"床下のミスキャンパス" 第2話
警察官たちは、しおりの部へ案内された。
2階の向きの8畳だった。装ケースのには、まで季節順にきちんと並べられていた。机のには航空会社の職の最終格通の写しがファイルに挟まれている。壁にはミスキャンパスグランプリを受賞したの写真が飾られていた。
しおりは、桜町の々にとって誇りのような娘だった。
名学の学であり、茶と華の師範資格を持ち、航空会社への内定も決まっている。さらに、そのの6になれば、両親が残した3億8000万円規模の信託資産が彼女のもとで始されることになっていた。
その部の机のには、螺鈿のさなケースがあった。蓋はけられたままだった。
には本来、母の形見である真珠のイヤリングが入っていたはずだった。だが、ケースのに残っていたのは、ベルベットの跡だけだった。
「これは母の形見です。この子が今、初めてつけてかけたんです」
澄はそう言いながら、何気ない作でケースの蓋を閉め、引きしの奥へしまった。
笠はその元を見た。
きがかった。
まるで、警察官の線からその箱をざけたいのようだった。
通帳、印鑑、パスポートは、すべて部に残されていた。
自発にをたと考えるには、持ちすはずのものがあまりにもく残っていた。
広告
警察官の1が澄に尋ねた。
「通帳やパスポートを取りに戻った形跡はありませんか」
澄はすぐに首を振った。
「いいえ。私は夕方もずっとにいましたが、誰も来ませんでした」
1階へ戻る途、笠は畳部のでを止めた。
扉をけると、8畳の部の央に桐の箪笥が1つ置かれていた。その隣で、畳が妙にるいをしている2列が目に入った。
「この畳は、最替えたんですか」
澄は扉際にったまま、く答えた。
「のに畳さんに頼んで替えてもらいました。母の部だったところで、よく入れをしているんです」
笠は部に入らなかった。
扉の枠に片を置き、畳の、桐箪笥の位置、障子の、板の沈み方まで、写真に焼きつけるように眺めた。
そして静かに扉を閉めた。
その夜の警察の判断は、失踪の能性を残したまま、翌から正式に聞き込みをめるというものだった。
現に荒れた様子がない。
澄の説がごとにっている。
物証がない。
それが当の判断だった。
警察官たちが玄関をようとすると、澄は扉まで見送りに来た。
「あの子を、なんとか見つけてあげてください。両親ももうおりませんから、私にはあの子がすべてなんです」
玄関の扉が閉まると、が再びくなった。
桜町の邸宅は、また静けさに包まれた。
広告
事件は、こうしてあまりにも静かに幕をけた。
夜がけると、事件の輪郭はしずつらかになっていった。
藤堂しおり、22歳。
世田区桜町の古い資産のにまれた、末娘だった。敷は約130坪。2階建ての造邸宅は、祖父の代から受け継がれてきたものだった。
両親はすでにくなっていたが、しおりのために信託預と価証券を残していた。その額は約3億8000万円。彼女の22歳の誕を過ぎたそのの6から、正式に管理が始される予定だった。
しおりは名学の文学部でミスキャンパスグランプリに選ばれ、航空会社の職にも内定していた。茶と華の師範資格も持ち、所の々からは「桜町の誇り」と言われていた。
「毎週、作りのお菓子を持ってきてくれる子でしたよ。あの子が失踪したなんて、どうしても信じられません」
町内会の掲示板には、しおりの受賞を祝う貼りが、そのもしばらく残っていた。の跡がまだらに染みていた。
方、姉の澄は、域の々にとってあまり馴染みのないだった。
6の浪活のあと、堅の女子学に入学したものの退し、30歳を迎えるまで定職には就いていなかった。表向きには版社のフリーランス編集者を名乗っていたが、彼女が関わった本をる者はいなかった。
幼い頃の姉妹写真にも、その違いは写っていた。
母に抱かれているのは、いつも妹のしおり。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 108 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 542 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 192 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 1086 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 356 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 343 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 384 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 791