"消えた退院前夜" 第9話
事務がカルテを見せた。
「これが田さんのカルテです。投薬記録に修正の跡があります」
黒田警部補はカルテをに取り、にかざした。
うっすらと見えた文字。
眠導入剤。
過剰な量。
「これは誰がいたんですか?」
「通常は担当護師が記録します。担当は本です」
黒田警部補は本さんを呼ぶよう指示した。
本さんは青ざめた顔で会議に入ってきた。8かよりし痩せて見えた。子に座ると、膝のでをく握りしめた。
「本さん、このカルテを見てください」
黒田警部補はカルテを見せた。
本さんはそれを見た瞬、肩を震わせた。
「これは……私がいたものではありません」
「では誰が?」
「分かりません」
声が震えていた。
黒田警部補はじっと本さんを見つめた。本さんは線をそらした。
事件は、たな局面を迎えようとしていた。
黒田警部補は、本さんを別に連れてった。田刑事も同席した。
3だけの静かな部だった。の廊をき交う職員の音が、くに聞こえた。
「本さん、正直に話してください」
黒田警部補は、声を荒げなかった。むしろ優しく、逃げを与えるような調だった。
本さんは俯いたまま黙っていた。肩がさく震えている。
「あなたを疑っているわけではありません。しかし、何かっているはずです」
その言葉を聞いた瞬、本さんの目から涙がこぼれた。
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「私は……」
か細い声だった。
「私は、やっていません」
「何をやっていないのですか?」
「田さんに薬を……そんなこと……」
本さんは両で顔を覆った。
黒田警部補は急かさず、黙って待った。数分が過ぎた。本さんはようやく顔をげた。目は真っ赤だった。
「言われたんです」
「誰に?」
「薬剤課の黒田さんに」
黒田警部補は眉を寄せた。
「薬剤課の黒田さんですか?」
「はい」
本さんは震える声で続けた。
「あの夜、消灯の、黒田さんが来ました。薬剤課から薬を持ってきて……田さんに投与するように言われました」
「何の薬ですか?」
「眠導入剤です」
「なぜ従ったんですか?」
本さんは唇を噛みしめた。
「断ったんです。でも黒田さんは、もし断れば私の過をばらすと言いました」
「過?」
本さんは苦しそうに息を吸った。
「私、5に別の病院で働いていました。そこで、投薬ミスをしたことがあるんです。患者さんに違った薬を投与してしまって……幸い事には至りませんでした。でも、その記録は残っています」
「それを黒田さんはっていた」
「はい。薬剤課にいる黒田さんは、事の記録を見られるでした」
黒田警部補はメモを取りながら、静かに尋ねた。
「それで従ったんですね」
本さんは涙を流しながら頷いた。
「黒田さんは言いました。しめに投与するだけだ。朝までく眠るだけだって」
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「信じたんですか?」
「信じたかったんです。まさか、あんなことになるなんて……」
本さんはまた泣き始めた。
「朝、田さんがいなくなって、怖くて……でも何も言えなくて……」
黒田警部補はちがった。
「本さん、あなたにも責任はあります。しかし今、必なのは証言です」
本さんは泣きながら頷いた。
「はい。全部話します」
黒田警部補は会議に戻り、事務に言った。
「薬剤課の黒田さんを呼んでください」
数分、薬剤課の黒田職員が会議に入ってきた。いつもと変わらない落ち着いた様子だった。
「お呼びでしょうか」
「しお聞きしたいことがあります」
黒田職員は子に座った。表は穏やかだったが、指先がわずかにいていた。
黒田警部補はカルテを机に置いた。
「このカルテの修正、あなたがしましたね」
黒田職員の顔が瞬変わった。しかしすぐに平静を装った。
「いいえ、していません」
「では、なぜ眠導入剤の庫がわないんですか?」
「それは記録ミスだといます」
「記録ミスではありません」
黒田警部補は声をめた。
「あなたは527の夜、本護師に眠導入剤を渡し、田子さんに投与させた」
黒田職員の表が固まった。
「そんなこと……」
「本さんが証言しています」
その瞬、黒田職員の顔が真っ青になった。
「あの女、喋ったの」
その言で、全てがらかになった。
田刑事がを乗りした。
黒田警部補は静かに言った。
「あなたを薬品横領および田子さん失踪事件に関する参考として取り調べます」
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