"楽譜鞄の13年" 第5話
話を受けた職員はし戸惑いながら応じた。
「松本さやか事件は、13の未解決事件ですが、どういったご用件でしょうか」
話の向こうで、い沈黙が流れた。
やがて女性は、消え入りそうな声で言った。
「私は、松本さやかの姉です。松本美です」
職員の背筋が伸びた。
「何をお話しになりたいのでしょうか」
美の声は、さらに震えた。
「妹のことについて、お話ししたいことがあります」
この1本の話が、13眠っていた事件を再び目覚めさせることになった。
同午2、松本美は警察署にした。
41歳になった彼女は、13よりずっと痩せて見えた。目のには濃い隈があり、子に座ってからもの震えが止まらなかった。
たに担当となったのは、38歳の刑事、だった。
は美を取調へ案内し、机を挟んで向かいった。録音を置き、静かに尋ねた。
「どのようなお話をされたいのでしょうか」
美はしばらくをかなかった。
両で顔を覆い、さく息を吐いた、ようやくつぶやいた。
「私は、13、嘘をついていました」
は録音を作させた。
「最初から、ゆっくり話してください」
美は震える声で話し始めた。
「1991514の夕方、私がさやかを見たんです。音楽学部の建物の裏で」
の目が鋭くなった。
そこは、13に藤田清子が2の女子学を目撃した所だった。
広告
「そこで何があったんですか」
美は涙を流した。
「私たちは話をしたんです。いえ、喧嘩をしたんです」
「原因は何ですか」
美はすぐには答えなかった。
唇を噛み、線を机に落とした。
「個な話でした」
「具体に話してください」
「ただの姉妹喧嘩です。コンクールのせいで、さやかがストレスを受けていたから」
は黙ってメモを取った。
「喧嘩の、妹さんはどこへきましたか」
「分かりません。私が先にそのをれました。さやかは、そこにっていました」
「なぜ13、この事実を隠していたんですか」
美は俯いた。
「怖かったんです。私が疑われるんじゃないかって。それに、私も何が何だか分からなかったんです」
は、彼女がすべてを話していないことをじ取っていた。
「に誰か、そのにいましたか」
「いません。私たち2だけでした」
「確かですか」
「はい」
その証言だけでも、捜査を再するには分だった。
39、警察は13ぶりに松本さやか失踪事件の再捜査を決定した。
まずわれたのは、1991当の証拠の再確認だった。証拠保管から、古い箱が取りされた。埃をかぶった箱のには、練習で見つかった楽譜、記帳、建物裏で発見されたヘアピンが保管されていた。
それらは国科学捜査研究所へ送られた。
2004の技術なら、13には能だった分析ができるかもしれない。
広告
特に注目されたのは、のヘアピンだった。
315、予備な分析結果がた。
ヘアピンの属表面の隙から、微細な繊維片が見つかったのである。いを経ていたが、細い溝のに守られるように残っていた。
研究員は顕微鏡写真を示した。
「綿素材の類からた繊維と推定されます」
刑事たちは、美を再び呼びした。
316午3。
美は再び取調に座った。表は回よりく、指先は膝ので刻みにいていた。
が尋ねた。
「1991514の夕方、あなたは何を着ていましたか」
「覚えていません。13以のことですから」
「ゆっくりいしてください」
美は目を閉じた。
「いブラウスを着ていたといます。綿素材だったといます」
「そのはまだ持っていますか」
「いいえ。とっくに捨てました」
「妹さんと喧嘩した、体な接触はありましたか」
美はすぐに首を振った。
「ありません」
は、机のに分析結果を置いた。
「では、なぜヘアピンに、あなたのからたとわれる繊維がついているんですか」
美の顔から血の気が引いた。
「分かりません」
は声をくした。
「松本美さん。今からでも真実を話した方がいい」
美は両で顔を覆った。
「私は、本当に何もしていないんです」
しかし、その声はもう、信じきれるものではなかった。
刑事は、美本から真実を引きすだけでは限界があると判断した。
そこで、彼女の周辺物への聞き込みが始まった。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 122 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 568 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 222 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 1141 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 375 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 345 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 414 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 795