"7年目の地下貯蔵庫" 第2話
伊藤賢太。その19歳。ちょうど学に入ったばかりでした。
葵は弟の学費をしていました。昼は満作ラーメンで働き、休みのには別のい仕事を探すこともありました。料をもらうと、自分の交通費と費をほんのしだけ残し、残りはすべて母親の座へ送していました。
弟が学を卒業するまでは、自分の結婚も、遊びも、欲しいものも回しにする。
そんな子でした。
それでも葵にはさながありました。
いつか賢太が自したら、母親に当たりの良い部を1つ借りてあげること。
葵は料をもらうたび、垢のついた通帳に1ずつ記帳しました。増えていく数字は決してきくありませんでした。それでも葵にとっては、さな希望そのものでした。
の仕事がどんなに辛くても、休憩で通帳をき、その数字を見つめると、またしだけ元気が湧いてきました。
休みのには、葵は港のにち寄り、母親の好きな魚を1つ買ってへ向かいました。母親が「こんなもの買わなくていいのに」と困ったように笑うと、葵は決まってこう答えました。
「たまにはいいじゃない。お母さん、いつも働いているんだから」
それほどしっかり者で、いやりのある娘でした。
満作ラーメンのたちも、その性格をっていました。女将の清子は、々葵に余ったおかずを包んで渡しました。
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「若いのに苦労がいね。ちゃんとべなさい」
主の満作も、葵にだけは々器用な冗談を言いました。
「そんなに働いたら、うちの釜より先に葵ちゃんが壊れるぞ」
葵は笑って返しました。
「丈夫です。私、と丈夫ですから」
表向きは、のたちは皆、1つの族のように見えました。
しかし、そんなある頃から、葵のから1つの言葉がよくるようになりました。
「来あたり、京へ1度ってみようかとうんです」
それは、何気ない雑談のでた言葉でした。
京へけば仕事もいし、もっと稼げるかもしれない。弟の学費のしにできるかもしれない。そんないからでした。
のたちは、その言葉を軽く聞き流していました。
若いがよくにするだろう。都会に憧れる頃なのだろう。
そうっていたのです。
しかし、その言葉がに葵の枷になるとは、この、誰1として像していませんでした。
20041023。
曜でした。
曜は、満作ラーメンが最も忙しいでした。が休みになるもく、昼から酒をみながらラーメンをべる客が途切れませんでした。族連れも来れば、常連の員たちも来る。は朝から夜まで湯気と声で満ちていました。
そのも、は夜遅くまで賑わっていました。
葵は朝からほとんど休む暇もなくき続けました。
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注文を聞き、どんぶりを運び、空いた器をげ、テーブルを拭く。厨から満作のい声がび、清子が客の相をし、拓也がから戻ってきてはまたていく。
午になると、葵の額にはうっすら汗が浮かんでいました。それでも笑顔は崩しませんでした。
「葵ちゃん、忙しそうだな」
「今は曜ですから。おじさんも、ゆっくりべていってくださいね」
そう言いながら、葵は空いた席にを置きました。
夜の10を過ぎて、ようやく最の客が簾をくぐってへました。
「ごちそうさん」
「ありがとうございました」
葵はの入まで軽くをげました。
客がいなくなると、急に内が静かになりました。ついさっきまでの声と器の音で満ちていた空に、釜の煮える音だけが残りました。
ぐつぐつ、ぐつぐつ。
濃いスープの匂いが、閉の湿った空気にく広がっていました。
その夜、にはどこか奇妙な空気が漂っていました。いつもなら客が帰った、清子が「今は疲れたね」とるく言い、満作が無言で釜を見ながら頷く。葵は笑いながらを拭き、拓也はのベンチで煙を吸う。
しかしそのは、何かが違っていました。
空気がしかったのです。
窓のには、の夜のたい空気がりてきていました。通りの途絶えたは、灯のいだけに照らされ、静まり返っていました。
閉作業は、いつも葵の役目でした。
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