"神戸の熊と33人の組" 第4話
旅館へ到着すると、4は静かにへ入った。
階段をがる。
目の部のにつ。
田が扉をけた。
そこにいた宝川は――。
部の央で眠っていた。
柄な体を横にして、まるで何もらないかのように眠り続けている。
瞬、田岡たちは言葉を失った。
しかし、すぐに田岡の表が変わった。
ここまで来て引き返すわけにはいかない。
そうった。
田岡はづき、声をかけた。
「起きろ」
しかし、宝川は反応しない。
田岡ので、何かが切れた。
次の瞬――。
若き田岡雄は、に自分の名を歴史に残すことになる歩を踏みしていた。
田岡雄が声をかけても、宝川は目を覚まさなかった。
部の央できな体を横たえたまま、まるで周囲で起きていることなど関係ないと言わんばかりに眠り続けている。
その姿を見た瞬、田岡の胸の奥にあるがきく揺れた。
ここまで来たは何なのか。
仲が受けた屈辱を、このまま終わらせていいのか。
若い田岡には、まだ物事をい目で見る余裕はなかった。
目のにあるり。
仲へのい。
そして、自分が引くことへの拒絶。
それだけが彼をかしていた。
「起きろと言っているんだ」
田岡はもう度声をげた。
しかし、宝川はゆっくり寝返りを打っただけだった。
その態度が、さらに田岡のりを刺激した。
広告
自分たちは覚悟を決めてここまで来た。
それなのに、相は何もじていない。
田岡のがいた。
眠っている宝川へ向かって、撃を加える。
普通なら、その衝撃で誰でもび起きるはずだった。
しかし、宝川は違った。
顔を踏まれても、きな体をしかしただけで、すぐには反応しなかった。
その異様な姿に、部にいた全員が息をんだ。
「……なんだ、この男は」
田岡自も驚いていた。
今までくの喧嘩を経験してきた。
相がそうに見えても、気迫で押し切ることができた。
しかし、目のの男は違う。
痛みにじない。
恐怖を見せない。
まるで別のき物のようだった。
そこへ田が拳銃を構えた。
さすがの宝川も、そこでようやく目を覚ました。
ゆっくりと体を起こす。
目のには複数の男。
そして、自分に向けられた武器。
普通なら慌ててもおかしくない状況だった。
しかし、宝川は静だった。
「何の用だ」
い声でそう言った。
その落ち着きが、逆に田岡のをさらに刺激した。
「組を馬鹿にしたそうやな」
田が問いかける。
しかし、宝川は簡単には謝らなかった。
「そんな覚えはない」
その返事に、部の空気が張り詰める。
田はりを抑えながら、もう度尋ねた。
「謝る気はないのか」
だが、宝川は黙ったままだった。
その瞬だった。
田岡のがいた。
広告
懐に隠していた刀を取りす。
その目には、迷いがなかった。
りが限界を超えていた。
しかし、次の瞬。
横からい力が加わった。
玉錦だった。
「やめろ!」
玉錦が田岡の腕を掴んだ。
田岡は驚いた。
なぜ止めるのか。
ここまで来た理由は何だったのか。
玉錦自が助けを求めた相ではないのか。
しかし、玉錦は必だった。
「殺す必はない」
その言葉には、複雑なが込められていた。
りはある。
憎しみもある。
しかし、かつて同じ故郷で育った相の命まで奪う覚悟はなかった。
田岡の腕は止められた。
だが、すでに振りろされた刀の勢いを完全に消すことはできなかった。
宝川は反射にをげた。
その結果、刃はを傷つけ、さらに額にも傷を負わせた。
瞬で部のが静まり返った。
血が畳へ落ちる。
田岡は息を荒くしていた。
自分でも、どこまでりに任せていたのか分からなかった。
やがて宝川は、自分の傷を確認すると、静かに座った。
そして、しばらくしてからをげた。
「……悪かった」
その言で、張り詰めていた空気がしずつほどけていった。
この事件は、田岡雄という若者の名をさらに広めることになる。
恐れらずの若者。
どんな相にも向かっていく男。
神戸では、そんな噂が広がっていった。
しかし、このの田岡はまだらなかった。
これから先、自分が単なる喧嘩のい若者ではなく、くののを背負うになることを。
1934。
代はきく変化していた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
車いすの恋人に請求された三万三千円の「迷惑料」
交通事故で車いす生活となった恋人・明菜と、もう一度穏やかな日常を取り戻そうとしていた聡。明菜の誕生日、二人は思い出のフレンチレストランを訪れる。しかし待っていたのは、食事時間の一方的な短縮と、三万三千円もの「迷惑料」だった。因果応報|人生逆転|真相|修羅場2.8万字5 403 -
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 47 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 512 -
完結第16話
四万円を断った朝
同僚に裏切られ、二千万円近い借金を背負った大橋拓人。再就職の面接へ向かう朝、雨の道路でパンクした車を見つけ、遅刻を覚悟でタイヤを交換する。女性から差し出された四万円を断り、代わりに面接先まで乗せてもらった拓人。しかし会社に到着すると、受付の社員たちが彼女に深々と頭を下げた。職場逆転|人生逆転|真相|修羅場2.5万字5 470 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 1160 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 1694 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 187 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 468