"消えた人妻と15年の嘘" 第7話
「今、佐藤ゆみさんはどこにいるのですか」
吉田はく沈黙した。
そして、い声で答えた。
「黒田郎に捕まっています。おそらく、今夜が最になるでしょう」
「所は」
「埼玉郊にある廃です。所を教えます」
「なぜその所をっているんですか」
「2から監していました。黒田郎が渡辺ゆみをそこへ連れていくのを見ました」
はすぐに応援を請した。
だが、が問題だった。
隊の到着にはなくとも1かかる。そのに、佐藤ゆみが無事でいる保証はなかった。
は健を見た。
「あなたはにいてください。危険です」
しかし健は首を横に振った。
「だめです。私がきます。妻を助けたいんです」
その目は、恐怖に濡れていた。
だが、逃げる目ではなかった。
はくうなずいた。
こうして警部補、佐藤健、そして吉田総郎の3は、埼玉郊の廃へ向かうことになった。
夜のをがる。
誰も無駄な言葉を発しなかった。
それぞれが、15から続くのへ向かっていることをじていた。
廃は、気な所だった。
い使われていないらしく、錆びついた鉄の扉は半分傾き、割れた窓ガラスが暗ので鈍くっていた。周囲にはの気配がなく、が吹くたびに古い板が軋む音をてていた。
吉田総郎がい声で言った。
広告
「あそこです」
の奥から、かすかなが漏れている。
は拳銃を確認し、慎に歩きした。健は青ざめた顔でに続き、吉田は齢をじさせない取りでついてきた。
「警備がすぎる」
は周囲を見回した。
「罠かもしれません」
その、のから女性の鳴が聞こえた。
「ゆみ!」
健がびそうとした。
は素く腕を掴み、引き止めた。
「落ち着いてください。正面から入れば相のうつぼです」
3はの裏に回った。
壊れた扉の隙からに入り、械とパイプが入り組んだ暗い通をんだ。には埃が積もり、音を消すのが難しかった。
が漏れる方へづくと、男の声が聞こえた。
「15待ったぞ。おが記憶を取り戻すと分かっていたら、もっとく始末していた」
黒田郎の声だった。
そので、佐藤ゆみの震える声がした。
「お願い……もうやめてください。私は本当に、何もいせなかったんです」
「嘘をつくな。吉田総郎に会ったことは分かっている」
は械のからを確認した。
広い空の央に、佐藤ゆみが子に縛りつけられていた。顔は青ざめ、髪は乱れている。黒田郎はそのにち、たい目で彼女を見ろしていた。
「当、おがいなければ、俺たちの組織はあんなふうに崩れなかった」
「私は……何もしていません」
広告
「何もしていないだと? あの、泣きながら警察へって自首すると言ったのは誰だ」
はそこで、たな事実を理解した。
佐藤ゆみは当、罪悪に耐えきれず、組織を裏切ろうとしていた。
だから黒田は、彼女を危険物とみなしたのだ。
その、健ができずにびした。
「俺の妻からをせ!」
「健さん!」
ゆみが叫んだ。
黒田はすでに予していたように、横に置いていた具のようなものを振りげた。健は避けきれず、肩をく打たれて倒れ込んだ。
がびし、黒田に向かった。
「警察だ。くな!」
黒田は笑った。
「警察が来たのか。だが、もう遅い」
彼は元のスイッチを押した。
次の瞬、のあちこちからのががった。あらかじめ準備されていた発装置だった。
「みんな緒にぬんだ」
炎が急速に広がった。
はすぐにゆみの縄を解いた。
「丈夫ですか。てますか」
「はい……でも健さんが」
健は倒れていたが、識はあった。は彼を起こそうとしたが、煙が気に濃くなっていく。
その、吉田総郎が黒田にびかかった。
「おはここで裁かれるべきだ。悪魔め」
「吉田さん、危険です!」
が叫んだ。
しかし吉田は黒田をさなかった。
「くってください。この男は私が止める」
炎はさらにきくなった。
はゆみと健を支え、へ向かった。
背では、吉田と黒田がもみう音が続いていた。
ようやくへた直、全体が炎に包まれた。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
清掃員が書いた設計図
倒産寸前の小さな町工場に、1人の若い清掃員がいた。 佐藤ゆい、21歳。学歴は中卒。従業員たちからは名前で呼ばれることもなく、ただ雑用係として扱われていた。 そんなある日、大企業から依頼された精密部品がすべて不良品となり、工場は2000万円の違約金を突きつけられる。誰もが技術不足だと責められ、工場長の竹夫も廃業を覚悟しかけていた。 その時、ずっと黙っていたゆいが静かに口を開く。 「設計が間違っています」 中卒の清掃員が、大企業の研究所の図面に誤りがあると言い出した――。 誰も信じなかったその言葉が、やがて町工場の運命を大きく変えていく。履歴書には書けなかった彼女の本当の力とは。人生逆転|真相1.4萬字5 0 -
完結第12話
ただいまの裏にあった10年
1985年8月15日、新潟県長岡市で、23歳の佐藤健一はいつものように工場を出たまま姿を消した。 自転車も、持ち物も、行き先も分からない。両親の誠とかず子は必死に息子を捜し続けたが、手掛かりは何ひとつ見つからなかった。 それから2年後、痩せ細った1人の男が佐藤家の玄関に立つ。 「ただいま」 失われた息子が帰ってきた――そう信じた両親は、彼を再び家族として迎え入れる。記憶を失っていても、生きて戻ってくれたならそれでいい。そう思いながら、佐藤家は少しずつ穏やかな日々を取り戻していった。 しかし10年後、差出人不明の小包が届く。 中に入っていたのは、小さな遺骨と、父が本物の健一に贈ったはずの腕時計。そして一枚の紙には、こう書かれていた。 「本物の息子さんをお返しします」 8年間、家族として暮らしてきた男は誰だったのか。 そして本物の健一は、あの日どこで何を奪われたのか。 失踪、偽りの帰還、そして名前を越えて残った家族の形を描く物語。ミステリー|行方不明1.7萬字5 0 -
完結第8話
サービスエリアで消えた三人
大型サービスエリアで、36歳の母親と9歳の息子、6歳の娘が突然姿を消した。残された夫・修一はテレビに出演し続け、「妻と子供たちを見かけた人は連絡してください」と14年間訴え続けた。世間は彼を、家族の帰りを信じて待つ父親として記憶していた。ところが事件から14年後、100キロ近く離れた古い貸倉庫の床下から黒い旅行鞄が発見される。中に入っていたのは、失踪した妻の財布と、息子が旅行当日に履いていた片方のスニーカー。そして、その倉庫の過去を調べると、夫がかつて関係を持っていた女性の名前が浮かび上がる。14年間誰も疑わなかった「3人はサービスエリアで消えた」という前提が、そこから静かに崩れ始める。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.1萬字5 110 -
完結第13話
変な家
住宅情報サイトの編集者・森川直人のもとに、ある中古住宅の間取り図が届いた。埼玉県にある築28年の4LDK。一見ごく普通の家だが、洗面室と書斎の間には、どこからも入れない幅1メートルほどの「空白」がある。さらに、家族の生活動線から切り離された第二玄関、外からしか入れない物置、道路から見えない窓。現地を訪れた森川は、誰かを閉じ込めるための家ではないかと疑う。だが調査を進めると、別々の県に建つ2軒の家にも、まったく同じ奇妙な構造が見つかった。なぜ3人の男は、同じ「空白」を家の中に作ったのか。そして物置の奥から現れた金属扉の先には、28年間隠されてきたものが残されていた。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 159 -
完結第11話
1億8400万円の夜逃げ
2016年、8000万円の借金を抱えていた28歳の高橋健人は、ロト1等・1億8400万円を受け取った直後、忽然と姿を消した。 部屋からはパスポートと衣類の一部がなくなり、本人名義でフィリピンへ出国した記録も残っていた。警察も家族も、彼は借金から逃れるため海外へ消えたのだと考えた。 しかし9年後、麻布の再開発工事中、かつて健人が暮らしていたアパートの地下から、コンクリートに埋められた旅行鞄が見つかる。 中にあったのは、ひとりの男性の骨と、黒縁眼鏡。 さらに、当時見過ごされていたノートパソコンから、不審な検索履歴が浮かび上がる。 本当にロト1等に当たったのは誰だったのか。 そして、9年前に海外へ消えたはずの男は、何を隠していたのか。 1枚の宝くじが、親友同士の運命を大きく狂わせていく――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 276