"地図にない赤札の家" 第2話
老は最初、番組のことをらない様子だった。それでもにこやかな表を浮かべ、画面を覗き込んだ。
「奥のを訪ねる企画でして。ここにがんでいるか確認したいんです」
田がそう言うと、老は写真を数秒眺めた。
その直だった。
老の表が、急に張った。
先ほどまでの柔らかな目つきが消え、元が固く結ばれる。袋をしたが、わずかに震えたように見えた。
「この所は、やめた方がいい」
老はい声で言った。
田はわず聞き返した。
「やめた方がいい、というのは……」
老は画面から目を逸らし、の方を度だけ見た。
「そこには誰もんでいない。遊びでくもんじゃない」
吐き捨てるような言い方だった。
その声には、ただの空きを指すの響きではないものがあった。らかに何かをっている。田はそうじた。
「何かあったんですか?」
田は歩踏み込み、老の表を伺った。
しかし老はを閉ざした。先ほどまでにこやかだった顔は完全にくなり、それ以何も語ろうとしない。
「すみません。しだけでも教えていただけませんか」
田がねて尋ねても、老は首を横に振るだけだった。
「かん方がいい。それだけだ」
それ以、老から話を聞くことはできなかった。
2は礼を言い、そのをれた。
そのも集落のを回り、数のに同じ写真を見せた。
広告
すると、反応はほとんど同じだった。
写真を見た瞬に顔を曇らせる者。
「あそこは空きだ」とだけ言ってちる者。
「関わらない方がいい」と声で告げる者。
誰も詳しいことは話さなかった。
に戻ると、辺はスマートフォンの図を見ながら呟いた。
「今回は空振りですかね」
田はフロントガラスの向こうに見えるを眺めた。混じりの空の、は黒く沈んでいる。
「せっかく来たのにな」
「でも、の反応を見ると、なんか曰くつきっぽいですよね」
辺が声を潜めた。
田も同じことをじていた。
「辺さんもそううか。俺もなんとなくそれをじた。だから余計に、ここまで来てぶらで帰るっていうのもな」
「そうだとしても、番組が違いますけどね。探してるのは霊スポットじゃないんですから」
2は冗談めかして笑った。
けれど、その笑いはどこか乾いていた。
それでも田は諦めきれなかった。聞き込みを続けながら、写真のへ通じるを探した。しかし、図に表示されるは途で途切れている。でけそうなは、どれも目かられていた。
半ば諦めかけたそのだった。
田の目が、へ向かって伸びる細いを捉えた。
「……こんなところにがあるぞ」
辺がスマートフォンを確認する。
「ナビにもGoogleマップにも表示されてないですね」
広告
は細いが、応舗装されているように見えた。両脇は々に覆われ、入だけがぽっかりと黒くをけている。
「田さん、ってみません? ダメ元で。無理なら引き返せばいいですし」
辺の提案に、田はし迷った。
だが、ここで引き返せば何も得られない。
田はハンドルを握り直し、静かにをそのへめた。
細いに入った瞬、周囲の空気が変わった。
先ほどまで通っていた集落のとはまるで違う。両側から伸びる々がを覆うように迫り、昼だというのには暗かった。に覆われた空のさえ、枝に遮られてほとんど届かない。
舗装はされているものの、まともに備されたではなかった。面には落ち葉がく積もり、ところどころ湿って黒くなっている。でもれば、簡単にスリップしそうだった。
側にはガードレールがあり、そのには細い沢が流れていた。窓を閉めていても、のせせらぎがかすかに聞こえる。側は肌が迫り、崩れたやがの端に転がっていた。
「これは……数は補修されてないですね」
辺が助席でシートベルトを握りながら言った。
は面の凹凸にわせてにきく揺れた。辺はカメラを構えながらも、折体を持っていかれそうになっている。
さらにむと、幅は1台がやっと通れるほど狭くなった。
幸い、取材として使っていたのはコンパクトカーだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 98 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 514 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 187 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 779 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 332 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 325 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 354 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 786 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 181 -
完結第10話
昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父
昭和51年、炭鉱が閉山した3日後、保安係だった父・修一が姿を消した。玄関には泥のついた長靴と作業帽が残され、母は「探さなくていい」と口を閉ざす。だが娘が父の作業着から見つけた紙片には、閉鎖された坑道の名と、謎の時刻が記されていた。 調べるほどに浮かび上がる、改ざんされた保安記録、帳簿から消された作業員、そして会社が隠そうとする閉山直前の事故。やがて坑道に残された録音から、父が誰かを救おうとしていた事実が明らかになる。しかし数十年後に届いた父の名札には、さらに不可解な言葉が刻まれていた。 「北の出口から出た。家へは戻れない」 父はなぜ、生きて坑内を出ながら家族のもとへ帰らなかったのか――。時代|歴史|昭和|ミステリー|真相1.5万字5 291