"消えた花嫁の名札" 第11話
4目の朝、担当刑事はファイルを1冊、机のに置いた。
「苅田さん。美緒さんの自メモです。児科のロッカーのから見つかりました」
刑事は写しを1枚、織のに押しした。
そこには、震えるような字でこうかれていた。
「613午8、姉が最に話しおうと持ちかけてきた。通帳の返却問題。今は病院の倉庫の方へ来いという。理由は分からないが、なんだか怖い。怖いなら、このが残るだろう」
織のの差し指が、ほんのわずかに震えた。
だが、彼女はまだをかなかった。
「美緒さんはあの、病院の倉庫にったんです。名札をカーディガンにつけたまま」
刑事は次の鑑定を取りした。
「これは、名札の裏から検された美緒さんの血液の鑑定です。そしてこちらは、名札のクリップ内側から検された、あなたと同じ母系遺伝子系列の鑑定です」
織は鑑定の文字をいこと見つめていた。
それでも、表は崩れなかった。
「弁護士と話します」
そのの取調べは、そこで終わった。
刑事たちは最の切り札をまだ取っていた。
5目の朝、取調で担当刑事は類ではなく、写真を2枚、机のに置いた。
1枚は、病院の倉庫の奥で切断されたコンクリート壁の断面。
もう1枚は、その壁のからいシーツに包まれたまま見つかった美緒の遺骨だった。
広告
刑事は写真の横に鑑識報告を並べた。
「苅田さん。妹さんは8、あの所にいらっしゃいました」
その瞬だった。
織の肩が初めてきく揺れた。
彼女は両でを覆い、声をさずに泣き始めた。涙は指のから落ち、机のにさな染みを作った。
刑事は急かさなかった。
取調の壁の内側だけで、織のすすり泣きが響いた。
い沈黙の、彼女はようやくをいた。
「あのは……本当に、命まで奪うつもりまではなかったんです」
8越しの自供が、始まった瞬だった。
1999613、夕方8過ぎ。
美緒は午勤務を終えたも、病院に残っていた。休憩の隅で結婚式の招待客名簿をまとめ、同僚たちに試作品の招待状を見せていた。
「あと2ヶなんです」
そう言って笑う美緒の胸には、いつものネームプレートがついたままだった。アイボリーのカーディガンにい名札。児科病棟の護師であることを示す、常の部のようなものだった。
その、織が美緒に声をかけた。
「通帳の話、今で最にしよう」
美緒は表をし曇らせた。
「姉さん、まだその話をするの?」
「静かなところで話したいの。倉庫の方へ来て」
病院の倉庫は、当、改修事の途だった。は業者が入りしていたが、夕方を過ぎるとの気配は途絶える。暗く、湿ったコンクリートの匂いがこもる所だった。
広告
美緒は迷った。
だが相は姉だった。
幼い頃から自分を支えてくれた姉。母をくした、事を作り、学費をし、学までかせてくれた。
それでも、そのの織の様子はどこか怖かった。
美緒はのため、児科ロッカーの隙に封筒を押し込んだ。
「万のは、この封筒をけてください」
誰に宛てたものでもない。
それでも、自分がじた恐怖をどこかに残しておきたかった。
午8をし過ぎた頃、美緒は病院の倉庫へりた。
階段をりるたび、の階のざわめきがのいていった。蛍灯はく、壁には改修事のための仮の枠が組まれていた。にはいがく積もっている。
織は倉庫の奥にっていた。
「通帳をもう1度、私に渡して」
その声はかった。
美緒は胸のでさくを握った。
「姉さん、その話はもう終わったでしょう。おは半分ずつ分けるって決めたじゃない」
「私が削ったくじよ」
織の声がし震えた。
「姉さん、それは緒に買ったものでしょう」
「誰があなたをここまで育てたとっているの」
美緒は唇を噛んだ。
「謝しているよ。でも、それとこれは別だよ。姉さんには姉さんの分を渡したでしょう」
織ので、積もっていたものが音をてて崩れた。
美緒だけが、いつも軽やかに奪っていく。
美貌も、望も、結婚も、未来も。
そして今度は、5000万円の半分まで当然のように受け取っていく。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
病院へ行かない黒い車
「健一が事故に遭ったの。危篤よ。すぐ病院へ向かいなさい!」 義母からの電話を受けた由美子は、夫の安否を案じ、家の前に用意されていた黒いハイヤーへ飛び乗った。 しかし車は、病院とはまったく違う方向へ走り出す。やがて連れて行かれたのは、電波も届かない山奥の古びた宿だった。 問い詰める由美子に、運転手は申し訳なさそうに告げる。 「すみません……指示どおりです」 夫の事故、義母の悲鳴、そして病院へ向かうはずだった車。すべては、由美子を家から遠ざけるために仕組まれた罠だった。 その裏で、夫と義母は何を終わらせようとしていたのか。 25年間、黙って耐えてきた妻が、たった一言から家族の嘘を暴き始める――。因果応報|夫婦|真相1.7万字5 137 -
完結第13話
離婚後に生まれた息子
10年間の不妊治療の末、「子供もできなかった」と姑に責められ、夫・健一から離婚を告げられた38歳の由美。ところが離婚から2週間後、最後に受けた治療が実っていたことが判明する。由美は悩んだ末、元夫には知らせず、実家で1人の男の子を出産した。それから1か月。離婚から10か月後のある日、玄関に現れたのは健一と、彼が再婚する28歳の美香だった。「来月、結婚式をするんだ」と招待状を差し出そうとした健一。しかし、由美の腕に抱かれた赤ん坊を見た瞬間、その笑顔が消える。「その子……まさか俺の?」。10年間「子供を産めない妻」と責められ続けた由美の人生が、そこから大きく動き始める。夫婦|真相|修羅場2.0万字5 4158 -
完結第10話
清掃員が書いた設計図
倒産寸前の小さな町工場に、1人の若い清掃員がいた。 佐藤ゆい、21歳。学歴は中卒。従業員たちからは名前で呼ばれることもなく、ただ雑用係として扱われていた。 そんなある日、大企業から依頼された精密部品がすべて不良品となり、工場は2000万円の違約金を突きつけられる。誰もが技術不足だと責められ、工場長の竹夫も廃業を覚悟しかけていた。 その時、ずっと黙っていたゆいが静かに口を開く。 「設計が間違っています」 中卒の清掃員が、大企業の研究所の図面に誤りがあると言い出した――。 誰も信じなかったその言葉が、やがて町工場の運命を大きく変えていく。履歴書には書けなかった彼女の本当の力とは。人生逆転|真相1.4万字5 340 -
完結第12話
ただいまの裏にあった10年
1985年8月15日、新潟県長岡市で、23歳の佐藤健一はいつものように工場を出たまま姿を消した。 自転車も、持ち物も、行き先も分からない。両親の誠とかず子は必死に息子を捜し続けたが、手掛かりは何ひとつ見つからなかった。 それから2年後、痩せ細った1人の男が佐藤家の玄関に立つ。 「ただいま」 失われた息子が帰ってきた――そう信じた両親は、彼を再び家族として迎え入れる。記憶を失っていても、生きて戻ってくれたならそれでいい。そう思いながら、佐藤家は少しずつ穏やかな日々を取り戻していった。 しかし10年後、差出人不明の小包が届く。 中に入っていたのは、小さな遺骨と、父が本物の健一に贈ったはずの腕時計。そして一枚の紙には、こう書かれていた。 「本物の息子さんをお返しします」 8年間、家族として暮らしてきた男は誰だったのか。 そして本物の健一は、あの日どこで何を奪われたのか。 失踪、偽りの帰還、そして名前を越えて残った家族の形を描く物語。ミステリー|行方不明1.7万字5 265 -
完結第13話
変な家
住宅情報サイトの編集者・森川直人のもとに、ある中古住宅の間取り図が届いた。埼玉県にある築28年の4LDK。一見ごく普通の家だが、洗面室と書斎の間には、どこからも入れない幅1メートルほどの「空白」がある。さらに、家族の生活動線から切り離された第二玄関、外からしか入れない物置、道路から見えない窓。現地を訪れた森川は、誰かを閉じ込めるための家ではないかと疑う。だが調査を進めると、別々の県に建つ2軒の家にも、まったく同じ奇妙な構造が見つかった。なぜ3人の男は、同じ「空白」を家の中に作ったのか。そして物置の奥から現れた金属扉の先には、28年間隠されてきたものが残されていた。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.9万字5 213 -
完結第10話
消えた嫁と浅すぎる墓
1993年正月、青森の山あいの村で、武田家の嫁・すみ子が墓参りの後に姿を消した。 夫は「家出した」と届け出たが、財布も行き先もはっきりせず、すみ子の消息はそのまま途絶えた。嫁姑の不仲、夫の無関心、そして雪深い村に残された小さな違和感――しかし当時、誰もそれを深く追おうとはしなかった。 それから7年後。 道路拡張工事で古い共同墓地を移すことになり、すでに亡くなっていた姑・松子の墓が掘り返される。ところが、棺のさらに下から見つかったのは、そこにあるはずのないもう一人の骨だった。 花柄の着物、頭に残された不自然な傷、そして7年前に「墓を深く掘らないで」と叫んだ娘の記憶。 正月の雪山で、武田家の女たちに何が起きたのか。 家族という名の密室に封じられていた真実が、7年越しに土の中から姿を現す――。ミステリー|真相1.5万字5 100 -
完結第8話
サービスエリアで消えた三人
大型サービスエリアで、36歳の母親と9歳の息子、6歳の娘が突然姿を消した。残された夫・修一はテレビに出演し続け、「妻と子供たちを見かけた人は連絡してください」と14年間訴え続けた。世間は彼を、家族の帰りを信じて待つ父親として記憶していた。ところが事件から14年後、100キロ近く離れた古い貸倉庫の床下から黒い旅行鞄が発見される。中に入っていたのは、失踪した妻の財布と、息子が旅行当日に履いていた片方のスニーカー。そして、その倉庫の過去を調べると、夫がかつて関係を持っていた女性の名前が浮かび上がる。14年間誰も疑わなかった「3人はサービスエリアで消えた」という前提が、そこから静かに崩れ始める。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.1万字5 194