"母を捨てた凍夜" 第1話
はる子、78歳。
199612、兵庫県部のにあるさな介護施設で、彼女は静かに暮らしていた。
名を呼ばれると、はる子はし遅れて顔をげる。髪をきちんとろでまとめ、膝のに置いたは細く、働き続けてきた特の節くれだった形をしていた。
そのは、若い頃から休むことをらなかった。
はる子がまれたのは昭初期、戦争の音がしずつづいていた頃だった。は貧しい農で、子どもたちは学をるとすぐに働くのが当たりだった。
はる子も例ではなかった。
学をるとすぐに、紡績で働き始めた。
朝く、まだ空がみきらないうちにをる。のには械の音が絶えず響き、油と綿ぼこりの匂いが空気に混じっていた。糸を紡ぐ単調な作業は、く続ければ指先が痛み、肩も腰もくなる。
それでも、はる子は文句を言わなかった。
料になると、い封筒を両で受け取り、を確かめるに実へ送った。
「お父さんたちが困らないように」
それが、はる子の癖だった。
自分のためにしい着物を買うことも、甘いものをべにくこともなかった。族のために働き、族のためにする。それが当のはる子にとって、当然のき方だった。
23歳の、はる子は役に勤める男性、茂と見いをした。
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茂は背がく、物静かで、真面目そうな印象の男だった。見いの席で、はる子が緊張して茶碗を持つを震わせると、茂はさく笑って言った。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ」
その穏やかな声に、はる子はしだけを許した。
このとなら、幸せになれるかもしれない。
そうった。
結婚式は質素なものだった。親戚だけを呼び、自宅でささやかな席を設けた。はる子はい着物にを包み、茂の隣に座った。
「よろしくお願いします」
はる子がさな声で言うと、茂は静かに頷いた。
しかし、結婚活が始まると、はる子を待っていたのは、像を超える苦労だった。
茂の母、つまりはる子の姑は、非常に厳しいだった。
「嫁は朝番に起きるものです」
そう言われ、はる子はまだ夜がけきらないうちから起きた。たいで顔を洗い、台所にち、を掃除し、朝を用した。
姑は、はる子の作る料理に必ず文句をつけた。
「がい」
「この野菜の切り方は何だ」
「嫁のくせに、こんなこともらないのか」
はる子は俯き、ただ「すみません」と答えた。
茂は何も言わなかった。
仕事から帰ると、聞を広げ、黙って夕をべる。姑がはる子を責めても、茂は顔をげない。はる子が台所の隅で涙を拭いても、気づかないふりをした。
それが当の夫婦の形だった。
2、男の武志がまれた。
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姑はびした。
「やっと跡取りができた」
姑は武志を抱きげ、何度も顔を覗き込んだ。はる子はその様子を見て、ようやく自分もこので認められるかもしれないとしだけ期待した。
しかし、姑の態度は変わらなかった。
むしろ、さらに厳しくなった。
「孫の世話もまともにできないのか」
「泣かせるんじゃありません」
夜に武志が泣くと、はる子は姑にられないよう、慌てて布団から起きがった。の夜は廊のが氷のようにたく、は汗で襦袢が背に張りついた。
それでも、はる子に休む暇はなかった。
4、女の由紀子がまれた。
姑の反応はたかった。
「また女か」
その言に、はる子は胸を刺されたようにじた。
武志にはしいが買い与えられた。けれど由紀子には、古いおがりばかりが回ってきた。はる子は娘に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
それでも、はる子は2の子どもを精杯した。
武志がをせば晩病し、由紀子が泣けば優しく抱きしめた。
「母さんはね、あなたたちが元気でいてくれれば、それでいいのよ」
はる子はよくそう言った。
自分の幸せよりも、子どもたちの幸せ。
それが、はる子が信じて疑わなかった母親の姿だった。
20、はる子は姑に仕え続けた。
姑が病気になると病院に付き添い、薬をませ、体を拭き、事を運んだ。
どれほどたい言葉を浴びせられても、はる子は最まで世話を続けた。
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