"嘘葬りの豆腐店" 第12話
誰もへ入れなかった。
真が来ても、ボイラーにを入れることはなかった。
そうして6が流れた。
静は秘密を墓まで持っていくつもりだった。
けれど皮肉にも、彼女が命がけで守った息子の徹也が、の権利をへ差しした。
母親が嫁のに座ってまで守り抜いたそのを、ギャンブルの借で失ったのだ。
ショベルカーがボイラーを壊した瞬、6眠っていた真実の計は再びきした。
1998、戸方裁判所の刑事法廷には、苦しい沈黙が漂っていた。
傍聴席はで埋め尽くされていた。商の々、報関係者、そして事件をって集まった見らぬ々。全員の線が、被告席に座る3へ突き刺さっていた。
裁判が鏡をかけ直し、判決文を読みげた。
「被告、静を懲役15に処する」
乾いた声が法廷に響いた。
静は俯いたまま、ほとんどかなかった。ただ、錠をかけられた両だけがさく震えていた。
「被告、徹也を懲役7に処する」
徹也は唇をく噛みしめた。その目に反省のはく、満とりだけが滲んでいた。
「被告、介を懲役3に処する」
介は肩を落とし、声を殺して泣いた。
判決が終わると、傍聴席からざわめきが起こった。記者たちは帳に判決内容をき込み、フラッシュを焚いた。
広告
法廷をた、3は刑務官に連れられて廊を歩いた。
その途、静が突然ち止まった。
彼女の線の先には、すぐを歩く徹也の背があった。
「徹也」
ひび割れた声が、廊の空気を震わせた。
しかし徹也は聞こえないふりをして歩き続けた。
静は刑務官の制止を振り切るように、錠をかけられた両を息子へ伸ばした。
「徹也、母さんを見ておくれ。母さんはここだよ」
その、徹也がゆっくりと振り返った。
彼は母親を見た。
しかしその目はあまりにもたかった。赤の以の汚いものを見るような、軽蔑に満ちた線だった。
徹也はくその目を向けただけで、すぐに顔を背けた。
「きましょう」
刑務官にそう言い、護送へ乗り込む。
「徹也。徹也!」
静の叫びが廊にこだました。
だが護送のドアは無に閉まった。
静はそのにち尽くし、息子を乗せたがざかっていくのを呆然と見つめた。
を捧げて守った息子に見捨てられた母親の姿は、あまりにも惨めだった。
裁判所のロビーの片隅には、優が座っていた。
美の息子だった。
まださな体を丸め、膝に顔を埋めている。元のスニーカーはつま先が裂け、持ち主の過酷な6をそのまま物語っていた。
親戚とわれるたちが、優の横をに通り過ぎていった。
「うちには関係ないから」
広告
「関わらない方がいい」
誰も優に声をかけなかった。
しばらくして、児童養護施設の職員が優にづいた。
「優君、こうか」
優はゆっくり顔をげた。
「どこにくの?」
職員は優の肩をそっと抱いた。
「これからしくむ所だよ。友達もいる。きっと丈夫」
優は力なくちがった。
裁判所のには、の差しがり注いでいた。けれど優には、そのの温もりは届いていないようだった。
母はたいのから戻ってきた。
しかし、もう度と抱きしめてもらうことはできない。
父と祖母は刑務所へった。
世界に1残された優は、空を度だけ見げると、施設のに乗り込んだ。
がりし、のさな背はざかっていった。
数、乾物の女将、恵子が優の暮らす施設を訪れた。
彼女は園で、古びた通帳を差しした。
「毎しずつですが、奨学を送りたいんです。優君あてに」
園は驚いた顔で通帳を受け取った。
「ご親戚でもないのに、ここまで……」
恵子は目元を拭った。
「私が罪だからです。6、すぐ隣にんでいながら、見て見ぬふりをしました。怖くてを塞ぎ、目を閉じてきてきたんです」
涙がこぼれた。
「これくらいしないと、美ちゃんに申し訳がちません。どうか受け取ってください」
園は恵子の荒れたを温かく握った。
「そのお気持ち、優君にとってきな力になるはずです」
季節は流れ、暑いになった。
劇の現だった豆腐は、完全に解体された。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 135 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 576 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 226 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 1147 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 377 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 345 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 415 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 795