"世田谷一家殺害事件:隠された真実" 第6話
勢子はお茶を注ぎながら、ゆっくりと語り始めた。末の買い物にかけ、楽しそうに笑う幹夫とレイ。の準備をする子の姿。何つ変わったことなどなかった。
「いつも通りの穏やかなでしたよ。あの子たちが、まさかこんなことになるなんて……」
言葉が詰まり、涙が筋こぼれ落ちる。歳と歳の孫たち。これからどんなになり、どんなを叶え、どんなを歩むはずだったのか。運会も卒業式も結婚式も、何つ見届けることができなかった。
止められないだけが、無慈に孫たちの未来を奪いっていく。無のいが、老いた肌にく滲む。黒田は言葉をかけず、ただその涙を見守った。この涙のを、誰よりも理解していたからだ。
涙を拭い、勢子はふと顔をげた。
「そういえば、本当に些細なことなんですけど……事件の週ほどだったかしら。幹夫が突然、私の古いアルバムが見たいって言いしたんです」
「アルバムですか?」
「ええ、自分がまれるの両親の若い頃の写真が見たい、って。境の変化だとい、物置からしてで眺めました。何かを探しているような真剣な目でしたが、結局何もなかったと笑って帰っていきました」
それは誰にも話したことのない、25埋もれていた記憶だ。なを持つとはえなかったからだ。
広告
だが黒田の脳内では、久保災事件と復元された暗号データの断片が、この証言と繋がり始めていた。
「もうつ、子さんのことです」
勢子が続ける。
「彼女はいつも信仰の本を肌さず持っていました。切にしていたんです。でも事件のし、このにち寄った、その本が彼女の学習机の引きし奥にしまい込まれているのを偶然見てしまって。どうしたのかといましたが、の私物を勝に聞くわけにもいかず、そのままにしました」
信仰をきがいとしていた子が、信仰の象徴である本を隠すように仕い込む。仕事筋だった幹夫が、自のルーツを探すように古いアルバムを求める。
つの奇妙なは、理の族という仮面ので、宮沢夫妻が何らかの問題に直面し、それぞれのの拠り所が揺らいでいたことをく示唆していた。
抱え続けた違が、今初めて言葉となって現れたのだ。
がった、勢子は再び仏壇のに座った。写真の夫婦は何も語らない。だが彼女には、が抱えていた言いようのない苦悩が、初めて見えた気がした。
もしかしたら、犯はその苦悩の先にいたのかもしれない。今カレンダーに刻んだ印は、無力な「今もダメだった」の記録ではない。25のを経て、ようやく見つけた真実への細い糸だった。
広告
真実の欠片は、に最も静かな所で息を潜め、持ち主の告を待っている。
警庁に本の話が届いたのは、半ばのが続く午だった。話の向こうから、微かに震える老いた男性
「25の世田殺害事件について、お話ししたいことがあります」
その言が、捜査本部にたな緊張をらせた。
数、黒田とのに現れたのは鈴誠、歳超の男性だ。柄で細った体に、サイズのわない古いジャケットを羽織り、の悔と恐怖が顔の皺にく刻まれている。
彼は緊張と圧に耐えるように、何度も唾をみ込んだ。
「私は事件当、宮沢さんのの隣のアパートにんでいました」
震えるでが淹れたお茶の湯呑みを握りしめ、い湯気が彼の揺れる瞳を曖昧に覆う。
鈴は事件のヶ、まるで逃げるようにアパートを引き払い、故郷の方に帰っていた。当の捜査リストに名は記載されていたが、「何も見ていない」と証言した記録だけが残されていた。
「なぜ25黙っていたんですか?」
が静かに問う。
「怖かったんです」
鈴の声は掠れていた。
「事件のの空気は異常でした。誰もが隣を疑い、テレビでは毎残虐な犯が報じられ、犯がまだこの辺りに潜んでいると噂されていた。もし何かを見たと話せば、次は自分が狙われるんじゃないか。
そううと、何も言えなくなってしまった」
広告
おすすめ作品
-
完結第25話
義母が倒れた夜、隣人が私を止めた理由
午前一時、夫から「母が脳卒中で倒れた」と連絡を受け、病院へ急ごうとした美緒。だが車に乗る直前、隣人の氷室に止められる。前輪の下にはブレーキ液が漏れた跡があり、義母本人へ電話すると「倒れていない」と告げられた。 防犯映像に映っていたのは、出張中のはずの夫・達也。裡切られた|夫婦|真相|介護3.0万字5 19 -
完結第13話
夫が毎日3回トイレを磨く理由
結婚五年。紗季は、温厚で家事にも協力的な夫・玲央と、四歳の娘・莉乃と平穏に暮らしていた。ただ一つ奇妙だったのは、夫が毎日三回もトイレを掃除し、誰にも触らせなかったこと。 ある日、法医学者の親友・美代子が、トイレの排水設備から人間の歯と古い血痕の痕跡を発見する。調査を進めると、この家では六年前、玲央と同棲していた婚約者が突然姿を消していた。夫婦|真実|真相1.5万字5 246 -
完結第23話
母の小さな食卓
三年ぶりに実家へ帰った直人は、母の誕生日の食卓に、ご飯と味噌汁、漬物しかないことに驚く。冷蔵庫もほぼ空なのに、玄関には弟へ渡す高価なりんごが三箱も積まれていた。 さらに母の通帳には、弟へ毎月八万円を送った記録が残されていた。弟ばかりを優先する母への古い不満がよみがえるが、その金は、直人が失業した三年前から、息子・悠人の学費として渡されていたものだった。裡の顔|親子関係|修羅場2.8万字5 450 -
完結第12話
母に贈った家を狙う親戚夫婦
母への恩返しに建てた家へ帰ると、親戚夫婦が勝手に住み着き、食卓を囲んでいた。しかも二人は近所に「自分たちの新居だ」と触れ回り、家まで奪おうとしていた。 裕子は怒鳴らず、警備会社への一本の電話をきっかけに、入退室記録、録音、登記、映像を着実に集めていく。 これは家を取り戻すだけでなく、断れずに生きてきた母が初めて「ここは私の家です」と声を上げる物語。静かな反撃と、母娘が本当の安心を取り戻す再生の一篇。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場1.8万字5 0 -
完結第21話
結婚翌朝、五分遅れの朝食が暴いた秘密
結婚翌朝、朝食が五分遅れただけで、夫から親族全員の前で平手打ちされた管理栄養士の美咲。彼女は謝る代わりに、義父の御膳を床へひっくり返し、「食べさせられません」と告げる。 美咲が遅れたのは、心臓病を患う義父のために味噌汁を作り直していたからだった。義母から渡された“秘伝のタレ”には、義父の薬と組み合わさると命に関わる危険な成分が含まれていた。 しかも瓶の底には、義母自身の筆跡で《服用厳禁/致死性不整脈誘発確認済》と残されていた。単なる嫁いびりではなく、八年前から続く恐ろしい企みが明らかになり、夫と親族の立場は一気に逆転する。怒り|嫁姑|夫婦|裡の顔|修羅場1.9万字5 12 -
完結第12話
二十六年目の告白
余命わずかな夫・浩司は、妻ゆみに衝撃の告白をする。二十六年前、ゆみが産んだ息子と愛人の子を、病院で密かにすり替えたというのだ。 だが、ゆみはすべてを知っていた。夫の行動を目撃し、名札を元へ戻していたため、浩司が愛人の子だと信じて溺愛してきた誠は、紛れもなくゆみの実子だった。夫婦|真相|親子関係|修羅場|不倫1.7万字5 3 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 0 -
完結第20話
祖父の土地を勝手に道路にされたので、自販機を置いた
建設コンサルタントとして働く雪は、祖父の私有地が無断で舗装され、完成間近のタワーマンションの進入路として使われていることを知る。 開発を主導していたのは、学生時代から雪に異常な執着を見せていた川端武郎。彼は土地を「事実上の道路」として申請し、所有者の承諾がないまま建築確認を通していた。怒り|祖父母と孫|裡の顔|修羅場2.1万字5 247 -
完結第14話
赤ちゃんの声が聞こえる姪が、夫の嘘を見抜いた日
生後一か月の息子を見た六歳の姪・美久は、「赤ちゃん、お父さんにひどいことをしないでって言ってる」と告げる。その言葉に、夫・徹だけが激しく動揺した。 育児をせず、暴言を重ねる夫に違和感を抱き始めた亜鳥。やがて美久が書斎で見つけた封筒から、亜鳥を被保険者、徹を受取人とする高額な生命保険の書類が発見される。 さらに調べると、徹には隠していた借金と別の女性がいた。夫婦|真実|真相|親子関係1.4万字5 1145 -
完結第12話
夕飯のカレーを笑った友人が、私のレシピを欲しがった
「夕飯にカレーなんてありえない。家族がかわいそう」 友人・真理子の何気ない一言に傷ついた由美子。ところが後日、その真理子から文化祭で出すカレーのレシピ作りを頼まれる。 試作、材料計算、衛生管理まで担った由美子だったが、完成した料理はいつしか「真理子の家庭の味」として紹介され、自分の名前だけが消されていた。さらにそのレシピは、公民館の料理講座でも真理子の実績として使われようとする。 由美子は初めて「大丈夫」と笑って引き下がることをやめ、自分が担った仕事を記録とともに伝える。これは一皿のカレーをめぐる争いではない。親切と友情の陰で軽く扱われてきた女性が、自分の努力と暮らしに境界線を引き直す物語。怒り|裡の顔|修羅場2.3万字5 297