"蜂蜜先生の救命列車" 第6話
「うん」
改めて見ると、の体は配になるほど細かった。
しかしには筋肉がしっかりついている。腹筋もく割れている。アスリートとしての体だけを考えれば、理に見えるのかもしれない。
だが、それでいいのだろうか。
こんな女が、血糖で倒れるまで体を絞り、記録を残そうとする。
それがアスリートの世界だとしたら、どこか歪んでいる。
運と聞けば、は健康なイメージを持つ。
だが、競技の世界はに違う。
速くるために体を軽くする。
特定の筋肉だけを鍛える。
事を厳しく制限する。
その訓練が、今はどんどん若い世代にまでりてきている。
まだ成期の体に、それは本当に必なことなのか。
俺が黙って考えていると、が俺を見げた。
「蜂蜜先?」
俺はに返った。
「ごめん。し考え事をしていた」
「何を考えていたの?」
「アスリートのセカンドキャリアみたいなことをね。ちゃんにはまだい話かもしれないけど」
すると恵が静かにをいた。
「いいえ。関係ない話ではありません」
俺は恵を見た。
「この子はスポーツ推薦を狙っていることもあって、勉より体管理にになっています。もしに格しても、の子との学力差は広がるばかりでしょう」
俺はうなずいた。
「流になれればいい。でも、そうでない学の方が圧倒にい。
広告
自分で限界をるならまだいいですが、怪でキャリアが潰れたら、ち直るのは簡単ではありません」
恵の考えは、ちょうど俺がじていた違と同じだった。
はぽつりとつぶやいた。
「もっと勉した方がいいのかな」
「君のは君が決めるものだ」
俺はの目を見た。
「でも、もしれなくなった、自分に何が残るか。それは考えておいた方がいい」
はし黙り、やがてうなずいた。
「し考えてみる」
それから彼女は、急に無邪気な目を向けた。
「それより、教えてほしいことがあるんだけど」
「いいよ。何でも聞いて」
「なんで蜂蜜を使ったの? 血糖を治すのには蜂蜜がいいの?」
俺はし笑った。
「まず、の駅で蜂蜜が売っているから、誰かが産に買っているかもしれないとった。それから蜂蜜は、あののちゃんに必だった糖分なんだ」
「糖分」
「そう。液体だから喉に詰まりにくいし、のの粘膜からも吸収しやすい。にあるもののでは、かなり優秀な応急薬だ」
は楽しそうに笑った。
「やっぱり蜂蜜先だ」
俺は肩をすくめた。
「まあ、悪い名じゃないな」
そのはまだ、この呼び名が自分のをきく変えるとはっていなかった。
はさらにくなっていた。
救急はいつ来られるのか、見通しがたない。
俺は列に戻り、乗客たちに声をかけた。
広告
「皆さん、丁になるかもしれません。じっと座ったままでいないで、々ってをかしてください。ホームにるのもいいです。トイレもしないでください」
乗客たちは素直にうなずいた。
さっきまで満を言っていた男も、今ではの乗客に分を配っていた。
「みんな、蜂蜜先の言う通りだぞ」
俺はその景を見て、胸の奥がし温かくなった。
その、隣の両から緊迫した声が聞こえた。
「こちらの両にお医者様がいると聞きました!」
女性が息を切らして駆け込んできた。制ではないが、きに迷いがない。
俺はすぐにちがった。
「どうしました。あなたはお内ですか」
「くの松医院で護師をしている井と申します。隣の両で具が悪くなった男の子がいて、止しかけています。予断を許さない状況です」
「分かりました。すぐにきます」
俺は井に連れられ、隣の両へ入った。
そこは都会の横並びの座席だった。横になれるスペースがあり、具の悪い乗客たちが優先に寝かされていた。
シルバーシートのくで、12歳くらいのが横になっていた。
細の体。
青い顔。
苦しそうな表。
そばには母親らしい女性がいて、泣きそうな目で俺を見げた。
「蜂蜜先、どうかこの子を助けてください」
俺はすぐにのそばに膝をついた。
脈を確認する。
呼吸を見る。
状況は危険だった。
「誰か、ホームに設置されているAEDを持ってきてください!」
広告
おすすめ作品
-
完結第25話
義母が倒れた夜、隣人が私を止めた理由
午前一時、夫から「母が脳卒中で倒れた」と連絡を受け、病院へ急ごうとした美緒。だが車に乗る直前、隣人の氷室に止められる。前輪の下にはブレーキ液が漏れた跡があり、義母本人へ電話すると「倒れていない」と告げられた。 防犯映像に映っていたのは、出張中のはずの夫・達也。裡切られた|夫婦|真相|介護3.0万字5 1776 -
完結第13話
夫が毎日3回トイレを磨く理由
結婚五年。紗季は、温厚で家事にも協力的な夫・玲央と、四歳の娘・莉乃と平穏に暮らしていた。ただ一つ奇妙だったのは、夫が毎日三回もトイレを掃除し、誰にも触らせなかったこと。 ある日、法医学者の親友・美代子が、トイレの排水設備から人間の歯と古い血痕の痕跡を発見する。調査を進めると、この家では六年前、玲央と同棲していた婚約者が突然姿を消していた。夫婦|真実|真相1.5万字5 329 -
完結第14話
赤ちゃんの声が聞こえる姪が、夫の嘘を見抜いた日
生後一か月の息子を見た六歳の姪・美久は、「赤ちゃん、お父さんにひどいことをしないでって言ってる」と告げる。その言葉に、夫・徹だけが激しく動揺した。 育児をせず、暴言を重ねる夫に違和感を抱き始めた亜鳥。やがて美久が書斎で見つけた封筒から、亜鳥を被保険者、徹を受取人とする高額な生命保険の書類が発見される。 さらに調べると、徹には隠していた借金と別の女性がいた。夫婦|真実|真相|親子関係1.4万字5 1808 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 508 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 1548 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 187 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 268 -
完結第20話
妻の予定表に書かれた「最終日」
妻の予定表に記された、結婚記念日の「最終日」。夫は離婚を疑うが、その言葉には、十四年間積み重なった妻の孤独が隠されていた。 毎年同じレストランに二人分の席を予約し、来ない夫を一人で待ち続けていた妻。彼女は今年を最後に、待つことをやめようとしていた。夫婦|真相|第二の人生2.8万字5 376 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 264 -
完結第12話
二十六年目の告白
余命わずかな夫・浩司は、妻ゆみに衝撃の告白をする。二十六年前、ゆみが産んだ息子と愛人の子を、病院で密かにすり替えたというのだ。 だが、ゆみはすべてを知っていた。夫の行動を目撃し、名札を元へ戻していたため、浩司が愛人の子だと信じて溺愛してきた誠は、紛れもなくゆみの実子だった。夫婦|真相|親子関係|修羅場|不倫1.7万字5 1513