"母を捨てた凍夜" 第8話
つまり、施設から消えたその夜だった。
本はすぐに吹荘へ向かった。
吉田施設は青ざめた顔で応接に現れた。
「施設、あの倉庫は普段使っていたんですか?」
「いえ、ほとんど使っていません。古い備品を置いているだけで」
「1、誰もを見なかったと?」
「ええ、まあ……」
吉田は線をそらした。
本は厳しい調で言った。
「おかしいですね。捜索のもここは調べなかった。何か隠していることはありませんか?」
吉田は答えなかった。
本は職員全員に事聴取をうことにした。
くの職員は何もらないようだった。
しかし、ある職員がな証言をした。
「あの夜、恵子さんがさんを連れて玄関に向かうのを見ました」
その言葉を聞いた瞬、本は確信した。
やはり佐藤恵子が鍵を握っている。
本は再び恵子のアパートへ向かった。
しかし、部は空っぽだった。
に尋ねると、恵子は1ヶに引っ越したという。
「引っ越し先は?」
「さあ、聞いていません」
本は民票を追った。
恵子は県へ転していた。転先は岡県のさな町。実に戻っていたのだ。
1998110、本は岡県の恵子の実を訪れた。
古い農の軒だった。
玄関先にてきたのは、恵子の母親だった。70代の柄な女性で、警察帳を見ると顔を曇らせた。
「娘は体を壊して戻ってきたんです。
広告
そっとしておいてやってください」
「申し訳ありませんが、な事件です。しだけお話を聞かせてください」
母親はため息をつき、本をのへ案内した。
恵子は2階の部にいた。
窓のを見つめていた彼女は、以よりさらに痩せていた。髪も伸び放題で、頬はこけていた。
「佐藤さん」
本の声に、恵子はゆっくり振り向いた。
その目には、諦めのようながあった。
「やっぱり来たんですね」
恵子はさな声で言った。
本は子に座った。
「はる子さんの遺骨が見つかりました。施設の倉庫で」
恵子の目から涙がこぼれた。
「やっぱり……」
「あなたは何かっていますね」
恵子は頷いた。
そして、震える声で話し始めた。
「全て、私のせいです」
恵子はあの夜のことを話した。
幸子からの話。
吉田施設の指示。
はる子を起こしたこと。
「娘さんが迎えに来ている」と嘘をついたこと。
真の夜に玄関からへしたこと。
本は黙って聞いた。
りを抑えながら。
「施設費が払えないからせと、族がそう言ったんですね」
「はい。幸子さんは話で言いました。もう面倒を見られない。そっちで適当に処理してくれと」
「それで施設が?」
「はい。吉田施設が私に言いました。今夜、はる子さんをにせと。の方向に歩かせて、あとはらないふりをしろと」
本の拳が震えた。
「あなたは、それに従った」
広告
恵子は顔を覆った。
「逆らえませんでした。施設に逆らえば職を失う。私には養わなければならない母がいて……」
「それでも、あなたは護師でしょう」
本の声はかった。
恵子は泣きながら頷いた。
「分かっています。言い訳にならないことは分かっています。でも、あの、私はかった」
「はる子さんは、にる、何と言っていましたか」
恵子は嗚咽をこらえながら答えた。
「嬉しそうでした。由紀子さんが迎えに来てくれたとって……『由紀子が来てくれたのね』って」
本はく息を吸った。
恵子は続けた。
「私はそのろ姿を見ていることしかできませんでした。鍵を閉めた、玄関で泣きました。でも、助けにかなかった」
部にい沈黙が落ちた。
「倉庫を調べなかった理由は?」
「私は、はる子さんをのにしたんです。倉庫に入ったことはりませんでした。でも、朝になっていなくなった、本当のことを言えませんでした」
本は図を広げた。
施設から町へ向かう。
施設の裏側へ続く農。
そして倉庫の位置。
はる子は度、を歩いたのだろう。寒さに耐えられなくなり、どこかに入ろうとした。かりを求め、施設へ戻ろうとしたのかもしれない。
しかし暗のでを違え、裏側の農へ入り、倉庫を見つけた。
を避けるためへ入った。
そこで力尽きた。
本は恵子に礼を言い、実をにした。
兵庫に戻ると、本は吉田を警察署に呼びした。
取調の子に座った吉田は、汗を拭き続けていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 29 -
完結第20話
婿との温泉旅行で、仲居から渡された「逃げて」のメモ
七十歳の元大工・桐山正三は、婿の達也に誘われ、信州の温泉旅館を訪れる。亡き妻との思い出に浸るはずだった夜、仲居から渡された一枚のメモには、「その酒を飲まず、裏階段から逃げてください」と書かれていた。達也が狙っていたのは、正三が妻と築き上げた家と土地だった。必死に逃げ帰った正三を待っていたのは、娘の貯金六百八十万円の行方と、身に覚えのない不動産売買契約書。なぜ仲居は危険を冒してまで彼を助けたのか。家族の財産と娘の人生を守るため、老大工の静かな反撃が始まる。怒り|親不孝|真実|親子関係|修羅場2.8万字5 1662 -
完結第18話
父の一周忌、兄が追い出そうとした母子の契約書
父の一周忌を終えた翌朝、45歳の西村綾子は、空き家のはずの実家で見知らぬ母娘に出会う。兄の正人は「不法占拠だ」と警察を呼ぶが、12歳の少女が差し出したのは、亡き父の署名が入った三年間の賃貸借契約書だった。さらに兄は、綾子に無断で実家の売却を進めていたことが判明する。父はなぜ、家族にも知らせず母娘を住まわせたのか。そして、兄がそこまでして家を売ろうとする本当の理由とは。父の遺した一枚の契約書から、家族が隠してきた秘密が次々と明らかになっていく――。怒り|真実|絶縁|親子関係|修羅場2.2万字5 230 -
完結第10話
七〇二号室の秘密
入籍12日目、初めて義実家を訪れた遥香は、豪華なすき焼きの陰で、義姉・真帆が水をかけた冷や飯だけを食べさせられている姿を目撃する。 真帆から託された住所を訪ねると、そこには夫・直樹がいた。彼は義姉の避難部屋を用意しながら、兄と母を恐れて救出を先延ばしにしていたのだ。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|真実|裡の顔|修羅場2.0万字5 352 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 502 -
完結第20話
花嫁のいない結婚式
結婚式を翌日に控えた長谷川由衣は、胃痛を訴える婚約者・黒田瞬のために、心を込めて雑炊を作っていた。ところが彼の部屋の前で耳にしたのは、「あいつはただの身代わりだ」という残酷な本音。三年間の愛情も、婚約指輪も、純白のドレスも、すべて元婚約者の代わりだったと知った由衣は、誰にも告げず空港へ向かう。翌朝、二百人の招待客が待つ式場に花嫁は現れなかった。人生逆転|真実|裡の顔|第二の人生|修羅場2.9万字5 128 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 768 -
完結第21話
自治会を抜けたら、ごみを返されました
自治会を退会した68歳の冴子は、ゴミ袋を自宅前へ戻され、「未加入者は集積所を使えない」と告げられる。 しかし市役所と元自治会長に確認すると、集積所は住民共有の施設で、排除する規則も正式な決議もなかった。さらに、故人が出席したことになっている総会議事録など、不透明な運営が発覚する。因果応報|真実|修羅場3.0万字5 545 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 1622 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 187