"消えた五輪候補" 第3話
と反論した。
結局、その選は引退し、問題は表になかった。
だが、体操界のでは囁かれていた。
斎藤は選を壊す。
子もその噂をっていた。
それでも、彼の指導を受けるしかなかった。国代表になるためには、そこを通るしかなかった。
訓練センターには、子のライバルもいた。
ゆかり、22歳。
京の名私学に通う、裕福な庭の娘だった。父親は商社の役、母親は元バレエダンサー。幼い頃からバレエ、ピアノ、英会話と、あらゆる習い事をしてきた。
体操を始めたのは学5。最初は趣だったが、才能がし、学の頃には全国レベルになっていた。
ゆかりにとっても、オリンピックはだった。
そして、自分の価値を証するでもあった。
子とゆかりは同じ学に通い、同じ訓練センターで練習していたが、親しくはなかった。互いをく識するライバルだった。
ゆかりは、子を見していた。
「あの子、いつもおがりのユニフォームを着ているわね」
ほかの選たちに、そう囁くこともあった。
子のユニフォームは確かに古かった。父が先輩選から譲り受けたものを、繕いながら使っていた。
方で、ゆかりのユニフォームはいつも品だった。最のデザイン、最級の素材。その違いを見るたびに、子は自分のの貧しさをいらされた。
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それでも、負けるつもりはなかった。
技術で。
根性で。
努力で。
子はゆかりを回ろうと、必に練習を続けた。
斎藤コーチは2の競争を利用した。
「、に負けるのか」
「、の演技を見ろ。あれが本物だ」
2を煽り、競わせた。
そうすることで技術が伸びると信じていた。
315の訓練が終わったのは、午8だった。
子は疲れきった体を引きずるようにロッカールームへ戻った。ゆかりも同じに入ってきた。
2は無言で着替えを始めた。
鏡のでゆかりが髪をえながら、突然声をかけた。
「子さん」
子はを止めて振り返った。
「何?」
「選考、頑張りましょうね」
ゆかりは微笑んだ。
だが、その目は笑っていなかった。
「ええ」
子はく答え、荷物をまとめた。
アパートへ帰り着いたのは午930分だった。居では正司が聞を読んでいた。
「お帰り」
「ただいま」
子の声には疲れがにじんでいた。
「夕飯、温めてあるぞ」
「ありがとう。でも、もうべた」
子は嘘をついた。
本当は空腹だった。けれど父に配をかけたくなかった。体管理も、選の仕事だった。
自分の部に入ると、子は布団に倒れ込んだ。
体が痛かった。
特に首が、鋭く痛んだ。
午の練習で着に失敗したのだ。
しかし、斎藤コーチには言えなかった。
痛いと言えば、根性がないと叱られる。
最終選考からされるかもしれない。
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子は痛みに耐えながら目を閉じた。
その夜、健は居酒で酒をんでいた。
隣に座る友の田が言った。
「おの妹、もうすぐオリンピックなんだってな。すごいじゃないか」
健は返事をした。
田はさらに続けた。
「もし選ばれたら、スポンサーとかつくんだろう。になるぞ」
その言葉を聞いた瞬、健のが止まった。
「……」
彼はさくつぶやいた。
その言葉が、健のので形を持ち始めた。
妹が成功すれば、確かには入る。
だが、そのは自分のものにはならない。
すべては妹と父のもの。
自分は、いつまでも者のままだ。
健はグラスをあおった。
胸の奥で、暗い考えがゆっくりときしていた。
316の朝、子はいつものように午5にをた。
首の痛みは、まだ消えていなかった。むしろ、晩寝たことで腫れがくなっているようにもじた。駅へ向かうで、彼女は何度か歩幅をさくした。
訓練センターに着くと、子はロッカールームで靴を脱ぎ、首を押してみた。
鈍い痛みがった。
「丈夫。まだ丈夫」
彼女は自分に言い聞かせた。
あと2。
あと2だけ耐えればいい。
選考が終わったら治療すればいい。
そういながら、テーピングを巻いた。首を固定し、痛みをごまかす。それしか方法はなかった。
午630分、斎藤コーチが体育館に入ってきた。
「おはよう」
その声はいつもよりく、くじられた。
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