みかん小説
本棚

"排水路の腕時計" 第8話

きていると分かれば待てる。

けれど、どちらも分からない15は、族から区切りを奪った。

なぜ真相はらかにならなかったのか。

証拠。

沈黙。

その3つが、事件の核を覆い隠した。

発見が15遅れたことで、くの痕跡は失われた。排にあった品物はにさらされ、指紋もDNAもほとんど消えていた。現は当すでに何度も入りし、初段階で封鎖されることもなかった。

そして何より、は語らなかった。

誰に頼まれたのか。

なぜ健が狙われたのか。

遺体はどこへ消えたのか。

その沈黙は、裁判が終わっても、刑務所をても破られることはなかった。

恵子は毎、1017に青サービスエリアを訪れるようになった。

の青サービスエリアは、すっかりしくなっていた。るい建物、清潔なトイレ、広いフードコート、防犯カメラの付いた駐。かつての古びた施設の面はほとんどない。

だが、恵子には見えていた。

のベンチに座っていたあのの自分。

ジュースをむ子どもたち。

「ちょっとトイレにってくる」とがった健の背

その全てが、今もそこに残っているようだった。

銘板は、建物の片隅に設置されていた。くのは気づかず通り過ぎる。スマートフォンを見ながら歩く若者、子どものを引く母親、コーヒーを片へ戻る会社員。

広告

恵子はを置き、わせた。

「今も来たわ」

返事はない。

それでも、恵子は語りかけた。

「子どもたちは元気よ。孫もきくなったの。あなたに見せたかった」

が吹き、の包装がかすかに揺れた。

事件は失踪者族支援法改正のきっかけの1つとなった。失踪者の族が抱えるの困難、法続き、支援の必性が議論されるようになった。

全国のサービスエリアでも、監カメラの備がめられた。角の見直し、記録保の延、緊急の対応マニュアルの改善。

制度は変わった。

体制も変わった。

だが、過は戻らない。

佐藤健は帰らず、真実も未完成のままだった。

それでも、記録は残った。

サービスエリアで起きた失踪事件は、警察の資料にも、報の記録にも、族の記憶にも残り続けた。

20251017

事件から27が過ぎていた。

サービスエリアは、楽客でにぎわっていた。駐にはしいが並び、フードコートには子どもたちの声が響いていた。かつてと同じように、くの族がここで休み、事をし、またそれぞれの目へ向かっていく。

恵子は、娘と息子、そして孫たちと緒に銘板のっていた。

髪はくなり、歩く速さも昔よりゆっくりになっていた。それでも、束を持つはしっかりしていた。

広告

孫の1が、銘板を見げて尋ねた。

「ここに、おじいちゃんのことがいてあるの?」

恵子は膝をし曲げ、孫の目線にわせた。

「そうよ。あなたたちのおじいちゃんは、ここでいなくなったの」

「怖かった?」

その無邪気な質問に、恵子はしだけ目を細めた。

「怖かったわ。しかったし、分からないことだらけだった」

孫は黙って銘板を見た。

そこには、い言葉が刻まれていた。

19981017、この所でとなった佐藤健さんを偲んで。

くのは通り過ぎるだけだった。

だが、恵子にとってその文字は、27分のそのものだった。

娘がを供えた。

息子がわせた。

孫たちも、の真似をしてさなわせた。

恵子は静かに目を閉じた。

あのの午147分。

がり、「ちょっとトイレにってくる」と言った声。

何気なく頷いた自分。

そのに訪れた

警察官の音。

夜の照

戻らない夫を待ち続けた玄関。

片付けられなかった部

15に見つかった腕計。

からてきた財布。

そして、最までらかにならなかった真実。

全てが、胸の奥を通り過ぎていった。

「おじいちゃんは、記憶のき続けているの」

恵子は孫たちに向かって、ゆっくり言った。

「私たちが覚えている限り、消えないのよ」

娘がそっと涙を拭った。

息子は無言で空を見げていた。

がサービスエリアを吹き抜けた。くでのエンジン音が鳴り、誰かの笑い声が聞こえた。

常は何事もなかったかのように流れていく。

けれど、この所には確かに1つの記憶が残っていた。

19981017

サービスエリアで起きた、1の父親の失踪。

15、排の奥から見つかった遺留品。

らかになった事実と、らかにならなかった真実。

事件は終わったように見えて、完全には終わっていない。

それでも族は、待ち続けるだけの々から、記憶を受け継ぐ々へと歩きしていた。

恵子は最にもう度、銘板にを触れた。

たい属の触が指先に伝わる。

「健さん、今も来たわ」

さく呟いた声は、に溶けていった。

孫たちが先に歩きし、娘と息子がそのを追った。恵子もゆっくりがった。

振り返ると、銘板のを受けて静かに揺れていた。

記録は残る。

記憶も残る。

そして、族が語り続ける限り、佐藤健というは消えない。

サービスエリアの片隅で、その物語は今も静かに息づいていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: