"柿の葉の封印" 第3話
ある者は「さあ昔のことは忘れてしまえ」とそのをちり、またある者は「触れてはならんこともあるんや」とい声で囁き、固くを閉ざした。
彼らの背は裕に対して見えない壁を築いているようだった。
その壁はただの無関ではない、恐怖。
そしてもしかしたら罪悪のようなものが混じりった、くたい壁だった。
彼らが様にまとうく染みついた沈黙の雰囲気が、このに根付く者への畏怖と同に、何かを封じ込めておきたいというの現れのようにもじられた。
孤無援、この全体が巨な沈黙の共犯者なのだと悟った裕は途方に暮れかけた。
その、ふと母から聞いた話をいした。
と親しくしていた元駐の話だ。
もう退職しているかもしれないが、最の望みをかけて裕はかつての駐所があった所へと向かった。
駐所はすでに普通の民になっていたが、幸いにも表札には「田所」という名が残っていた。
呼び鈴を押すと、から「どなたかな」とししゃがれた声がし、ゆっくりと玄関がいた。
現れたのは代といった貌の柄な老だった。
彼が元駐の田所本だった。
事を話すと田所は裕を黙ってのへと招き入れた。
きちんと入れのき届いた古い本、磨き込まれた廊がひんやりとよい。
広告
通された客には古びたの匂いと、庭から漂ってくる犀の甘いりが満ちていた。
田所は黙ってお茶を入れると裕の正面に座り、いをいた。
「蜂さんのいご親戚でしたか。あの事件のことは今でも々に見ます」
その目には懐かしむとは違う、い悔の翳りが宿っていた。
「事件としてきちんと捜査できなかった。いや、させてもらえなかったと言うべきかもしれん」
田所は絞りすように言った。
「部から侵入した形跡はなく、争った跡もない。当初から警察は事件よりも夜逃げの線で見ていた。
そしてその空気を決定付けたのがの力者である葉正部のだったという」
「葉の旦がな、蜂は昔からの使い方が派なとこがあった、夜逃げでもしたんやろ。に騒いでの評判を落とすな、とそう言うて回ったんや」
田所の言葉にがこもる。
「蜂と葉はこの桜井ので、何代にもわたって張りってきた。
特にからのの利権や当たりの良い等の畑を巡っては、先祖代々ずっと対が続いとったんですわ。
蜂が消えることで最も利益を得るのは誰か。を見るよりらかだった。
たちものどこかでは葉を疑っていたはずだ。
しかしのインフラを備し、祭りを仕切り、絶な発言力を持つ葉に逆らえる者など、この閉鎖なにはもいなかった。
広告
警察本部にも顔が効くと噂される葉の言で、捜査本部の空気はがらりと変わった。
面倒事にしたくない。誰もがそう考え、『神隠し』という便利な言葉にびついた。
わしは制を着るとして、本当はもっと踏み込むべきだった」
声が震え、そのく刻まれたシワから筋の涙が静かにこぼれ落ちた。
「のに踏み込めなかったの恐怖、葉さんを敵に回す怖さ。それに負けたんです。
正隆さんも千子さんもあんなにええたちやったのに、申し訳ない。
正義を貫けなかったの男の、25 越しの悔だ」
その涙は単なる悔ではなく、真実から目を背けてきた全体の罪をに背負っているかのように見えた。
裕ので全ての点が線で結ばれ、憎むべき黒幕の姿がはっきりと形になった。
葉正部だ。
葉がの対の末に、蜂をこのから追いしたのだ。
方法は分からない。だが彼が黒幕に違いない。
しかし、と裕はった。田所の話の節々に奇妙な引っ掛かりがある。
まるで葉のいだけでは説しきれない何かを含んでいるような、そんな余韻。
力者が対相を追い詰めるにしては、そのやりはあまりに唐突で、そして穏だ。
裕は固く拳を握りしめた。
次はその男に直接会うしかない。
元駐の悔に満ちた証言は裕のに、葉という確な敵の姿を刻みつけた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
夫が毎日3回トイレを磨く理由
結婚五年。紗季は、温厚で家事にも協力的な夫・玲央と、四歳の娘・莉乃と平穏に暮らしていた。ただ一つ奇妙だったのは、夫が毎日三回もトイレを掃除し、誰にも触らせなかったこと。 ある日、法医学者の親友・美代子が、トイレの排水設備から人間の歯と古い血痕の痕跡を発見する。調査を進めると、この家では六年前、玲央と同棲していた婚約者が突然姿を消していた。夫婦|真実|真相1.5万字5 163 -
完結第16話
夫の不倫相手の娘を9年育てた私の離婚
「離婚します。息子2人は連れていきます」 そう告げた雪に、夫と義母は11歳の理子まで連れて出ろと言い放った。だが理子は、雪の親戚の子ではない。夫が不倫相手との間にもうけ、9年前に雪へ押しつけた実の娘だった。 血のつながらない理子を母として育ててきた雪。ところが夫は、再び理子の実母と関係を持ち、3人の子どもをすべて雪に背負わせて「自由」になる計画を進めていた。 しかし二人は知らなかった。雪と理子の間に法的な親子関係がないことが、彼らを逃げ場のない立場へ追い込む最大の切り札になることを。嫁姑|夫婦|真相|ATM扱い|親子関係2.4万字5 431 -
完結第19話
毎日ラーメンをもらいに来た老人の遺言
夫を亡くし、一人で暮らすさくらのもとへ、毎夕ラーメンを一袋だけ求めに来る老人・源蔵。厳しい冬を案じた彼女は、見返りを求めず一箱分のラーメンを贈る。しかし三日後、源蔵は隣の古い家で静かに息を引き取っていた。 室内で見つかったのは、貧しい暮らしには似つかわしくない巨大な金庫。そして現れた息子夫婦は、父の死を悼むことなく、莫大な財産を自分たちのものだと主張する。 やがて一人の弁護士が読み上げた遺言により、源蔵が数十億円の資産を持つ実業家だったことが判明する。全財産を託されたのは、血のつながった息子ではなく、ラーメンを贈ったさくらだった。だが金庫の奥には、遺産以上に恐ろしい、息子夫婦の罪を暴く黒いファイルが残されていた。裡の顔|真相|第二の人生|介護2.8万字5 1238 -
完結第14話
赤ちゃんの声が聞こえる姪が、夫の嘘を見抜いた日
生後一か月の息子を見た六歳の姪・美久は、「赤ちゃん、お父さんにひどいことをしないでって言ってる」と告げる。その言葉に、夫・徹だけが激しく動揺した。 育児をせず、暴言を重ねる夫に違和感を抱き始めた亜鳥。やがて美久が書斎で見つけた封筒から、亜鳥を被保険者、徹を受取人とする高額な生命保険の書類が発見される。 さらに調べると、徹には隠していた借金と別の女性がいた。夫婦|真実|真相|親子関係1.4万字5 617 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 545 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 118 -
完結第20話
妻のスマホに残っていた半年先の「2名様」
妻の美和を亡くして半年。直人は解約できずにいた妻のスマートフォンから、6日後に迫ったレストランの予約を見つける。 予約したのは、亡くなる12日前。日時は何の記念日でもない土曜日の夜で、人数は「2名」。相手を知らされていなかった直人は迷った末、店へ電話をかける。 そこで告げられたのは、美和が封筒を預けていること、そして彼女が来られない場合も、直人だけで料理を食べてほしいという願いだった。 最初の一皿を食べ終えた時、ようやく渡された妻の手紙。そこに記されていたのは別れの言葉ではなく、残される夫が一人でも暮らしていけるように用意された、最初の「練習」だった。夫婦|真相1.9万字5 1947 -
完結第10話
昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父
昭和51年、炭鉱が閉山した3日後、保安係だった父・修一が姿を消した。玄関には泥のついた長靴と作業帽が残され、母は「探さなくていい」と口を閉ざす。だが娘が父の作業着から見つけた紙片には、閉鎖された坑道の名と、謎の時刻が記されていた。 調べるほどに浮かび上がる、改ざんされた保安記録、帳簿から消された作業員、そして会社が隠そうとする閉山直前の事故。やがて坑道に残された録音から、父が誰かを救おうとしていた事実が明らかになる。しかし数十年後に届いた父の名札には、さらに不可解な言葉が刻まれていた。 「北の出口から出た。家へは戻れない」 父はなぜ、生きて坑内を出ながら家族のもとへ帰らなかったのか――。時代|歴史|昭和|ミステリー|真相1.5万字5 234 -
完結第13話
妹に夫を譲れと言われた結婚式の翌朝
同窓会で再会した幼馴染の秋と結婚したありさ。だが、昔から姉を敵視する妹・百合は「秋は本当は私と両思いだった」と言い張り、父まで巻き込んで二人の結婚を妨害し始める。 そして結婚式の翌朝、百合は突然「秋の子を妊娠した」と告白。父はありさに離婚して夫を妹へ譲れと迫る。ところが妊娠時期を聞いた瞬間、ありさと秋は揃って大爆笑した。その二か月前、秋には百合の主張を根底から覆す、決定的な医療記録が残っていたのだ――。兄弟姉妹|夫婦|真相2.0万字5 1646 -
完結第12話
浄水器の異物から、夫の秘密が暴かれた
八か月前から原因不明の頭痛と吐き気に悩まされている美央。病院を巡っても異常は見つからず、夫・公平と義母・悦子は、仕事を辞めて療養するよう優しく勧めていた。父から相続した自宅と賃貸ビルの管理も夫に任せればいい――二人の気遣いを信じ、美央は自分の心が弱いせいだと思い始めていた。 ところがある日、交換したばかりの浄水器が異常を知らせる。点検に訪れた作業員が内部を開けると、正規のカートリッジは別物とすり替えられ、飲料用ではない物質が詰め込まれていた。さらに玄関の開錠記録と防犯映像から、美央の出張中に工具袋を持った義母が二時間近く家へ入っていたことが判明する。 安全な場所へ避難した途端、八か月続いた症状は急速に消えていった。分析で検出されたのは、長期間摂取すれば臓器に障害を残す危険のある特殊な工業薬品。その入手記録には、妻を心配し続けていたはずの公平の署名が残されていた。 多額の借金を抱えた公平は、美央の判断力を奪い、父の遺したビルを処分するための委任状まで準備していた。しかし押収された端末を調べると、計画は財産だけでは終わっていなかった。生命保険の受取人変更まで相談していた相手は、美央が体調不良について最も信頼し、何度も助けを求めていた人物だった。夫婦|真実|真相|修羅場1.8万字5 507