"排水路の腕時計" 第1話
19981017、曜。
の空はく、午のサービスエリアには、旅帰りのや族連れが次々と流れ込んでいた。部自にある青サービスエリアは、休の昼過ぎらしいざわめきに包まれていた。フードコートからは汁の匂いが漂い、売のでは子どもたちが産物を眺め、駐には型トラックや乗用が然と並んでいた。
午112分。
グレーのクラウンが駐へ入ってきた。運転していたのは佐藤健、42歳。建設会社で課として働く真面目な男だった。温で責任がく、職でも庭でも信頼されていた。
助席には妻の恵子、39歳。部座席にはの娘、15歳と、学の息子、11歳が座っていた。4はから親戚を訪ねる旅にかけており、その帰りで青サービスエリアにち寄ったのだった。
「し休んでいこうか」
健がそう言うと、恵子は頷いた。
「そうね。子どもたちもお腹が空いたでしょう」
をりた娘は伸びをし、息子は眠そうに目をこすった。どこにでもある族旅の帰りだった。誰も、この所が族のを永に止める所になるとはっていなかった。
4はフードコートで昼を取った。健はうどんとおにぎりを選び、恵子も同じものを注文した。子どもたちは自分で好きなものを選び、テーブルに並べた。
広告
レシートに残された刻は午138分。
そこまでは、確かにいつも通りだった。
「帰ったら洗濯が変ね」
恵子が湯気のつうどんを見ながら笑うと、健も箸を持ったままさく笑った。
「まあ、は曜だ。しは伝うよ」
「本当に?」
「できる範囲でな」
子どもたちはそんな両親の会話に慣れているのか、特に反応もせず事を続けていた。息子は途で自販のジュースがみたいと言い、娘と緒に売くへ向かった。
事を終えた4は、売のベンチでし休むことにした。子どもたちは自販で買ったジュースをみ、恵子は荷物のからハンカチを取りして元を押さえた。健は駐の方を眺め、の位置を確認していた。
午147分頃。
健がちがった。
「ちょっとトイレにってくる」
それだけだった。
恵子は何の疑いもなく頷いた。
「分かった。ここで待ってるわ」
娘は缶ジュースをみながら軽くを振り、息子はベンチのでをぶらつかせていた。
健は建物の奥にあるトイレの方へ歩いていった。いシャツに紺のジャケット。し疲れたような背だったが、歩き方に異常はなかった。
その姿を、恵子は最まで見送ったわけではなかった。夫がトイレへく。それはあまりにも普通のだったからだ。
10分が過ぎた。
広告
恵子は最初、計を見なかった。サービスエリアのトイレが混んでいることは珍しくない。休の午で、利用客もい。しがかかっているだけだとった。
しかし20分が過ぎても、健は戻らなかった。
娘が最初に言った。
「お父さん、遅くない?」
恵子はその、初めて胸の奥にさなざわつきを覚えた。
「そうね。ちょっと見てくる」
恵子はベンチからちがり、男性トイレの入りくまで歩いていった。に入ることはできない。入りのでを止め、し声を落として呼んだ。
「あなた? 健さん?」
返事はなかった。
周囲にはを洗うや、入りする男性がいた。恵子は通りかかったの男性に事を説し、を見てもらえないかと頼んだ。
「すみません。夫が入ったまま戻らなくて……を見ていただけませんか」
男性はし戸惑いながらも頷き、トイレのへ入っていった。
数分、戻ってきた男性は首を横に振った。
「誰もいませんよ。個も全部空いていました」
恵子は息を止めた。
「本当に?」
「ええ。なくとも、それらしいはいませんでした」
恵子は駐へった。クラウンは同じ所にまっていた。ドアにはロックがかかっている。鍵は恵子が持っていた。健が1でに戻った能性はなかった。
売、フードコート、喫煙所、建物の裏。
恵子は子どもたちをベンチに残し、夫の姿を探した。
けれど、どこにもいなかった。
午225分。
恵子はサービスエリアの管理事務所へ駆け込んだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 466 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 507 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 1542 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 186 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 266 -
完結第20話
妻の予定表に書かれた「最終日」
妻の予定表に記された、結婚記念日の「最終日」。夫は離婚を疑うが、その言葉には、十四年間積み重なった妻の孤独が隠されていた。 毎年同じレストランに二人分の席を予約し、来ない夫を一人で待ち続けていた妻。彼女は今年を最後に、待つことをやめようとしていた。夫婦|真相|第二の人生2.8万字5 376 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 264