"317号室の隠し壁" 第2話
田弓、26歳。
京。茶がかった髪を規定通りにまとめ、どこかいたずらっぽさを残した目をしていた。航空で3勤務し、京のアパートでルームメイトと暮らしていた。恋は次の休にプロポーズする予定だったという。
本京子、31歳。
阪。3ので最で、落ち着いた黒髪と穏やかな表を持っていた。実の母に毎仕送りを続け、訓練クラスでもが最もい優秀な客乗務員だった。
鈴、24歳。
。い髪と、の目をまっすぐ見る笑顔が印象だった。入社してまだ8ヶ。空から見る町の景にも、らないにりつことにも、仕事に伴うさな冒険のすべてに胸を躍らせていた。
佐藤は3で、彼女たちのファイルを何度も読み返していた。詳細は暗唱できるほどに入っている。
だが、ファイルを読むことと、そのを理解することは違う。
彼女たちに何が起きたのかをるに、彼女たちが誰であったのかをらなければならなかった。
1996の捜査を指揮していたのは、林圭刑事だった。今はすでに退職し、からしれた老ホームで暮らしている。佐藤が連絡を取ると、林は古い温泉の堂で会うことに同した。
ひび割れたビニールシートの向かいで、林はコーヒーをかき混ぜていた。
広告
のきは慎で、何かをしていないと過にみ込まれてしまうのようだった。
「28だ」
林はようやくをいた。声は齢と、かつて吸っていた煙の名残でかすれていた。
「私は異になるまで、ずっとあの事件を追っていた。そのも、自分ので調べ続けた。どうしても放せなかった」
佐藤はメモ帳をいた。
「最初から教えてください」
林は堂の窓のへ目を向けた。そこにある現の通りではなく、1996915の夜を見ているようだった。
「札幌からの447便は午1023分に到着した。クルーは翌朝915分に再び発する予定で、での標準な滞だった。航空は当、乗務員をよくホテル・スカーレットローズに泊めていた。法契約があったからだ」
林は古い帳を取りした。ページは黄く変し、何度もかれた跡で柔らかくなっていた。
「3は空港から緒にタクシーに乗った。ホテルの防犯カメラには、午1147分に到着した姿が残っている。フロントでチェックインし、田弓はギフトショップでワインを1本買った。そして3でエレベーターに乗った。それが、誰かが彼女たちを見た最だ」
佐藤は顔をげた。
「エレベーター映像は残っているんですね」
「残っている。3は3階のボタンを押した。疲れているようだったが、楽しそうに笑っていた。
広告
ごく普通だった」
林の声が、そこでしくなった。
「エレベーターは3階に到着した。ドアがいた。そこで映像は途切れる」
「3階のカメラが故障した」
佐藤が確認すると、林はうなずいた。
「午1153分、その階の全カメラが止した。ホテル側は源トラブルだと説した。午117分には復旧したが、そのには廊は空だった」
佐藤はすでにっている内容を、もう度メモに残した。で読むのと、当の刑事の声で聞くのとでは、みが違った。
「部は317、319、321。側廊に並んだ3部だった」
林は続けた。
「翌朝、清掃係が部に入ろうとして異変に気づいた。ベッドはえられたまま。荷物はドアのそば。スーツケースは閉まっている。浴も使われていない。まるで彼女たちが部に度も入らなかったようだった」
「でもカードキーは使われていた」
佐藤が言うと、林は苦い顔をした。
「そうだ。3つの部のロックは、午1155分に入を記録していた。誰かがドアをけた」
「必ずしも本たちとは限らない」
佐藤がつぶやくと、林はく息を吐いた。
「それが私を眠れなくさせた」
彼はカップを置き、両を組んだ。
「フライトに現れなかったことで航空が異変に気づき、昼に警察へ連絡した。私たちはすぐにホテルへ向かった。からまで捜索した。全、全クローゼット、メンテナンススペース、従業員用通。
勤務していた全員、宿泊客、に宿泊した客まで調べた」
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 1 -
完結第10話
消えた弟と制服の父
1991年3月、群馬県の山間にある静かな村で、2歳の木島拓也が自宅の前庭から忽然と姿を消した。 父は警察官。母は家の中にいた。庭にはおもちゃのトラックだけが残され、足跡も、争った跡も、手がかりらしいものは何も見つからなかった。 大規模な捜索が行われても、拓也の行方は分からない。やがて事件は迷宮入りしかけるが、父・洋介の行動にはいくつもの小さな違和感が残っていた。 予定より長すぎたランニング。説明のつかないパトカーの走行距離。外したはずの銃弾。そして、父の後ろ姿を見ていた4歳の姉・香織の沈黙。 それから3年後。 成長した香織は、悪夢の中で何度も同じ光景を見るようになる。 「パパが、拓也を傷つけた」 幼い記憶の断片が少しずつつながった時、消えた2歳児をめぐる事件は、思いもよらない形で再び動き出す。 前庭から消えた子どもに、本当は何が起きたのか。 そして、家族が3年間口にできなかった“あの日の真実”とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 44 -
完結第12話
20年目の神隠し夫婦
2004年、奄美大島へ新婚旅行に訪れた木村俊介と伊藤しおりは、宿泊先の民宿から忽然と姿を消した。 部屋には開いたままの旅行鞄、起動中のノートパソコン、携帯電話、財布、そして現金まで残されていた。最後に確認されたのは、しおりがブログに投稿した「明日はもっと素敵な1日になるはず」という幸せな言葉。 しかし、その夜を境に、2人の足取りは完全に途絶える。 事故なのか、事件なのか、それとも自ら消えたのか。家族は誹謗中傷に苦しみながらも、わずかな手がかりを追い続けた。だが、茶色い革の鞄が見つかっても、真実にはたどり着けないまま、20年の歳月が流れていく。 そして2024年、遠く離れた異国の小さな漁村から、信じられない知らせが届く。 20年前、奄美の夜に消えた新婚夫婦は、そこで何を失い、何を守り続けていたのか。 長すぎる空白の先で明かされるのは、愛する人を想い続けた家族と、帰る道を忘れなかった2人の物語。ミステリー|行方不明1.8萬字5 13 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 18 -
完結第11話
8年目の生マイク
8年前、宇都宮で1人の女性が明け方に姿を消した。 本田さゆり、54歳。夫は地元テレビ局で長年ニュースを担当してきた有名キャスター・本田正弘だった。彼はカメラの前で涙を浮かべ、「妻の帰りを待ち続けている」と語り、世間から“悲劇の夫”として同情を集めていた。 しかし、未解決事件を扱う生放送番組の休憩中、正弘の胸元についたピンマイクが切り忘れられていた。 誰もいない廊下で、彼が小さくつぶやいた一言。 「さゆり、お前があの時、口さえ閉じていれば……」 その音声を聞いてしまった若手ディレクターの通報により、8年間止まっていた事件が再び動き出す。 明け方の電話、隣家が聞いた重い音、失踪直前に消えた1000万円。そして、夫が隠し続けた古い土地。 完璧な悲劇を演じてきた男の仮面は、たった1つの切り忘れたマイクによって、静かに崩れ始める。ミステリー|行方不明1.7萬字5 37