"床下のミスキャンパス" 第1話
1998325。
そのの京の空は、とはえないほどく垂れ込めていた。昼過ぎからり始めた細いは、夜になる頃にはたい湿り気を帯び、世田区桜町の古い資産の邸宅を静かに濡らしていた。
灯のかりのでは、桜のつぼみがまだ半分閉じたまま揺れていた。
午947分、世田警察署の当直で話が鳴った。
受話器を取った巡査が名を名乗ると、話の向こうから落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
「私の妹が、まだ帰らないのです」
声には涙も、取り乱した様子もなかった。むしろ、あらかじめ読む文章をえていたのように、と所が妙にきちんとしていた。
「今朝、卒業式にくと言ってをました。夜の8には帰ると言っていたのに、連絡が取れません」
通報者は、自分を藤堂澄、28歳と名乗った。
方が分からなくなっているのは、妹の藤堂しおり、22歳。名学の卒業式に席するため、その朝、袴姿でをたという。しおりはその、母の形見である真珠のイヤリングを初めてにつけていた。
「うちの妹は、そういう子ではないんです。だけは本当に正確な子なんです」
澄はそう繰り返した。
同じ頃、桜町の邸宅の応接には、しおりがその朝、かけたまま置いていった2つの品物が並んでいた。
文字が押されたみのある卒業アルバム。
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そして、まだ封されていない航空会社の職内定通の封筒。
澄はそれらので、封筒の角を何度も指先でえていた。同じ角度、同じ力、同じ隔で。まるで、その封筒がしでも乱れていることを許せないかのようだった。
夜に差しかかる頃、世田署の刑事と警察官が邸宅に到着した。
扉をけた澄は、いグレーのカーディガンを羽織り、髪をきちんと1つに結んでいた。
「こんなにを運んでくださって、申し訳ありません。へお入りください」
警察官たちが応接のソファに腰をろすと、彼女は用していたかのように温かいほうじ茶を運んできた。
澄の最初の説は、あまりにも滑らかだった。
朝、妹が何をべたのか。
どんな袴を着て、どんな靴を履いてかけたのか。
玄関で振り返って挨拶した刻まで、まるで腕計を見ていたかのように正確だった。
「朝の9ちょうどにていきました。卒業式は1130分からだと聞いていましたし、そので友達と事をする約束があるとも言っていました。遅くとも夜の8には帰ると」
警察官が帳にき込みながら尋ねた。
「最、妹さんに悩み事のようなものはありませんでしたか」
澄はほんのし目を伏せた。く迷ってから話し始めるように、ゆっくりをいた。
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「実は、男性のことでし悩んでいたようです。学の経済学部の先輩と付きい始めていたようですが、このところ、うまくいっていなかったみたいで」
その言葉が、その夜の帳面に最初にき込まれたとなった。
だが、同していた刑事の笠岩男は、澄の言葉だけを見てはいなかった。
47歳。世田署の係で、現を見る目には定評がある刑事だった。
笠はソファには座らず、応接の奥をゆっくり歩きながら、部全体を線でなぞっていた。
彼の目を止めたのは、横の見障子の敷居に残った、ほんのい埃だった。
古い資産ので、こうした所が自然に汚れていることはあまりない。
そしてもう1つ。
台所の流しのには、しいと見られる黄いゴム袋が1組、裏返しのまま干してあった。
ありふれた。
ありふれた姉の通報。
けれどそのいすぎた絵ので、笠の目は、さな違を何度も拾い続けていた。
「失礼ですが、本、昼に掃除をされましたか」
笠が静かに尋ねると、澄の線が瞬だけ揺れた。
「いえ、特には。ただ、いつも通りにしていただけです。妹がもうすぐ就職しますし、部をし片付けてあげようとって、午に雑巾がけをしたくらいで」
朝という。
散らかった敷居の埃。
そしてしいゴム袋。
話ので、それらはほんのしずれていた。
だが笠は、そので追及しなかった。彼は部の空気を乱さないように、線だけを静かにかした。
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