"8年目の生マイク" 第5話
「理由は分かりますか」
「夫が最おかしくなったって言っていました。詳しい内容までは話しませんでしたが、顔が本当に気でしたよ」
佐藤がを乗りした。
「おかしくなった、というのは具体にどういうだったんでしょう」
恵子は首を横に振った。
「ただ、が変わったようになったとだけ。さゆりは元々、夫の悪を言うような性格じゃありません。そんながあんな話を切りしたってことは、よほどのことがあったんでしょうね」
は帳のページをめくり、さらに尋ねた。
「失踪直に、普段と違うや発言はありませんでしたか」
恵子はしの、宙を見つめた。
やがて、いしたようにを打った。
「あ、そうだ。失踪するちょうど1週くらいだったかしら。所の喫茶で2でコーヒーをんでいるに、さゆりが突然言ったんです」
「何と」
「これからは自分のをきてみるために、とてもきな決をしたって」
佐藤の表が変わった。
「きな決ですか。婚でもするというだったのでしょうか」
恵子は曖昧に首をかしげた。
「具体には言いませんでした。私はその、エアロビクスでも始めるのか、健康管理でもするのか、しい趣の話だとったんです。でも今になって考えると……」
声がさくなる。
「そのきな決というのは、命がけでやらなければいけないようなことだったのかもしれません。
広告
そううと、胸がひやっとします」
恵子のをた、佐藤は運転席に乗り込みながら言った。
「班、本田正弘の辺をもっとく洗う必がありますね。きな決なんて、ただ事じゃないですよ」
助席で窓をろしたは、く頷いた。
「ああ。テレビ局にも当たれ。退職当の状況から洗い直すんだ」
佐藤はすぐに関テレビの事部へ接触した。
本田正弘は1998末、リストラの波に乗るような形で期退職していた。退職は急激に落ち込み、同僚たちとの連絡もほとんど絶っていたという証言が集まった。
そのの夜、は警察署に戻ると、8の事件ファイルから本田正弘の通話記録を探しした。
当の担当捜査官が、夫婦の通話に「特記事項なし」とだけ線を引いていたページだった。
の指が、細かく並んだ数字ので止まる。
失踪夜、午1147分。
通話、7分22秒。
さらに別のページには、失踪当午347分、本田正弘から妻さゆりへの発信記録が残されていた。
通話は2分34秒。
は目を細めた。
「なんだ、これは」
佐藤がカップラーメンを持ったままづき、記録を覗き込んだ。
「夫婦が同じにいるのに、夜やけ方に話ですか。しかも2分以」
はい声で言った。
「本田夫婦は仲がこじれて、1階と2階で別々に寝ていたらしい。それでもけ方4いに話をかけて、しかも本は妻がていったことに気づかなかったと供述している。
広告
おかしいだろう」
佐藤は帳をいた。
「次は本田を呼びますか」
はファイルを閉じた。
「いや、まだい。先にだ。夫婦のの流れを洗え」
数、佐藤が本田さゆり名義の融記録に蛍ペンで線を引いた。
「班、これを見てください。失踪する2に、1000万円が度に引きされています」
は老鏡を押しげ、資料へを乗りした。
「受け取ったのは誰だ」
「鈴匠。さゆりさんの甥です」
佐藤はキーボードを叩き、鈴匠の信用報を表示した。
「1998に居酒のフランチャイズをしていますが、景気で1も経たずに潰れています。そのはクレジットカードの滞納、からの借まである。完全な債務状態です」
は取引を見つめた。
「1000万円の所は」
「本田正弘の退職の部と、夫婦名義の定期預を解約したものです。さゆりさんが夫の通帳と実印を持ちし、窓で1000万円を切で引きし、別の座へ入しています」
の目つきが鋭くなった。
「夫に内緒でか」
「記録はそうです」
は子からちがった。
「鈴匠を呼べ。甥じゃなく、借まみれの参考だ」
翌の午、鈴匠が犯係のドアをけた。
38歳の匠は、ボロボロのダウンジャケットを着ていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 1 -
完結第10話
消えた弟と制服の父
1991年3月、群馬県の山間にある静かな村で、2歳の木島拓也が自宅の前庭から忽然と姿を消した。 父は警察官。母は家の中にいた。庭にはおもちゃのトラックだけが残され、足跡も、争った跡も、手がかりらしいものは何も見つからなかった。 大規模な捜索が行われても、拓也の行方は分からない。やがて事件は迷宮入りしかけるが、父・洋介の行動にはいくつもの小さな違和感が残っていた。 予定より長すぎたランニング。説明のつかないパトカーの走行距離。外したはずの銃弾。そして、父の後ろ姿を見ていた4歳の姉・香織の沈黙。 それから3年後。 成長した香織は、悪夢の中で何度も同じ光景を見るようになる。 「パパが、拓也を傷つけた」 幼い記憶の断片が少しずつつながった時、消えた2歳児をめぐる事件は、思いもよらない形で再び動き出す。 前庭から消えた子どもに、本当は何が起きたのか。 そして、家族が3年間口にできなかった“あの日の真実”とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 44 -
完結第12話
20年目の神隠し夫婦
2004年、奄美大島へ新婚旅行に訪れた木村俊介と伊藤しおりは、宿泊先の民宿から忽然と姿を消した。 部屋には開いたままの旅行鞄、起動中のノートパソコン、携帯電話、財布、そして現金まで残されていた。最後に確認されたのは、しおりがブログに投稿した「明日はもっと素敵な1日になるはず」という幸せな言葉。 しかし、その夜を境に、2人の足取りは完全に途絶える。 事故なのか、事件なのか、それとも自ら消えたのか。家族は誹謗中傷に苦しみながらも、わずかな手がかりを追い続けた。だが、茶色い革の鞄が見つかっても、真実にはたどり着けないまま、20年の歳月が流れていく。 そして2024年、遠く離れた異国の小さな漁村から、信じられない知らせが届く。 20年前、奄美の夜に消えた新婚夫婦は、そこで何を失い、何を守り続けていたのか。 長すぎる空白の先で明かされるのは、愛する人を想い続けた家族と、帰る道を忘れなかった2人の物語。ミステリー|行方不明1.8萬字5 13 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 18 -
完結第9話
317号室の隠し壁
1996年9月15日、熱海のホテル・スカーレットローズから、3人の客室乗務員が忽然と姿を消した。 チェックイン後、彼女たちは3階へ向かうエレベーターに乗った。防犯カメラには、笑い合う3人の姿が残っていた。だが、その直後、3階の廊下カメラだけが不自然に停止する。 翌朝、部屋のベッドは整えられたまま。スーツケースも制服も手つかずで、彼女たちが部屋に入った形跡すらなかった。 それから28年後。 解体予定のホテルで、作業員が317号室の壁を壊した時、存在しないはずの“隠し空間”が見つかる。そこに並べられていたのは、3足の靴、3つのバッグ、そして消えた客室乗務員たちの社員証だった。 なぜ所持品だけが壁の奥に封じられていたのか。 彼女たちは、あの夜どこへ消えたのか。 そして、28年間沈黙していたホテルの壁は、まだ語っていない何かを隠していた――。ミステリー|行方不明1.4萬字5 40