"317号室の隠し壁" 第8話
佐藤とはすぐにへ戻った。
棚のろ、コンクリートの壁に、何か鋭い具で言葉が刻まれていた。
そこには代順に名が並んでいた。
佐藤は、方者の資料で見た名をいくつも認識した。には、届けすらされていないとわれる女性の名もあった。
の方に、3つの名があった。
田弓 1996916。
本京子 1996916。
鈴 1996916。
さらにそのに、しく刻まれた文字があった。削りかすがまだに残っている。
「真実を求める者たちも、やがて唱に加わる。壁はまだ飢えている」
佐藤の背筋にたい汗が流れた。
「最刻まれたものです」
リタが壁の削り跡を見ながら言った。
「おそらく過48以内」
が無線を握った。
「現周辺の監映像を全部確認する。全カメラ、全方向だ」
佐藤は壁の文字を見つめた。
これは挑発ではない。
脅迫だった。
犯は捜査を見ている。
そして、佐藤たちがここまで来たことをっている。
映像確認は夜通し続いた。
解体現のカメラ、隣舗の防犯カメラ、の交通カメラ。あらゆる角度から、過数の映像が集められた。
午3、が声をげた。
「いました」
映像は、ホテルの向かいに設置されたカメラのものだった。
2の午147分。建設用フェンスの隙から、1の男が入ってくる。男は迷いなくいていた。
広告
建物の構造も、カメラの位置もっているような取りだった。
だが、このカメラだけは解体会社が最設置したものだった。
男はそのに気づいていなかった。
数秒、彼の顔が灯に照らされた。
佐藤は映像を止めた。
男は60代に見えた。黒髪にはいものが混ざり、痩せた顔にはと加藤が語った「暗い目」があった。
顔認識をかけると、73%の信頼度で1つの候補がた。
黒田智弘。
1962まれ。
ホテル・スカーレットローズを1989から2003まで所していた黒田レイの息子。
だが、記録、黒田智弘は1995に建設事故でしているはずだった。
改装関連の現で落した資材に巻き込まれ、診断も葬記録も葬儀の記録もしていた。
佐藤は画面を見つめた。
「偽装」
が息を呑んだ。
「父親がかばっていたということですか」
「なくとも、息子がホテルに入りできるようにしていた。黒田レイがすべてをっていたかは分からない。でも、守るだけの事はっていた」
黒田智弘は、んだことになっているため、雇用記録にも税務記録にもほとんど残らない。社会にはしない男として、ホテルの内を自由にけた能性がある。
それは、犯にとって完璧な隠れ蓑だった。
遺伝子系譜調査でも、黒田智弘につながる物が見つかった。
広告
静岡にむ異母妹、パトリシア・ブレナン。
彼女は5、祖先調査のためにDNAを民データベースへ提していた。
警察署で佐藤と面会したパトリシアは、50代の学教師だった。優しそうな目をした女性で、説を受けるにつれ顔が青ざめていった。
「母がくなるに、父には以の関係で息子がいたと聞きました」
彼女は両でコップを包み込んだ。
「名は智弘。でも、事故でんだと言われていました」
佐藤は慎に言った。
「智弘はきています。そして私たちは、彼がなくとも32の女性の失踪に関わっていると見ています」
パトリシアはしばらく言葉を失った。
やがて、さな声で言った。
「3、彼に会いました」
佐藤とが同に顔をげた。
「突然、に現れたんです。『族だ』と言われました。最初は信じませんでした。でも父のことを、族しからないようなことまでっていました」
「所は」
「残しています。もう会うつもりはなかったけれど、のために」
彼女は携帯話のメモをき、古い所を示した。
郊の古いアパート、247号。
1以内に、佐藤、、そして特殊班は現を包囲した。
管理は、247号が「黒田トーマス」と名乗る静かな男に貸しされていると証言した。賃は現払い。ほとんど姿を見せないという。
扉は特殊班によって破られた。
佐藤は拳銃を構え、廊に続いた。
だが、内は空だった。
具は残っている。
しかし、写真、個な物はすべて消えていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 1 -
完結第10話
消えた弟と制服の父
1991年3月、群馬県の山間にある静かな村で、2歳の木島拓也が自宅の前庭から忽然と姿を消した。 父は警察官。母は家の中にいた。庭にはおもちゃのトラックだけが残され、足跡も、争った跡も、手がかりらしいものは何も見つからなかった。 大規模な捜索が行われても、拓也の行方は分からない。やがて事件は迷宮入りしかけるが、父・洋介の行動にはいくつもの小さな違和感が残っていた。 予定より長すぎたランニング。説明のつかないパトカーの走行距離。外したはずの銃弾。そして、父の後ろ姿を見ていた4歳の姉・香織の沈黙。 それから3年後。 成長した香織は、悪夢の中で何度も同じ光景を見るようになる。 「パパが、拓也を傷つけた」 幼い記憶の断片が少しずつつながった時、消えた2歳児をめぐる事件は、思いもよらない形で再び動き出す。 前庭から消えた子どもに、本当は何が起きたのか。 そして、家族が3年間口にできなかった“あの日の真実”とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 44 -
完結第12話
20年目の神隠し夫婦
2004年、奄美大島へ新婚旅行に訪れた木村俊介と伊藤しおりは、宿泊先の民宿から忽然と姿を消した。 部屋には開いたままの旅行鞄、起動中のノートパソコン、携帯電話、財布、そして現金まで残されていた。最後に確認されたのは、しおりがブログに投稿した「明日はもっと素敵な1日になるはず」という幸せな言葉。 しかし、その夜を境に、2人の足取りは完全に途絶える。 事故なのか、事件なのか、それとも自ら消えたのか。家族は誹謗中傷に苦しみながらも、わずかな手がかりを追い続けた。だが、茶色い革の鞄が見つかっても、真実にはたどり着けないまま、20年の歳月が流れていく。 そして2024年、遠く離れた異国の小さな漁村から、信じられない知らせが届く。 20年前、奄美の夜に消えた新婚夫婦は、そこで何を失い、何を守り続けていたのか。 長すぎる空白の先で明かされるのは、愛する人を想い続けた家族と、帰る道を忘れなかった2人の物語。ミステリー|行方不明1.8萬字5 13 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 18 -
完結第11話
8年目の生マイク
8年前、宇都宮で1人の女性が明け方に姿を消した。 本田さゆり、54歳。夫は地元テレビ局で長年ニュースを担当してきた有名キャスター・本田正弘だった。彼はカメラの前で涙を浮かべ、「妻の帰りを待ち続けている」と語り、世間から“悲劇の夫”として同情を集めていた。 しかし、未解決事件を扱う生放送番組の休憩中、正弘の胸元についたピンマイクが切り忘れられていた。 誰もいない廊下で、彼が小さくつぶやいた一言。 「さゆり、お前があの時、口さえ閉じていれば……」 その音声を聞いてしまった若手ディレクターの通報により、8年間止まっていた事件が再び動き出す。 明け方の電話、隣家が聞いた重い音、失踪直前に消えた1000万円。そして、夫が隠し続けた古い土地。 完璧な悲劇を演じてきた男の仮面は、たった1つの切り忘れたマイクによって、静かに崩れ始める。ミステリー|行方不明1.7萬字5 37