みかん小説
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"赤い口紅と信託離婚" 第1話

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それは俺の定退職のであり、同に妻、のり子の誕でもあった。

朝、のり子は鏡のち、いつもより丁寧に化粧をしていた。洗面台には、普段使わない鮮やかな赤いが置かれていた。のり子はそれをに取り、唇の形を確かめるようにゆっくり引いた。

俺は卓で噌汁の椀を持ちながら、その横顔を見ていた。

「今くまでくの。代のゼミの仲とランチ会があるから」

のり子はそう言った。

声はるかった。だが、そのるさは俺に向けられたものではなかった。

夜7卓に、のり子は現れない予定だった。

、彼女は代の恋、岡崎拓也の腕のにいるのだから。

のり子はらなかった。

俺がこの半、スマホの通、共通座の審な、同窓会の装、の変化、そのすべてを記録していたことを。

そして、退職2700万円の振込先を、のり子が切触れられない所へ移していたことを。

10、のり子はた。いネイビーのワンピースを着て、赤いを引き、髪を丁寧にえていた。

「夜7におで会いましょう」

玄関で振り返ったのり子は、軽くを振った。

俺は普段通りに答えた。

「気をつけて」

ドアが閉まる音がした。

のり子の音がざかっていく。40聞き続けた音だった。

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だがそのは、俺に向かう音ではなかった。

2

引っ越し業者がに入った。

所斎の本棚、経理関連の本、個類、父から譲られた腕計、結婚のアルバム。俺個の荷物だけが、静かに運びされていった。

夕方6

のり子が帰宅する頃、の空気はすでに変わっている。

ダイニングテーブルには、3つのものを置いた。

きの

信託公正証の写し。

婚調の写し。

の冒には、1だけいた。

「のり子。半、打ちけてくれるのを待った」

翌朝、のり子は青信託の窓つことになる。

だが退職2700万円は、族信託の受益者として俺1に指定されていた。

のり子は1円も引きせない。

俺は鳴らなかった。

責めもしなかった。

ただ半分の記録と、静かな準備と、かしようのない事実だけを置いてた。

これは、40連れ添った妻に「鈍い」と軽く見られてきた男が、定退職のに静かにした決断の記録である。

退職まで、あと3かだった。

9の朝、俺はいつもと同じ刻に目を覚まし、いつもと同じ順序で支度をえた。40勤めた雫商事の経理部に向かう朝だった。

卓の向こう側で、のり子が噌汁を椀によそっていた。

「今はお昼、何にしようかしらね」

「そうだな。任せるよ」

のり子は笑って子に腰をろした。

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その指が、卓の端に置かれたスマホを瞬だけ撫でた。

画面をではなく、に向けて置き直すきだった。

は違った。

のり子はスマホを画面をにして置いていた。話が鳴ればそので応答し、LINEの通れば箸を止めて返信していた。

その習慣が数かからしずつ変わり、2週から完全に伏せ置きになった。

俺は噌汁をに運びながら、界の端でスマホを見ていた。

事の半ば、のり子のスマホが瞬だけった。画面を伏せていても、縁からこぼれたがテーブルの目に反射した。

の文字列が、反射のにごくく浮かんだ。

「T君から着メッセージ」

Tの1文字が、俺の界に焼きついた。

のり子は気づかない。

俺も気づかないふりをした。

ここで問い詰めても、のり子は「見違いよ」と返すだけだろう。40経理をやってきた俺は、違を覚えた瞬いても何も掴めないことをっていた。

数字がわない額だけを凝しても原因は見えない。

の伝票、取引先の元帳、締めの振替。周辺の事実を積みげて初めて、ずれの正体が浮かびがる。

夫婦の違も同じだった。

を終え、玄関で靴を履きながら俺は声をかけた。

「今く帰るから」

「わかった。夕緒ね」

返事までに、ほんのがあった。

0.5秒ほどだろうか。

今までなら即座に返ってきた言葉だった。

通勤の窓際にち、俺はスマホのメモアプリをいた。

規メモ。

「912の朝の観察」

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