"900円の復活定食" 第6話
「これはよくできてるなあ」
俺はさく呟いた。
胃の蛇が全になった。
血管の奥に、ぽつぽつかりが灯るじがする。指先まで温かくなる。体にエンジンがかかった。
「ああ、に戻った」
さっきまで、俺はちょっとじゃなかったかもしれない。
夜の械を歩いているは、ただ仕事を処理するき物だった。腹が減りすぎると、もくなる。眠気と空腹で、がみたいに乾いていく。
でも今、チキン蛮が俺をに戻している。
「今の俺、勝ち組」
腹が減っていると、自分のことが好きになるらしい。
単純な脳で得している。
次に、箸でご飯のを崩してに運んだ。
いご飯が、い。
「ご飯がむ」
米は炊きたてかもしれない。粒がちゃんとっていて、いご飯だけでもうまい。タルタルがし残ったに米を放り込むと、全部がまとまる。
箸が止まらない。
無限ループだ。
チキン蛮。
米。
チキン蛮。
米。
たまに噌汁。
またチキン蛮。
俺は丼を見ろした。
「お、本当にだな」
崩しても崩しても、が残っている。
「お、底なしか」
キャベツの千切りをひとつまみに運ぶ。シャキシャキしたが、のの油を全部リセットしてくれる。
「この、癖になるな」
ここでキャベツを置くのは、分かっているだ。
噌汁をすする。
「おお、しみる」
塩分も分もりていなかった体に、噌汁がしみる。
広告
具は豆腐とわかめ。シンプルだ。
このシンプルなのが、今は逆にいい。
「噌汁ってこんなにうまかったか?」
うん。
本当に幸せだ。
隣の席の先客がちがって、レジへ向かった。がりの作業着グループも、べ終えたらしくちがっていく。
朝のピークが、ゆっくり引いていくだった。
テレビはついていない。内にはラジオの音と、厨の音、器の触れう音だけが響くようになった。
「このの堂が好きだ」
誰も急いでいない。
もちろん、それぞれの予定はあるのだろう。仕事にくもいれば、帰るもいる。だが、のにいるだけは、みんなしだけ緩んでいる。
女将が先客に声をかけた。
「仕事終わりか。お疲れさん」
その言葉がいい。
のが、逆に「お疲れさん」と言ってくれる堂が好きだ。
俺はご飯をお代わりするか、瞬迷った。
「う……いや、盛りでりてる」
ここで欲張ると悔する。
40きていると、自分の限界が分かってくる。
残ったチキン蛮を片付ける。最の切れを、ゆっくり噛んだ。
「うん。最までちゃんとうまい」
最初の切れと、がぶれていない。
これがの仕事だ。
噌汁を最のまでみ干す。
「うわあ……もうえない」
腹いっぱい。
今、世界で1番いいを過ごしている気がした。
朝の堂で、1、盛り定をゆっくりう。
広告
24ぶりの飯が、全部うまかった。
体にしみた。
飯がえるから、まだ丈夫だ。
「うん。これでいい」
お茶をもうすする。
「ああ、今回は疲れたなあ」
24で内線とアラームに10回以呼ばれた。その10回分を、今900円で取り返している気がする。
夜の警報も、廊を何往復したのも、械までりたのも、全部この1杯、この1皿のためだったことにしておこう。
俺の24が、900円の定になって体に戻ってきた。
も働ける体に戻れた。
悪いじゃないのだ。
俺はしばらく、空になった皿を見つめていた。
チキン蛮が乗っていた皿には、タルタルのい跡がし残っている。丼ののご飯はきれいになくなり、噌汁の椀も空だった。キャベツも漬物も、残さずべた。
胃はい。
でも、嫌なさではない。
ちゃんと満たされたさだ。
24勤務の最、体のにきな穴が空いたみたいになっていた。その穴に、米と肉と噌汁がゆっくり詰まっていった。さっきまでふらついていたが、しずつ輪郭を取り戻している。
俺は背筋を伸ばし、もう度お茶をんだ。
ほうじ茶の温かさが、の胃にちょうどよかった。
カウンターの向こうで、女将が皿を洗っている。の音がさく続き、ラジオのニュースが朝の交通報を流していた。
では、世がき始めている。
会社に向かう、学へく子ども、荷物を積むトラック。
そので俺は、仕事を終えて飯をっている。
広告
おすすめ作品
-
完結第17話
しおれた野菜と30万円
正月準備のため妻・綾野に三十万円を預けた修平が帰宅すると、冷蔵庫は空になり、綾野はしおれた野菜を抱えて震えていた。防犯カメラには、合鍵で侵入した母・久美子と妹・ゆりが、食材と現金を奪い、「妻が使い込んだことにする」と脅す一部始終が残されていた。 修平は援助や契約を停止し、父の遺品を調べる。その結果、母は前夫の家から二百万円を持ち逃げし、血のつながらない修平を守ろうとした父に返済を肩代わりさせていたことが判明する。完済後も母は架空の利息をでっち上げ、修平の出生を暴露すると父を脅して、長年金を奪い続けていた。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.5万字5 2972 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 2278 -
完結第20話
路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算
娘の顔合わせに路線バスで訪れた庄三は、相手の両親から「車も持てない乞食」と嘲笑される。婚約者まで黙って見ていたため、庄三はわずか五分で破談を告げた。 しかし庄三の正体は、県下一の交通グループを一台の中古バスから築いた創業者。翌日、社運を懸けた大型工事のコンペ会場で、相手親子は上座に座る庄三と再会する。職場逆転|人生逆転|第二の人生|金銭問題2.6万字5 1421 -
完結第17話
離婚したので、義実家への月50万円をやめました
「この家は俺と愛人と子供が使う。離婚後も、両親への月50万円は払い続けろ」 そう言って離婚届を突きつけた夫に、美緒は何も争わず署名する。夫は豪邸も高級車も手に入れたと思い込み、数日後、愛人と赤ん坊を連れて戻ってくる。しかし玄関の鍵は開かず、車も消えていた。家も車も、美緒が経営する会社の資産だったのだ。 さらに仕送りを止められた義母は、美緒の口座から500万円を引き出そうとし、愛人の住居契約からは偽造された署名が見つかる。嘘で築かれた「新しい家庭」が崩れ始める中、夫は美緒が離婚を急いだ本当の理由と、目前に迫っていた数十億円規模の契約を知ることになる。人生逆転|嫁姑|夫婦|真実|第二の人生|不倫1.7万字5 795 -
完結第10話
「飯抜き」と言われたので、夫との生活を全部やめました
「俺の命令に従わないなら、今日からお前は飯抜きだ!」 会社を勝手に辞め、半年間も妻の収入で暮らしていた夫・裕介は、義両親の前でそう宣言した。 しかも彼が求めたのは、妻・綾野が仕事を辞め、元気な義父の“介護”を始めること。 食卓に並ぶ料理も、家賃も、夫の税金さえ払っているのは綾野だった。 それでも義両親は「夫に従えない嫁に飯を食う資格はない」と言い放つ。 その夜、綾野は一人で家を出た。 そして生活費の送金を止め、夫の家族カードを凍結し、すべての支払いから自分の名義を外していった。 一か月後、電気も水道も止まった部屋から、裕介の怒鳴り声が届く。 『無職の俺を見捨てる気か! 今すぐ金を振り込め!』 だが綾野は、すでに一冊の調査報告書を手にしていた。 夫が彼女を退職させ、義実家へ閉じ込めようとしたのは、親の介護のためではなかった。 報告書の最初のページに記されていたのは、裕介がどうしても妻に知られたくなかった、ある「金」と「女」の存在だった――。人生逆転|嫁姑|夫婦|介護1.5万字5 864 -
完結第12話
凶悪犯と殺処分寸前の猫
最高警備刑務所で十四年を過ごす凶悪犯アンソニーは、虐待と暗所監禁によって人間を恐れる保護猫オレオを担当する。自分と同じ傷を持つ猫に過去を重ねた彼は、引っかかれても殴り返さず、ただ静かに世話を続けた。 やがてオレオは初めてアンソニーの手を受け入れ、喉を鳴らして胸に身を預ける。その信頼によって彼の凍りついた心も解け始め、猫たちを守ろうとする気持ちは他の受刑者にも広がっていく。罵声や暴力、麻薬が支配していた刑務所では規律違反が激減し、アンソニーには出所後に保護施設で働き、オレオと暮らす未来も示された。 しかし、受刑者を獣と決めつける副所長ミラーは、この変化を認めようとしなかった。猫の導入で麻薬密売の利益を失った囚人スローンと結託し、プログラムを潰すための罠を仕掛ける。消灯後、看守が監視の死角を作る中、アンソニーの独房へ殺鼠剤を染み込ませた毒餌が投げ込まれ、匂いに誘われたオレオが静かに近づいていった。人生逆転|裡の顔|真相1.8万字5 227 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 995 -
完結第15話
炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男
正木電気の新人・潮見知夏は、猛暑の中で草むしりを強要され、総務部長・黒岩から執拗な嫌がらせを受けていた。五年ぶりに本社へ戻った滝川武は彼女を救い、腐敗した職場の実態を静かに探り始める。 知夏は書類整理中、解約済みの植栽会社へ毎月五十万円が送金され続けている事実を発見。その直後、地下倉庫へ追放され、ついには炎天下で倒れてしまう。滝川と堀田課長は、黒岩と八谷常務による総額二億三千万円の横領証拠を揃え、臨時役員会を招集する。 そこで滝川が専務執行役員であることが明かされ、帰国した正木社長も黒岩を追及する。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 1502 -
完結第13話
黒い着物の誓い
「お前んち、ヤクザだっけ?w なら今すぐ呼んでみろよ」 同窓会の席で、私は昔のいじめ加害者に笑われました。 祖母の形見の黒い着物を見て、 「極道の真似事かよ」 そう言った男は、私の胸元に酒を浴びせたのです。 周囲は笑っていました。 10年前、教室で机に落書きをされた時と同じように。 私は怒りを抑え、ただ1本の電話をかけました。 「5分で来てください」 すると―― ホテルの前に現れたのは、30台の黒塗り高級車。 そして、誰もが知るはずのない私の本当の立場を前に、笑っていた同級生たちは凍りつきました。 しかし、そこで終わりではありませんでした。 床に這いつくばって謝罪する男の背後には、 母親が隠していた「400万円の借金」と、10年前の雨の日に繋がる秘密があったのです。 なぜ私は、私を傷つけた相手を救うことになったのか。 そして、あの日の1万円が、10年後に大きな運命の変化を起こすことになるとは――人生逆転|怒り|真実|修羅場1.9万字5 1095 -
完結第15話
300億円の恩返し
結婚式当日、白いタキシードを着て新婦を待っていた琢磨に告げられたのは、「結婚は最初からドッキリだった」という言葉。銀行の創業家である新婦の家族は、彼を笑い者にし、その様子まで動画に撮っていた。 駆けつけた妹の未令は、兄を見下す銀行一家の前で財務担当者に電話をかける。彼女は世界各地で事業を営む企業グループの創業者で、その銀行には約300億円を預けていた。無名だった未令の夢を信じ、借入れの保証人になったのも琢磨だった。人生逆転|兄弟姉妹|真相|修羅場2.2万字5 1199