"消えた五輪候補" 第5話
そんな方法あるわけないだろ」
「そうだな」
健も笑った。
だが、その目は笑っていなかった。
彼ののでは、ある計画がしずつ形を持ち始めていた。
317、最終選考の。
子は午5にをた。
首の痛みはさらに悪化していた。歩くたびに鋭い痛みがる。駅の階段をりる、すりを握らなければならなかった。
訓練センターは、いつもと違う緊張に包まれていた。
廊を歩く選たちの表はく、誰も無駄な会話をしなかった。このからオリンピック代表が選ばれる。その圧が建物全体を覆っているようだった。
子はロッカールームで着替えながら、首を見つめた。
腫れは昨よりひどくなっていた。青に変し、触れるだけで激痛がる。
「まずい……」
さくつぶやいた。
けれど、今さら引き返せなかった。
子はいつもよりめにテーピングを巻いた。痛み止めの湿布も貼った。そして呼吸をすると、体育館へ向かった。
午630分、斎藤コーチが現れた。
その表は、いつもより険しかった。
「今は軽めの調だけだ。に備えて、体を温める程度でいい」
選たちは堵の表を浮かべた。
だが斎藤の目は、何かを探るように選たちを観察していた。特に子への線はかった。
子はできるだけ普通に歩こうとした。
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を引きずらないように。
痛みを顔にさないように。
けれど、斎藤の目はすべてを見抜いているようだった。
午の調が終わると、子はロッカールームで1、首を氷でやした。痛みはしも引かなかった。むしろが経つほど、首の奥がを持っているようにじた。
このままでは、演技できないかもしれない。
初めて、その恐怖が胸を押しつぶした。
父の期待。
これまでの努力。
貧しいを抜けす。
すべてが、この首ひとつで崩れてしまうかもしれない。
子は氷をく押し当て、目を閉じた。
その、ロッカールームのドアがいた。
「、いるか」
斎藤コーチの声だった。
子は驚いて目をけた。
「はい」
慌てて氷を隠そうとしたが、斎藤はすでに気づいていた。
通常、男性コーチが女子ロッカールームに入ることはなかった。子は戸惑いながらちがった。
「を見せてみろ」
「丈夫です」
子は拒もうとした。
しかし斎藤の表は、無を言わせないものだった。
「見せろ」
子は仕方なく、テーピングをした。
腫れがった首があらわになる。
斎藤はそれを見て、いため息をついた。
「こんな状態で、演技できるとっているのか」
「できます」
子は即座に答えた。
「無理だ。これじゃ着のに骨が折れるぞ」
斎藤の言葉に、子の目から涙があふれそうになった。
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「お願いします。だけでいいんです。だけ耐えさせてください。選考が終わったら、すぐに治療します」
斎藤は黙った。
しばらく子を見ろしていたが、やがてポケットからさな瓶を取りした。
「これを使え」
「それは……」
「鎮痛剤だ。注射すれば、数は痛みをじなくなる。の選考だけなら持つだろう」
子は息を呑んだ。
注射を打つということは、体に無理をさせるということだった。痛みをじなければ、さらに悪化するかもしれない。演技に怪をする危険もあった。
しかし、注射を打たなければ、そもそもの演技にてない。
ので激しい葛藤が渦巻いた。
「考えておけ。必なら、の朝に打ってやる」
斎藤はそう言うと、ロッカールームをていった。
子は1、瓶を見つめていた。
午、体育館に戻ると、ゆかりが運の演技を軽く流していた。きは滑らかで、美しく、完璧に見えた。
子は自分の首を見ろした。
この状態で、ゆかりに勝てるのか。
が胸を押しつぶしそうになった。
「子さん」
ゆかりが声をかけてきた。
「、楽しみね。お互いベストを尽くしましょう」
笑顔だった。
だが、その目は子の元を見ていた。
ゆかりはっている。
子が怪をしていることを。
それが自分に利であることを。
訓練が終わったのは午7だった。
斎藤は選たちに言った。
「今はく帰って休め。は朝9集だ。遅れるな」
選たちは頷き、それぞれロッカールームへ向かった。
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