"青いハンカチの花嫁" 第10話
「おはあのを使って由美さんに連絡を取った。俺の名を語ってな」
会はを打ったように静まり返った。
「君を助けたのは俺だ。治療費は気にしなくていいから、度会って話をしたい。おはそう言って由美さんを呼びした。を盗んだおだけが、由美さんの連絡先をっていたからだ」
由美の目から涙がこぼれ落ちた。
彼女はずっと、自分がをしたから命の恩と再会できたのだと信じていたのだ。
けれどそのは本当の恩には届かず、悪を持った男の引きに使われていた。
「ひどい……あんまりです」
由美は震える声で健を見ろした。
「私がどんないであのをいたか。あの、自分の無力さと、あなたの命への申し訳なさで、晩泣きながらいたんです。それを、それをおのために利用したの……?」
由美の痛な叫びが、会に響いた。
健は何も答えられず、ただ俯いて震えている。
しかし、この異様な空気ので、さらに信じられないにた者たちがいた。
健の両親、夫と慶子だ。
会社が倒産寸であること、息子の悪事がのにさらされたことで、彼らは完全にパニックに陥っていた。そして保のために、内の息子を切り捨てるという浅ましい計算を働かせたのだ。
「正社、私たちは本当に何もらなかったんです」
広告
突然、夫が正社のにすがりつくようにして叫んだ。
「を盗んだのも、別の女性と付きっていたのも、すべてこの愚かな息子が勝にやったことです。私と妻は完全に騙されていました」
親族たちは斉に眉をひそめた。
先ほどまで「うちの健は素らしい」と自していた男とは、まるで別だった。
慶子も慌てて夫の横に並び、涙声を作った。
「そうですわ。正さん、私たちも被害者なんです。まさか息子がこんな恐ろしい詐欺を働いていたなんて。由美さん、本当にごめんなさいね。こんな男、今すぐ勘当しますから」
慶子はそう言いながら、に座り込む健をで突いた。
「ほら、あんたもく謝りなさい。社と由美さんに座して謝りなさいよ」
親の勝なのひら返しに、健は信じられないという顔で両親を見げた。
健はおのために由美を騙した。
しかしその根底には、倒産寸の実を救いたいといういも、しはあったのかもしれない。
だが、その両親は自分たちの体面と会社を守るために、あっさり息子を見捨てた。
「正社、どうかお願いします」
夫は揉みをして正社にすり寄った。
「この結婚が破談になるのは仕方ありません。ですが、御社との提携話や融資の件だけは、どうか予定通りにお願いできないでしょうか。
広告
このままでは、うちの会社はにも潰れてしまいます」
その言葉を聞いた瞬、会のあちこちから軽蔑の声が漏れた。
「最だ」
「よくそんなことが言えるな」
娘を騙された父親に向かって、だけは貸してくれと頼み込んでいるのだ。
あまりのかましさに、俺も言葉を失った。
正社は、すがりつく夫を氷のようにたい目で見ろした。
「あなた方は、のというものを持っていないようですね」
そのく静かな声が、夫の言葉を切り裂いた。
「自分の保のために平気でを騙し、最には内の息子まで見捨てる。そんな経営者がいる会社に、1円とも融資するはありません」
夫の顔が絶望で真っに染まった。
「今限りで、あなた方との取引はすべてにさせていただきます。もちろん、これまでの詐欺為や横領については、顧問弁護士を通じて厳格に法措置を取らせてもらいます」
正社の毅然とした宣告に、渡辺弁護士も静かに頷いた。
夫と慶子は崩れ落ちるようにそのにへたり込み、を抱えた。
彼らの浅ましい計算は、完全に打ち砕かれた。
すべてが終わったかに見えた、そのだった。
両親に見捨てられ、由美にも拒絶され、完全に1になった健が、突然肩を揺らして笑い始めた。
「ふ……ふふ……あはははは」
狂ったような笑い声が静かな会に響く。
親族たちが気悪そうにずさった。
健はゆっくりちがり、乱れた髪をかきげながら、俺と由美を交互に睨みつけた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
団地に残された17通
毎朝5時、誰よりも早く団地へ来て、廊下も階段もごみ集積所も黙って掃除してきた61歳の藤本志津江。 13年間続けてきた仕事は、ある日突然、31世帯の署名によって終わりを告げられる。理由は「住民の生活をのぞいている」「勤務時間外に声をかけすぎる」というものだった。 志津江は反論しながらも、自分の善意が誰かにとっては重荷になっていたことを知る。 そして契約終了が決まった直後、清掃用具庫から見つかったのは、長年誰にも届かなかった17通の手紙だった。 その中には、15年前に団地で起きた火災と、当時責任を負わされた元管理人、そして亡くなった女性が残したはずの言葉が含まれていた。 志津江は本当に住民を見張っていたのか。 17通の手紙は、なぜ用具庫に残されていたのか。 そして、団地が長年隠してきた火災の真相とは――。因果応報|人生逆転|真実1.8万字5 465 -
完結第8話
孫の一言で、三億円の家を売りました
72歳の和子は、7歳の孫が配達員に「お金を払ってるんだから、ありがとうって言わなくてもいい」と言うのを聞き、言葉を失った。さらに48歳の息子・健一まで「間違ってない」と笑う。健一一家が12年間家賃0円で暮らしている一戸建ては、和子が1億4800万円で購入した和子名義の家。今では査定額が約3億円になっていた。ところが健一は、その家を当然のように「自分の家」と呼び、「どうせ将来俺が相続するんだから、名義を変えてもいいだろ」と言い始める。息子の言葉を聞いた夜、和子は1人で不動産会社に電話をかけた。12年間「家族だから」と与え続けてきた母親が、初めて大きな決断を下そうとしていた。因果応報|親不孝|親子関係|金銭問題1.2万字5 929 -
完結第9話
捨てられた妻の逆転人生
30年間家族を支え続けた妻・美智子に、夫は突然「もうお前は必要ない」と離婚届を突きつけた。 専業主婦として何も生み出していないと思われていた美智子は、何も言い返さず家を去る。 しかし翌朝、夫が残された古いファイルを開いた瞬間、30年間隠されていた衝撃の真実が明らかになる。 会社を支えていた取引先、危機を救った技術、築き上げた成功――そのすべての裏側には、誰にも知られず夫を支え続けた美智子の存在があった。 「家政婦」と呼ばれた妻が、本当は誰よりも会社と家族を守っていた理由とは。 そして、すべてを失った夫が初めて気づいた、取り返せない30年間の後悔とは――。因果応報|夫婦|熟年離婚1.4万字5 2735 -
完結第11話
22年目の母席
7歳の時から、美緒を育ててきた高瀬京子。 血のつながりはなくても、熱を出した夜にそばにいたのも、弁当を作ったのも、卒業式や成人式に付き添ったのも、すべて京子だった。美緒もまた、いつしか彼女を「お母さん」と呼ぶようになっていた。 しかし結婚式を前に、22年間ほとんど姿を見せなかった実母・麗子が現れる。 実の母親という分かりやすい肩書。結婚祝いの200万円。そして、相手方の家族が求める“普通の形”。 やがて美緒は、京子に告げる。 「今回は、麗子さんにお願いしたい」 さらに結婚式当日だけは、自分を「京子さん」として扱ってほしいと頼まれた京子。22年間積み重ねてきた日々は、たった一言で母親の席から外されてしまう。 本当の母親とは、産んだ人なのか。それとも、そばに居続けた人なのか。 娘の結婚式を前に、京子が初めて自分の傷と向き合う、静かな家族の物語。因果応報|親子関係1.7万字5 1934 -
完結第10話
墓前の偽息子
夫の命日、文子は一人息子の誠と並んで墓前に手を合わせていた。 その時、文子の携帯に「誠」から電話がかかってくる。 しかし、本物の誠は今、すぐ隣で父の墓に手を合わせていた。 電話口の男は、息子のふりをして言った。 「母さん、仏間の金庫の暗証番号を教えてくれないか」 相手は、文子の家に金庫があることも、最近暗証番号を変えたことも知っていた。さらに電話の向こうから聞こえてきたのは、誠の妻・和子の声だった。 これはただの詐欺なのか。 それとも、家族の中に裏切り者がいるのか。 亡き夫が残した言葉を胸に、文子は慌てず、静かに確かめることを選ぶ。 そして家へ戻った母子が見たのは、想像もしなかった妻の本性だった――。因果応報|親子関係1.5万字5 2702 -
完結第12話
赤身を笑った女の末路
15年前、木村実乃里は“親友”を名乗る女・高子に夫を奪われた。 妊娠したと泣きながら告げてきた高子。沈黙する夫。幼い娘を連れ、実乃里はすべてを失ったような思いで家を出た。 それから15年。 実乃里は娘・由美香を育てながら、小さな店から会社を立ち上げ、ようやく穏やかな日々を手に入れていた。 そんなある日、社会人になった由美香が、初任給で母を回転寿司へ連れていく。ささやかで幸せな食事の席で、実乃里は15年ぶりに高子と再会する。 「相変わらず貧乏臭いわね」 「うちの子は国家公務員なの」 昔と変わらず人を見下し、勝ち誇る高子。 しかし次の瞬間、由美香が静かに言った。 「ママ、あの人クビにしたら?」 高子が働いている“高級ショップ”の本当の経営者。 15年前に壊されたはずの母娘の人生。 そして、高子自身が知らなかった本当の立場。 回転寿司の小さなテーブルで、15年越しの因果が静かに動き出す。因果応報|人生逆転1.8万字5 2788 -
完結第12話
7階に戻るな
70歳の高橋恵子は、夫を亡くしてから6年、都心のマンションで静かに暮らしていた。 ある夕方、いつものように買い物帰りのエレベーターに乗った彼女は、隣人の老人・木村から一枚の紙切れを渡される。 「病気のふりをして、次の階で降りろ。絶対に7階へ戻るな」 意味も分からないまま指示に従った直後、エレベーターの中で木村は命を落とす。さらに残された紙には、「このマンションでは、誰も信じるな」と書かれていた。 なぜ木村は恵子を逃がしたのか。なぜ7階へ戻ってはいけなかったのか。 やがて事件は、6年前に事故死したはずの夫・優一郎の死、息子夫婦の秘密、そしてマンションから消された5分間へとつながっていく。 たった一枚の紙切れが、穏やかな老後に隠されていた真実を暴き出す――。因果応報|人生逆転1.8万字5 1581 -
完結第12話
捨てられた夏の肖像
次女・夏が生まれた日、夫は赤ん坊の顔を見るなり言い放った。 「この子は俺の子じゃない」 長女は夫にそっくりなのに、次女はまったく似ていない。たったそれだけの理由で、私は浮気を疑われ、DNA鑑定で親子関係が証明されても、夫と義母は夏を認めようとしなかった。 そして私は、生まれたばかりの次女だけを連れて家を追い出される。 残された長女には会えないまま、10年が過ぎた。 ところがある日、成長した夏とショッピングモールを歩いていた私は、夫と義母、そして長女と偶然再会する。 そこで彼らは、夏の姿を見て言葉を失った。 10年前、「他所の子」と罵られた次女には、彼らが知らない大きな秘密があった――。因果応報|人生逆転1.8万字5 1083 -
完結第12話
近道看板の逆襲
海の近い小さな村で、家族と農業を営む大平浩。 数年かけて育ててきたトウモロコシ畑が、ある日突然、何者かの車に踏み荒らされていた。畑の入口には、勝手に置かれた「国道への近道」の看板。何度撤去しても、立入禁止の表示を立てても、被害は止まらない。 やがて犯人は、入院中の村長の息子・光だと判明する。 「この村のものは俺のもの」 そう言い放つ光は、畑を道路のように使い続け、ついには浩の娘まで危険な目に遭わせる。警察に訴えても、相手が村長の息子というだけで話は曖昧に流されてしまう。 証拠がなければ、誰も動かない。 そう悟った浩は、畑に防犯カメラを設置し、光が自ら罠にはまる“ある看板”を立てることにした。 家族の畑を踏み荒らした男に待っていた、静かな因果応報とは――。因果応報|修羅場1.8万字5 1128 -
連載中第13話
20億追放妻の封筒逆転
斎藤グループ創業家の長男と結婚して5年。跡継ぎを望まれながらも子どもに恵まれず、結菜は義実家の視線に耐え続けていた。 そんなある日、夫の愛人が妊娠したことを知らされる。しかも相手の女性は双子を身ごもっていた。義父母は結菜に離婚合意書を差し出し、20億円と引き換えに日本を出るよう命じる。 家族だと思っていた場所から、金で追い出されることになった結菜。だが署名の直前、彼女は誰にも言えない“ある事実”を知る。 何も告げず海外へ渡った結菜と、愛人との結婚式を迎えようとする元夫。 すべてが斎藤家の思い通りに進むはずだったその日、式場に一通の封筒が届く。 そこに記されていた真実が、夫と愛人の未来、そして斎藤家の後継者計画を静かに崩していく――。因果応報|人生逆転|不倫2.0万字5 5192