"偽りのアリバイ" 第3話
あらゆる状況証拠が鈴に結びつくように見えた。
、科学捜査研究所から届いたDNA鑑定結果は、捜査本部の空気を瞬で凍りつかせた。現に残されたつのタバコの吸い殻に付着した体液のDNAが、隣の鈴のものと完全に致したのだ。
午、刑事たちが鈴ののドアを叩くと、寝ぼけでドアをけた鈴は、押し寄せる刑事たちを見て困惑し、笑った。「なぜ私がこんな所に侵入するんですか。そのの夜はずっとにいなかった。違いです」
鈴は無実を主張し激しく抗議したが、現から採取されたな物学証拠、自のDNAが検された吸い殻をに、無力に言い返すことしかできなかった。警察は即座に鈴を力殺容疑者として緊急逮捕した。
現証拠、目撃報、完全致のDNA。事件はあっけなく解決するかに見えた。だが、取調のたいパイプ子に座った鈴の言が、捜査の方向性を完全に覆した。
「実はそのの夜、張マッサージを呼んでいたんです。族は全員実に帰省してだったので、朝までその女性とホテルにいました」
殺容疑をかけられた男がアリバイ証のために打ちすには、あまりにも堂々とした、かつ体裁な告だった。捜査チームは半信半疑で裏付け調査をめた。
広告
結果は驚くべきものだった。事件発推定刻、鈴が張マッサージを予約・決済したクレジットカード履歴、実際に接客した女性の供述が、寸分の狂いもなく確認された。鈴のアリバイは完全に成したのだ。
では、この解なパズルはどう解けばいいのか。鈴ののタバコの吸い殻が、どうやって壁を越え、隣の野の遺体のそばに落ちていたのか。
もしかして、誰かが図に鈴ののゴミ箱から吸い殻を拾い、現に仕込んだのではないか。犯は単に野を殺害しただけでなく、に罪を着せるため、隣の活習慣やゴミの廃棄所まで把握し、完璧な偽装作を施したのだ。
この緻密な設計者は体誰なのか。捜査チームはやむなく鈴を釈放し、振りしに戻って再捜査を始した。偽の証拠の裏に隠された真の痕跡を探すため、刑事たちは再びマンションの廊で聞き取り調査を続けた。
その、隣のの奇妙な証言がび込んできた。「事件当の夜、猫が泣くような声が晩聞こえていました。午頃だったといます。誰もが眠りについた静寂の廊に、気な鳴き声が響いていたんです」
法学者たちがこの証言を再検証した瞬、全員の表が凍りついた。その気な音は、たいでにゆく野が、最に発したSOSの声だった能性が極めていのだ。
広告
鈴のアリバイが完全に証された今、捜査本部は残酷な真実を突きつけられた。犯がわざと残したタバコの吸い殻は、捜査を攪乱するための巧妙な罠だった。犯は殺害だけでなく、に罪を着せるため、隣のゴミ箱まで漁る周到さを見せていた。
捜査チームは再びマンションを訪れ、151号周辺のの記憶を、微かながかりも残さず聞き取った。「その夜、何か変わったことがあれば、どんなさなことでも教えてください」
くのが記憶にないと首を振る、の女性が慎にをいた。「確か午頃、気の悪い音が聞こえました。最初は野良猫の喧嘩かとったのですが、猫の声にしてはく鈍い音で、何かいものがぶつかるドスドスという音の、喉を鳴らすようなゴロゴロという音が続いて、寝ぼけていても背筋が凍るほど怖かったです」
が記憶した奇妙な音は、猫の鳴き声に酷似していた。だがそれは、平な夜の物の声ではなかった。法学者が解剖結果との証言を照らしわせた結果、全員がの毛もよだつ真実に言葉を失った。
その音は猫の声ではない。被害者が息を引き取る際に発した、最の絶命声だったのだ。
司法解剖の結果、野は首を絞められたのではなく、で胸や首を踏みつけられた圧迫窒息だと判した。
無防備にに倒れた野の胸と首に、犯は自らの体をかけ、無慈に踏みつけた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
離婚後に生まれた息子
10年間の不妊治療の末、「子供もできなかった」と姑に責められ、夫・健一から離婚を告げられた38歳の由美。ところが離婚から2週間後、最後に受けた治療が実っていたことが判明する。由美は悩んだ末、元夫には知らせず、実家で1人の男の子を出産した。それから1か月。離婚から10か月後のある日、玄関に現れたのは健一と、彼が再婚する28歳の美香だった。「来月、結婚式をするんだ」と招待状を差し出そうとした健一。しかし、由美の腕に抱かれた赤ん坊を見た瞬間、その笑顔が消える。「その子……まさか俺の?」。10年間「子供を産めない妻」と責められ続けた由美の人生が、そこから大きく動き始める。夫婦|真相|修羅場2.0万字5 3708 -
完結第10話
清掃員が書いた設計図
倒産寸前の小さな町工場に、1人の若い清掃員がいた。 佐藤ゆい、21歳。学歴は中卒。従業員たちからは名前で呼ばれることもなく、ただ雑用係として扱われていた。 そんなある日、大企業から依頼された精密部品がすべて不良品となり、工場は2000万円の違約金を突きつけられる。誰もが技術不足だと責められ、工場長の竹夫も廃業を覚悟しかけていた。 その時、ずっと黙っていたゆいが静かに口を開く。 「設計が間違っています」 中卒の清掃員が、大企業の研究所の図面に誤りがあると言い出した――。 誰も信じなかったその言葉が、やがて町工場の運命を大きく変えていく。履歴書には書けなかった彼女の本当の力とは。人生逆転|真相1.4万字5 271 -
完結第12話
ただいまの裏にあった10年
1985年8月15日、新潟県長岡市で、23歳の佐藤健一はいつものように工場を出たまま姿を消した。 自転車も、持ち物も、行き先も分からない。両親の誠とかず子は必死に息子を捜し続けたが、手掛かりは何ひとつ見つからなかった。 それから2年後、痩せ細った1人の男が佐藤家の玄関に立つ。 「ただいま」 失われた息子が帰ってきた――そう信じた両親は、彼を再び家族として迎え入れる。記憶を失っていても、生きて戻ってくれたならそれでいい。そう思いながら、佐藤家は少しずつ穏やかな日々を取り戻していった。 しかし10年後、差出人不明の小包が届く。 中に入っていたのは、小さな遺骨と、父が本物の健一に贈ったはずの腕時計。そして一枚の紙には、こう書かれていた。 「本物の息子さんをお返しします」 8年間、家族として暮らしてきた男は誰だったのか。 そして本物の健一は、あの日どこで何を奪われたのか。 失踪、偽りの帰還、そして名前を越えて残った家族の形を描く物語。ミステリー|行方不明1.7万字5 150 -
完結第8話
サービスエリアで消えた三人
大型サービスエリアで、36歳の母親と9歳の息子、6歳の娘が突然姿を消した。残された夫・修一はテレビに出演し続け、「妻と子供たちを見かけた人は連絡してください」と14年間訴え続けた。世間は彼を、家族の帰りを信じて待つ父親として記憶していた。ところが事件から14年後、100キロ近く離れた古い貸倉庫の床下から黒い旅行鞄が発見される。中に入っていたのは、失踪した妻の財布と、息子が旅行当日に履いていた片方のスニーカー。そして、その倉庫の過去を調べると、夫がかつて関係を持っていた女性の名前が浮かび上がる。14年間誰も疑わなかった「3人はサービスエリアで消えた」という前提が、そこから静かに崩れ始める。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.1万字5 140 -
完結第13話
変な家
住宅情報サイトの編集者・森川直人のもとに、ある中古住宅の間取り図が届いた。埼玉県にある築28年の4LDK。一見ごく普通の家だが、洗面室と書斎の間には、どこからも入れない幅1メートルほどの「空白」がある。さらに、家族の生活動線から切り離された第二玄関、外からしか入れない物置、道路から見えない窓。現地を訪れた森川は、誰かを閉じ込めるための家ではないかと疑う。だが調査を進めると、別々の県に建つ2軒の家にも、まったく同じ奇妙な構造が見つかった。なぜ3人の男は、同じ「空白」を家の中に作ったのか。そして物置の奥から現れた金属扉の先には、28年間隠されてきたものが残されていた。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.9万字5 182 -
完結第11話
1億8400万円の夜逃げ
2016年、8000万円の借金を抱えていた28歳の高橋健人は、ロト1等・1億8400万円を受け取った直後、忽然と姿を消した。 部屋からはパスポートと衣類の一部がなくなり、本人名義でフィリピンへ出国した記録も残っていた。警察も家族も、彼は借金から逃れるため海外へ消えたのだと考えた。 しかし9年後、麻布の再開発工事中、かつて健人が暮らしていたアパートの地下から、コンクリートに埋められた旅行鞄が見つかる。 中にあったのは、ひとりの男性の骨と、黒縁眼鏡。 さらに、当時見過ごされていたノートパソコンから、不審な検索履歴が浮かび上がる。 本当にロト1等に当たったのは誰だったのか。 そして、9年前に海外へ消えたはずの男は、何を隠していたのか。 1枚の宝くじが、親友同士の運命を大きく狂わせていく――。ミステリー|行方不明1.6万字5 316