が開いた瞬間、杏奈の顔色は一変する。 翌朝、この家を出ていくことになったのは、「他人」と呼ばれた奈々子ではなかった――。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 5879 -
完結第11話
22年目の母席
7歳の時から、美緒を育ててきた高瀬京子。 血のつながりはなくても、熱を出した夜にそばにいたのも、弁当を作ったのも、卒業式や成人式に付き添ったのも、すべて京子だった。美緒もまた、いつしか彼女を「お母さん」と呼ぶようになっていた。 しかし結婚式を前に、22年間ほとんど姿を見せなかった実母・麗子が現れる。 実の母親という分かりやすい肩書。結婚祝いの200万円。そして、相手方の家族が求める“普通の形”。 やがて美緒は、京子に告げる。 「今回は、麗子さんにお願いしたい」 さらに結婚式当日だけは、自分を「京子さん」として扱ってほしいと頼まれた京子。22年間積み重ねてきた日々は、たった一言で母親の席から外されてしまう。 本当の母親とは、産んだ人なのか。それとも、そばに居続けた人なのか。 娘の結婚式を前に、京子が初めて自分の傷と向き合う、静かな家族の物語。因果応報|親子関係1.7萬字5 1806 -
完結第13話
実印を押さない母
3年前、「半年だけ」という約束で始まった息子一家との同居。 夫を亡くし、一人暮らしだった67歳の佐伯佳代子は、息子夫婦と孫たちを自宅に迎え入れた。最初は賑やかで温かな暮らしだったが、いつの間にか食事、洗濯、孫の送迎、生活費の負担まで、すべてが佳代子の“当然の役目”になっていく。 そんなある日、息子が何気ない口調で切り出した。 「母さん、この家さ。そろそろ俺の名義にしない?」 家族だから。どうせ将来は相続するから。リフォームのためだから。 そう説明されながらも、佳代子の胸には小さな違和感が残る。そして偶然見つけた一枚の書類には、名義変更後の家の売却と、佳代子を高齢者住宅へ移す計画が書かれていた。 家族のために黙ってきた母が、初めて自分の人生を選び直す。 名義変更の日、佳代子が判子を押したのは、家を渡す書類ではなかった――。嫁姑|親子関係|金銭問題2.0萬字5 1096 -
完結第11話
母に届かなかった10円
昭和55年、駅前の公衆電話の横に、毎月25日だけ10円玉が一枚置かれるようになった。 落とし物にしては場所が不自然で、誰が置いているのかも分からない。新聞売りの森田は、毎月同じ日に現れるその小さな硬貨を不思議に思い、やがて駅前の子どもたちもそれを「10円の日」と呼ぶようになる。 そんなある冬の朝、森田はついに10円玉を置く女性の姿を見つける。 なぜ彼女は、誰にも知られないように毎月10円玉を置き続けていたのか。 その理由は、何十年も前、たった一枚の10円玉がなかったためにかけられなかった「あの日の電話」に隠されていた――。昭和|親子関係1.6萬字5 406 -
完結第12話
閉店写真館の11通
閉店まで残り90日。 57年続いた高瀬写真館を片づけていた佐知子は、暗室の古い引き出しから、父の字で「未引取」と書かれた11通の封筒を見つける。 中に入っていたのは、1990年代から2000年代初めに現像されたまま、誰にも受け取られなかった写真たちだった。 夏の河原で笑う家族。クリスマスの夜に並ぶ姉妹。小学校の運動会。何気ない日常の一枚一枚には、持ち主たちが忘れたはずの時間と、言えなかった後悔が静かに残されていた。 佐知子は閉店までに、できる限り写真を持ち主へ返そうと決める。 けれど、封筒を開けるたびに戻ってくるのは、他人の記憶だけではなかった。 その中の一枚に写っていたのは、12歳だった自分の娘・真理。 写真に残っていた笑顔の外側で、母と娘の間には、長いあいだ言葉にできなかった寂しさが眠っていた。 受け取られなかった写真は、何を取り戻し、何を変えられないまま残すのか。 閉店する小さな写真館を舞台に、家族、記憶、後悔、そして写真に写らなかった時間を描く物語。親子関係1.7萬字5 170