"20年目のマネキン" 第1話
2000代初の京は、と音との流れが絶えないだった。
渋の交差点には巨なネオンサインが輝き、駅には昼夜を問わず若者たちがき交っていた。雑誌の表を飾りたい。ファッションショーのランウェイを歩きたい。誰かの目に留まり、を変えるようなチャンスを掴みたい。
そんなを抱いた若い女性たちが、毎のように方から京へやって来た。
けれど、を追うの数がいでは、1の顔が消えても、すぐには誰も気づかない。昨までオーディション会にいた女が、翌には群衆のから消え、やがて警察の方者リストのの1件になる。
加藤リナも、その何千ものうちの1だった。
リナは22歳。174cm。背の真んまで伸びた黒髪と、切れの茶い瞳を持っていた。その目は、見るによって神秘にも、放にも見えた。く主張しているわけではないのに、議と線を引きつける雰囲気があった。
2001の、リナはファッションデザインを学んだ学を卒業すると、潟県から京へてきた。
持っていたポートフォリオは、まだ派なものではなかった。族の友がソニーのサイバーショットで撮してくれた、素らしい写真がだった。照も構図もプロのものではない。背景も、所の公園やい壁ので撮ったような素朴なものばかりだった。
広告
それでも、その写真のには何か特別なものがあった。
カメラを怖がっていない。
自分をよく見せようと作り込みすぎてもいない。
レンズので自然にち、ほんのし首を傾けるだけで、空気が変わるような力があった。
リナは野区にさなアパートを借りた。部はわずか12平方メートルほどで、壁はかった。隣が夕を作る音も、夜にテレビをつける音も聞こえてくる。ベッドとさな机を置くと、もうほとんど余はなかった。
それでもリナは、その部を自分ののように切にした。壁には雑誌の切り抜きを貼り、机のにはオーディション報をき込んだノートを置いた。
活費を稼ぐため、鉄の駅くにあるファミリーレストランでウェイトレスとして働いた。シフトは朝6から午2まで。朝のまだ暗いに起き、制に着替えてに向かい、眠そうな会社員や学にコーヒーをした。
午はオーディションにくためのだった。
潟でさな文具を営む両親は、毎週曜に話をかけてきた。
「リナ、元気にしているか」
父の寿史は、いつも最初にそう尋ねた。
「ちゃんとべてる? おはりてるの?」
母の緑は、声だけで配しているのが分かるほどだった。
リナはいつもるく答えた。
「丈夫。全部順調。
広告
もうしできな契約が取れるとうから、待っていて」
話を切ると、狭い部に静けさが戻った。
本当は、順調とは言えなかった。
京にてきてから1半で、リナは約40回のオーディションに参加した。そのほとんどは、丁寧な断りの連絡か、実際にはかかってこない折り返しの約束で終わった。
それでも、いくつかのさな仕事は得た。
元デパートの広告撮。さなギャラリーでの学コレクションのショー。あまりられていないブランドの化粧品カタログの撮。
報酬は驚くほどなく、交通費とを賄うのがやっとだった。それでもリナは、全ての写真、全ての掲載誌の切り抜きを切に集め、透なファイルに入れた。
次のキャスティングで、「経験があります」と見せるためだった。
2002の。
リナの携帯話に、らない番号から着信があった。
彼女はファミリーレストランの休憩でをんでいた。画面を見つめ、し迷ってから話にた。
「加藤リナさんですか」
落ち着いた女性の声だった。
「はい」
「こちら、神聖モデルズと申します。オンラインのモデル志望者サイトで、あなたのポートフォリオを拝見しました。ぜひ度、キャスティングにお越しいただきたいのですが」
リナは背筋を伸ばした。
神聖モデルズ。
その名はっていた。
トップクラスのではない。けれど完全な無名でもなかった。商業写真、方ブランドの広告、本向けの医療カタログなどを専に扱う、堅のモデル事務所だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 0 -
完結第10話
消えた弟と制服の父
1991年3月、群馬県の山間にある静かな村で、2歳の木島拓也が自宅の前庭から忽然と姿を消した。 父は警察官。母は家の中にいた。庭にはおもちゃのトラックだけが残され、足跡も、争った跡も、手がかりらしいものは何も見つからなかった。 大規模な捜索が行われても、拓也の行方は分からない。やがて事件は迷宮入りしかけるが、父・洋介の行動にはいくつもの小さな違和感が残っていた。 予定より長すぎたランニング。説明のつかないパトカーの走行距離。外したはずの銃弾。そして、父の後ろ姿を見ていた4歳の姉・香織の沈黙。 それから3年後。 成長した香織は、悪夢の中で何度も同じ光景を見るようになる。 「パパが、拓也を傷つけた」 幼い記憶の断片が少しずつつながった時、消えた2歳児をめぐる事件は、思いもよらない形で再び動き出す。 前庭から消えた子どもに、本当は何が起きたのか。 そして、家族が3年間口にできなかった“あの日の真実”とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 31 -
完結第12話
20年目の神隠し夫婦
2004年、奄美大島へ新婚旅行に訪れた木村俊介と伊藤しおりは、宿泊先の民宿から忽然と姿を消した。 部屋には開いたままの旅行鞄、起動中のノートパソコン、携帯電話、財布、そして現金まで残されていた。最後に確認されたのは、しおりがブログに投稿した「明日はもっと素敵な1日になるはず」という幸せな言葉。 しかし、その夜を境に、2人の足取りは完全に途絶える。 事故なのか、事件なのか、それとも自ら消えたのか。家族は誹謗中傷に苦しみながらも、わずかな手がかりを追い続けた。だが、茶色い革の鞄が見つかっても、真実にはたどり着けないまま、20年の歳月が流れていく。 そして2024年、遠く離れた異国の小さな漁村から、信じられない知らせが届く。 20年前、奄美の夜に消えた新婚夫婦は、そこで何を失い、何を守り続けていたのか。 長すぎる空白の先で明かされるのは、愛する人を想い続けた家族と、帰る道を忘れなかった2人の物語。ミステリー|行方不明1.8萬字5 10 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 11 -
完結第11話
8年目の生マイク
8年前、宇都宮で1人の女性が明け方に姿を消した。 本田さゆり、54歳。夫は地元テレビ局で長年ニュースを担当してきた有名キャスター・本田正弘だった。彼はカメラの前で涙を浮かべ、「妻の帰りを待ち続けている」と語り、世間から“悲劇の夫”として同情を集めていた。 しかし、未解決事件を扱う生放送番組の休憩中、正弘の胸元についたピンマイクが切り忘れられていた。 誰もいない廊下で、彼が小さくつぶやいた一言。 「さゆり、お前があの時、口さえ閉じていれば……」 その音声を聞いてしまった若手ディレクターの通報により、8年間止まっていた事件が再び動き出す。 明け方の電話、隣家が聞いた重い音、失踪直前に消えた1000万円。そして、夫が隠し続けた古い土地。 完璧な悲劇を演じてきた男の仮面は、たった1つの切り忘れたマイクによって、静かに崩れ始める。ミステリー|行方不明1.7萬字5 37