"317号室の隠し壁" 第3話
林の声に、古い痛みが混ざった。
「すべて正しくやった。警察犬も入れた。だが、犬は何にも反応しなかった。まるで3は、エレベーターをりた瞬に蒸発したかのようだった」
佐藤は、解体現で撮られた隠し空の写真をした。
「1997の改装事について教えてください」
林の顔が暗くなった。
「失踪から8ヶ、ホテルの所権が変わった。しい経営者は3階全体の代化をめた。部のレイアウトを変え、廊をえ、壁をしくした」
「そのも調べたんですね」
「できる限りはな。建設図面を確認し、作業員にも聞いた。しい所者は協力だった。何も自然には見えなかった」
林は写真を見つめた。
「壁そのもののを見るとは、誰もわなかった」
佐藤は黙っていた。
当の捜査は徹底していた。
しかし、それはあくまで常識の範囲内の徹底だった。
誰かが改装事を利用し、証拠を壁の奥に封じるなど、像のにあったのだ。
「ホテルについて、何か噂はありませんでしたか」
佐藤が尋ねると、林はしだけ目を細めた。
「スカーレットローズには評判があった。公式なものではない。ただの噂だ。客が消えるという話。確認されたものではないが、80代からあった」
彼は声を落とした。
「スタッフの入れ替わりが異常にかった。夜勤を嫌がる者もかった。
広告
3階が寒い、見られているじがする、悪いを見る。そんな話をする者もいた。だが、それだけでは事件にはならない」
佐藤はメモ帳を閉じた。
彼女がちがろうとした、林が腕を伸ばし、佐藤の首をつかんだ。老いた男の握力とはえないさだった。
「佐藤刑事」
林はい声で言った。
「あの女性たちに何が起きたのかを見つけた、君が何を見つけることになるのか、私には分からない。ただ約束してくれ。この事件が私にしたことを、君にまでさせないと」
佐藤は林の目を見た。
疲れた目だった。
それでも、28事件を放せなかった男の目だった。
佐藤はうなずいた。
けれど、その瞬からすでに、守れない約束だと分かっていた。
静岡県警本部のにある証拠保管には、古いと段ボールの匂いが染みついていた。
佐藤は、航空447便関連の事件資料が収められた棚のにっていた。そこには、28の沈黙と捜査のさを詰め込んだ3つの箱があった。
相棒の刑事が、買ってきたコーヒーを机に置いた。
「俺が学の頃の事件ですよ」
は箱を見ながら言った。
「自分のキャリアより古い事件を追うのは、妙な気分です」
佐藤は最初の箱をろした。
「未解決事件は、どこかから始め直すしかない。問題は、同じ証拠をしい目で見るのか、当はしなかったがかりを探すのかよ」
広告
2は数かけて、調、現写真、目撃証言をつずつ確認した。
作業はだった。
しかし佐藤はっていた。
未解決事件は、突然のひらめきだけで解けるものではない。を持たなかった細部が、ある突然、別の証拠と噛みう。その瞬まで、何度でも事実を砕き直す必がある。
最初に気になったのは、夜勤のフロント係だった。
名は治。
彼は3をチェックインさせた物で、当2回事聴取を受けていた。供述は貫していた。3は礼儀正しく、疲れてはいたが普通に見えた。続きも常だった。
ただ、佐藤は調の末尾にさくかれた事実に目を止めた。
治は、失踪事件の2週にホテルを辞めていた。
「」
佐藤はその部分を指で押さえた。
「この治、今どこにいるか調べて。話を聞きたい」
がメモを取っている、佐藤は現写真を広げた。
317号。
田弓に割り当てられた部だ。
写真のの部は、異様なほどっていた。ベッドは病院のようにきっちりえられ、枕は央に置かれている。スーツケースは壁と正確に平に置かれ、テレビのリモコンでさえナイトテーブルのでまっすぐ並んでいた。
「完璧すぎる」
佐藤はつぶやいた。
「誰かが掃除したみたいだ」
も写真をのぞき込んだ。
「でも清掃係は、まだ部に入っていないと証言しています。
この写真も清掃に撮られたものです」
佐藤は319号、321号の写真も並べた。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 135 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 576 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 226 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 1147 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 377 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 345 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 415 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 795