"消された登山日誌" 第3話
族のために朝を作る。いつもよりし豪華な献だった。焼き魚、噌汁、漬物、そして炊きたてのご飯。
台所には米の甘いりが広がっていた。鍋ので噌汁が静かに揺れ、焼き魚の皮がこんがりとづいている。
族3で囲む最の卓になるとは、誰も像していなかった。
誠は茶碗をにしながら、妻を見た。
「気をつけてってこいよ。無理はするなよ。本さんの言うことをよく聞いて、全第だぞ」
恵子は笑って答えた。
「分かってるわ。配しないで。3には元気に帰ってくるから」
美穂も箸を置き、母親に言った。
「お母さん、お産話、楽しみにしてるね。きれいな写真、いっぱい撮ってきてね」
恵子は娘のを優しく撫でた。
「もちろんよ。今度は美穂も緒に登れるといいわね。いつか族3でに登りましょう」
美穂は嬉しそうに頷いた。
朝8。
恵子は登靴の紐をしっかり結び、リュックサックを背負った。玄関のには、の澄んだ空気が広がっていた。
「ってきます」
玄関先で族にを振る。
誠と美穂が並んで答えた。
「ってらっしゃい。気をつけて」
恵子の姿が通りの角を曲がって見えなくなるまで、2は玄関にっていた。
それが族3で過ごす最の朝になるとは、にもっていなかった。
恵子はバスに乗って、青峰の麓の町へ向かった。
広告
窓のには田園景が広がっている。稲刈りが終わった田んぼ、づき始めた々、穏やかに流れる川。昭の本のの景が、バスの窓からゆっくり流れていった。
恵子は膝のに置いた帳をき、本から聞いた程を確認した。
1目は5目のまで登る。
2目は頂を目指し、その、別ルートで8目のへ向かう。
3目に麓までする。
何度も確認した計画だった。それでも恵子は胸の鳴りを抑えきれなかった。
約2、恵子は青峰の麓の町に到着した。
バスでりると、そこには本浩司が待っていた。
本は背がく、焼けした顔には穏やかな笑みを浮かべていた。の登で鍛えられた体は、45歳とはえないほど引き締まっていた。
本は恵子にづき、丁寧にをげた。
「田さんですね。お待ちしていました。私が本です。よろしくお願いします」
恵子も丁寧にをげた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。全にお願いします」
本は恵子の装備を確認しながら、細かく助言した。
「装備は完璧ですね。経験があることがよく分かります。気予報では3、れの予報です。絶好の登ですよ」
恵子はしたように頷いた。
「葉も今が1番美しい期です。きっと素らしい景が見られますよ」
その言葉を聞くだけで、恵子の胸は期待で膨らんだ。
広告
2は町の堂で昼を取った。のテーブルが並ぶさな堂で、壁には古い登写真が飾られていた。
本は元の名物料理を勧めながら、青峰の魅力について語った。
「青峰は本当に美しいなんです。特にの葉は格別です。頂から見る景は、忘れられないものになりますよ」
恵子は箸を止め、本の話にを傾けた。
本は優しく頼りがいのあるに見えた。落ち着いた声、無駄のないき、をり尽くした者だけが持つ自信。
このならして任せられる。
恵子はそうった。
昼、2は登へ向かった。本の運転するでの入まで移する。
内で本は、改めて登の程を説した。
「今は5目のまで登ります。そこで1泊して、は頂を目指します。頂で景を楽しんだ、別のルートでして、8目のでもう1泊。3目に麓まで戻る予定です」
恵子は頷きながらメモを取った。
全てが順調にんでいるように見えた。
午2頃、2は登に到着した。
そこには「青峰登」とかれたの板がっていた。板の周囲には落ち葉が積もり、のがそのをさらさらと撫でていた。
本は最終確認をした。
「装備良し。気良し。それでは発しましょう」
恵子は呼吸をした。
「はい」
いよいよ願の青峰登が始まった。
登は最初、なだらかで歩きやすいだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 0 -
完結第10話
消えた弟と制服の父
1991年3月、群馬県の山間にある静かな村で、2歳の木島拓也が自宅の前庭から忽然と姿を消した。 父は警察官。母は家の中にいた。庭にはおもちゃのトラックだけが残され、足跡も、争った跡も、手がかりらしいものは何も見つからなかった。 大規模な捜索が行われても、拓也の行方は分からない。やがて事件は迷宮入りしかけるが、父・洋介の行動にはいくつもの小さな違和感が残っていた。 予定より長すぎたランニング。説明のつかないパトカーの走行距離。外したはずの銃弾。そして、父の後ろ姿を見ていた4歳の姉・香織の沈黙。 それから3年後。 成長した香織は、悪夢の中で何度も同じ光景を見るようになる。 「パパが、拓也を傷つけた」 幼い記憶の断片が少しずつつながった時、消えた2歳児をめぐる事件は、思いもよらない形で再び動き出す。 前庭から消えた子どもに、本当は何が起きたのか。 そして、家族が3年間口にできなかった“あの日の真実”とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 26 -
完結第12話
20年目の神隠し夫婦
2004年、奄美大島へ新婚旅行に訪れた木村俊介と伊藤しおりは、宿泊先の民宿から忽然と姿を消した。 部屋には開いたままの旅行鞄、起動中のノートパソコン、携帯電話、財布、そして現金まで残されていた。最後に確認されたのは、しおりがブログに投稿した「明日はもっと素敵な1日になるはず」という幸せな言葉。 しかし、その夜を境に、2人の足取りは完全に途絶える。 事故なのか、事件なのか、それとも自ら消えたのか。家族は誹謗中傷に苦しみながらも、わずかな手がかりを追い続けた。だが、茶色い革の鞄が見つかっても、真実にはたどり着けないまま、20年の歳月が流れていく。 そして2024年、遠く離れた異国の小さな漁村から、信じられない知らせが届く。 20年前、奄美の夜に消えた新婚夫婦は、そこで何を失い、何を守り続けていたのか。 長すぎる空白の先で明かされるのは、愛する人を想い続けた家族と、帰る道を忘れなかった2人の物語。ミステリー|行方不明1.8萬字5 7 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 11 -
完結第11話
8年目の生マイク
8年前、宇都宮で1人の女性が明け方に姿を消した。 本田さゆり、54歳。夫は地元テレビ局で長年ニュースを担当してきた有名キャスター・本田正弘だった。彼はカメラの前で涙を浮かべ、「妻の帰りを待ち続けている」と語り、世間から“悲劇の夫”として同情を集めていた。 しかし、未解決事件を扱う生放送番組の休憩中、正弘の胸元についたピンマイクが切り忘れられていた。 誰もいない廊下で、彼が小さくつぶやいた一言。 「さゆり、お前があの時、口さえ閉じていれば……」 その音声を聞いてしまった若手ディレクターの通報により、8年間止まっていた事件が再び動き出す。 明け方の電話、隣家が聞いた重い音、失踪直前に消えた1000万円。そして、夫が隠し続けた古い土地。 完璧な悲劇を演じてきた男の仮面は、たった1つの切り忘れたマイクによって、静かに崩れ始める。ミステリー|行方不明1.7萬字5 37