"深淵に沈んだ家族" 第2話
ロビーにはい芳剤と古いカーペットの匂いが漂っていた。部に入っても眠れるはずがなかった。
私はベッドに腰をろし、スマートフォンをいた。
写真アプリのに、普段はほとんど見ないフォルダーがある。
族の写真だ。
結婚式のの両親。若く、まぶしいほど幸せそうだった。
成式の振り袖を着たサラ。写真を撮る私に「恥ずかしいからやめて」と文句を言っている。
歯が2本抜けたエナ。族の絵を掲げ、カメラに満面の笑みを向けている。
曲がった煙突のあるので、をつなぐ5の族。
最の写真は、あのの朝のものだった。
父がクーラーボックスをトランクに積み込んでいる。母がキャンプの予約表を持っているか3度目の確認をしている。サラとエナは、どちらが窓側に座るかで言い争っていた。
背景のキッチンの窓には、ソファで横になっている私の姿がかすかに映っていた。体温計をにくわえ、ティッシュの箱を胸のに置いている。
私はその写真を、目が焼けるように痛くなるまで見つめた。
に残ったことが、自分の命を救ったのか。
それとも、を台無しにしたのか。
今でも分からなかった。
翌朝830分、私はすでに岩県警本部の駐にいた。昨よりもさらにまずいガソリンスタンドのコーヒーをみながら、ガラスのドアを入りする警察官たちを眺めていた。
広告
午9ちょうど。
グレーのブレザーにダークジーンズ姿の女性が建物からてきた。
い茶の髪。静かな目。くのものを見てきたが、それでも希望を完全には放していないような目だった。
彼女はまっすぐ私のトラックにづいてきた。
「森本純平さんですね」
私はうなずいた。
「黒田警部です。このような形でお会いすることになり、残です」
彼女の握は力かった。声には職務の静さと、としての温かさが同居していた。
私はすぐに、このなら信じられるとった。
「未解決事件を専に扱っていると聞きました」
「警察官になって23です。最の8は、あなたのご族のような事件に専してきました」
彼女はそう言って、駐の奥にめた覆面パトカーへ私を案内した。
に乗り込むと、黒田警部はシートベルトを締めながら言った。
「現へ向かうに、これから見るものについてお話ししておきます」
私は黙って彼女を見た。
「これは、単なる交通事故ではありません」
胸の奥が締めつけられた。
「どういうですか」
「川崎さんが発見したのは、直径約10m、さ12mほどの陥没穴です。そのに、複数の両が積みねられていました。ご族のだけではありません。30台以、によってはそれ以あります」
私は言葉を失った。
「は無作為に捨てられていたわけではありません。
広告
空を最限に使うよう、図に配置されています」
「誰がそんなことを……」
「それを、これから突き止めます」
黒田警部はエンジンをかけた。
「誰かが、あの所をい“処分”として使ってきた。あなたのご族のは、そのきなパズルのほんの片かもしれません」
がりした。
岩のへ向かうにつれ、私は20じたことのない覚に包まれていた。
希望ではない。
希望は、あまりにも危険だった。
それでも、19988のあの以来、初めて答えにづいている気がした。
たとえそれが、望んでいた答えでなかったとしても。
森のは細く、荒れていた。
黒田警部のセダンは、やの根に何度も乗りげた。々はで密に枝を伸ばし、昼だというのに暗かった。太陽のは葉の隙から細かく差し込み、面にまだら模様を作っている。
「川崎さんは、どうやってこの所を見つけたんですか」
私はドアハンドルを握りながら尋ねた。
「偶然です。林業会社の依頼で、伐採のの価値を測量していました。ドローンがグリッドに異常を検したそうです」
さらに1kmほどむと、複数のパトカーと鑑識の両が見えてきた。々のには黄い規制線が張られていた。発のい唸り声と、警察無線の乾いた音が森に響いている。
黒田警部はを止め、私を見た。
「ここから先は、かなりきつい景です。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 123 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 170 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 242 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 255 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 312 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 232 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 776 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 172