"蜂蜜先生の救命列車" 第1話
俺の名は涼介。38歳。
職業は科医だった。
あえて「だった」と言うのは、今の俺がを脱ぎ、医師としてのから度れようとしていたからだ。
俺はこの10、国境なき医師団の員として世界を回ってきた。貧しい国、紛争の傷跡が残る域、医療設備がりない。どこへっても、そこには助けを求めるがいた。
清潔な術も、分な薬も、った検査器もない。
それでも目のの命をつなぐために、俺たちはできる限りのことをした。まみれの診療所で縫をし、した夜に懐灯のだけで処置をした。薬の数を数えながら、誰に使うべきか悩んだことも度や度ではない。
苦労の連続だった。
けれど、この仕事には誇りがあった。
自分ので誰かの命を救える。その実だけが、どんな過酷な現でも俺を支えていた。
この先もずっと、そうした々が続くのだとっていた。
だが今、俺はを脱ぎ、故郷に向かう最終に乗っている。
窓のは夜だった。内灯のいが、古いボックス席をぼんやり照らしている。乗客はなく、誰もが疲れた顔をしていた。
俺は窓に映った自分の顔を見た。
し痩せた。
目のには疲れが残っている。
10り続けたのだ。しぐらいと体を休めても、罰は当たらないだろう。
そう自分に言い聞かせた。
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俺が医師を目指したきっかけは、実の隣にんでいた6歳の匠だった。
匠は、子どもの頃の俺にとって本物のヒーローだった。
が良く、性格もよかった。困っているがいれば、迷わずそばへき、穏やかな声で声をかけた。
「どうしました?」
その言が自然にるだった。
杖をつく老が階段ので困っていれば、すぐに腕を貸した。子の女性が段差を越えられずにいれば、周囲に声をかけ、丁寧に助けをした。
俺はそんな匠がかっこよくて、いつもろをついて回っていた。
匠も俺をがってくれた。俺が学にがると、よく勉を教えてくれた。
あるの夕方、俺たちは縁側に並んで座っていた。匠は参考を閉じ、俺の方を見た。
「いいか、涼介。困っているにはを差しすものだ」
俺は膝のでを握り、黙って聞いていた。
「最はみんな、自分のことばかり考える。でも、それじゃだめなんだ。は助けってきていくんだから」
「そうだね。みんな1じゃきられないものね」
俺がそう言うと、匠は嬉しそうに笑った。
「その通りだ。どんな代になっても、そのことだけは忘れるな」
その言葉は、子どもの俺の胸にく残った。
やがて、匠が医師を目指して勉していることをった。
「最、遊んでやれなくてごめんな」
匠は参考のをに、し申し訳なさそうに言った。
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「俺は医者になって、世界の困ったを助けたいんだ。でも医者になるには、必に勉しなきゃいけない」
匠が目指していたのは、国境なき医師団だった。
俺はその名を聞いた、胸が鳴った。
世界の困ったを助ける医者。
まるで匠そのもののようなだった。
その頃から、俺は漠然と匠のを追うように、自分も医師になりたいとうようになった。
だが、幸は突然訪れた。
ある朝、匠は自宅のベッドので眠るようにくなっていた。
原因となるきな病があったわけではなかった。夜に臓が止まり、そのまま度と目を覚まさなかった。
俺はヒーローを失った。
その衝撃はきく、は学に通うことさえ苦しくなった。何を見ても匠をいし、勉机に向かっても文字がに入らなかった。
そんな俺を救ってくれたのが、母だった。
母は俺の隣に座り、静かに肩を抱いた。
「匠くんのを継いで、あなたが頑張ればいいのよ」
俺は涙で濡れた顔をげた。
「俺が?」
「そう。きっと匠くんも、国から応援してくれるわ」
母はそう言って、俺の背を何度も撫でてくれた。
今になれば、母がどんないでその言葉を言ったのか分かる。
俺が世界をび回る医師になれば、しょっちゅう会うことはできない。危険な域にくこともある。
母にとっては、がなかったはずがない。
それでも母は、俺のを止めなかった。
当の俺は、母のいいを考える余裕もなく、ただ医者になろうとがむしゃらに勉を始めた。
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